第21話 似た者同士

 ゆきさんのその言葉は、私が求めていた言葉だったのかもしれない。それとも、そうでもないのだろうか。求めていた言葉と、まったく正反対だったのだろうか。


 いや……違うな。私はゆきさんの言葉を求めていた。


『なにがあっても手に入れろ』


 好きな人ができたのなら、それだけでいい。どんな困難が待ち受けていても、必ず手に入れる。それくらいの気概がないといけない。


 結局私は、背中を押してもらいたかったのだろう。ゆきさんなら、私の背中を押してくれると思っていたのだろう。いけない道に引きずり込んでくれると思っていたのだろう。


 本来、この恋はしてはいけない恋だ。勘違いの恋だ。みなとさんの優しさはサービスの優しさで、その優しさに恋をしてはいけない。幻想に恋をするようなものだ。


 だけど……だけど……ちょっとだけ逸脱してもいいだろうか。ちょっとだけ強引になってもいいだろうか。今まで臆病だったから、少しだけ……


「良くないアドバイスするよ」ゆきさんは言う。「私がやってるのは……一般的にストーカーと呼ばれる行為。彼のことを追いかけ回して、場合によっては危険な目にも合わせてる。彼ら彼女らが優しいから、私は生かされてるだけ」


 だけどね、とゆきさんは続ける。


「捕まったっていいんだ。その結果他人が苦しもうが、私がどうなろうが知ったことじゃない。彼が私に興味を持ってくれるのなら……それだけでいい。呆れられても、いいんだ」


 まだ私はそこまでは吹っ切れていない。犯罪行為に手を染めるつもりはない。まさかそこまでゆきさんが病んでるとは思わなかった。


 ゆきさんは……大学時代もモテていたのだ。でも……だんだんとゆきさんから人が離れていった。風のたよりによると『病んでる』とか『危険人物』とか言われていたらしいけど……その理由を今このとき知った。


 この人、ヤンデレなんだ。ちょっと相談する相手を間違えたかもしれない。


 でも……今の私に必要なのはこの強引さだ。ゆきさんほどではないけれど、少しばかり強引になってもいいかもしれない。


笑美えみがどんな相手に恋してるのか……それは知らないよ。どれくらい、その相手に熱狂してるのかもわからない。でもね笑美えみ……」

「なに?」

「私が笑美えみと友達になれた理由……それを思い出したよ」

「え……?」


 理由……? そんなの……特になかった気もする。たぶん1年生のときに同じ講義を受講していたとか……そんな理由でしかないような気がする。それでなんとなく友達になって、なんとなく一緒にいただけな気がする。


 だけれど、ゆきさんからすれば違うらしい。


 ゆきさん、いわく。


「私と笑美えみは、同じ匂いがしたの。きっと私とあなたは……似た者同士だと思う」

「……私とゆきさんが?」思わず吹き出しそうになってしまった。「まさか……そんなわけないよ。むしろ、正反対じゃない?」

「最初はそう見えるかもね……でも、根っこのところはおんなじ」

「……そう、かな……?」

「うん」やけに確信を持って言い切るんだな。「そろそろ、わかると思うよ。私の言ってることが、理解できると思う」

「はぁ……」


 いまいち実感できない話だった。ゆきさんと私が似た者同士? そんなことはないだろう。

 ゆきさんは容姿が良くて、こちらから仕掛けない限り優しくて、頭が良くて……それで運動音痴でヤンデレで、おそらく法を犯していて……って、案外完璧超人でもないんだな。悪いところが豪快すぎる。その危険度も、彼女の魅力の1つだけれど。


「まぁ別に、やり方なんてまかせるよ」ゆきさんはメロンソーダを飲み干して、「その人を諦めちゃってもいいし……他の人を探してもいいし……一生恋をしないと決めて生きるのもOK。笑美えみが、自分で決めればいいんだよ」


 私が自分で決める、か……そりゃそうだろうな。最終的に決めるのは私だ。ゆきさんに相談に乗ってもらうのはいいけれど、最終決定権は私にある。私にしかない。


 ……どうしようかな……ちょっとだけ強引に行くことは決まったけれど……どう強引に行動すればいいのだろう?

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