第44話 ドライブ
「いらっしゃいませ」風光明媚の店内に入ると、従業員の
いつもの接客を受けて、私の心はさらに落ち着きを取り戻す。まだ頭は痛いけれど、少しずつマシになっていくだろう。
店内には一組のカップルがいた。前も見た……女性が楽しそうに話して男性が聞き上手なカップル。どうやらこのカップルも風光明媚が行きつけらしい。
私たちは奥のほうの席に座って、それぞれ注文をする。私はいつものオムライス。
「今日はごめん……」注文を終えて、私は
「い、いえ……」
「そんなこと……」
「いえいえ……」
「その……」
「あ……えっと……」
グダグダになってきた。さっきまでは酒の勢いで会話できていたけれど、今の私は正気だ。正気に戻った結果、いつものコミュニケーション能力がない私が顔を出していた。
とはいえ……相手は後輩だ。ちょっとくらい見栄を張りたい。
「よし……この話、おしまい」
「え……?」
「このまま謝罪とお礼を言い合っても意味ないし……お互いに反省して、お互いに感謝して……それで終わりにしよう。するなら、別の話にしよう」
「す……」すいません、と言いかけて
「あの……ここの従業員さんって……
「え……? そ、そんな名前だったと思うけれど……」
なんで知っているのだろう。そりゃ名札がついているから名前を知ることはできるかもしれないが……
「やっぱり……」少し、
「あ、うん……」直接お会いできるなんて……? 「……
「有名人……一部の界隈では有名ですよ」一部の界隈とはなんだろう。「私……高校時代にバスケットボールをやってたんです。といっても私自身は運動がからきしで……ずっとベンチで応援してたんですけど……」
運動部だったのか。そういえば……曲がりなりにも私を背負って電車から降りて駅を出たんだよな……そう考えると体力はあるのかもしれない。
「私の学校のバスケ部は別に強くも弱くもなくて……でも、練習試合に誘われて。その練習試合の会場で
冤罪を疑われた人を助けた……その言葉を聞いた瞬間、同じお店にいるカップルの男性が一瞬だけ目線をこちらに向けた。もしかしたら彼にも覚えのあるエピソードだったのかもしれない。
そしてカップルの女性のほうが、納得するように何度もうなずいているけれど……どうしたのだろう。まさか彼女も
「個人技もすごいんですけど……パスがすごいんですよ。試合全体を俯瞰してるような視野の広さがあって……」熱を帯びてきた
「う、うん……
「ドライブがすごいんです……」ドライブってなんだろう。「速いし正確だし変幻自在だし……しかもパスもうまいし……
さらに、
でもまぁ……
それにしても……
……ちょっと面倒くさ……いや、好きなことを語るのは良いことだ。私も
……暇があったら、バスケの勉強でもしよう。全然会話についていけない。
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