あなたのすべてを肯定します。一時間3500円交通費込み(犯罪行為や誹謗中傷、公序良俗に反する行為は肯定しません。また、個人情報の開示は一切しておりません)
嬉野K
全肯定
あなたのすべてを肯定します
第1話 常識だろ?
サービス提供者とただの客。それだけの関係で満足していればよかったのに。そうしていれば、少なくともこんなことにはならなかっただろうに。
☆
ため息。一言で言えばそれで終わり。
しかしため息というものも、聞き慣れるといろいろな感情を表現していることがわかる。私はよくため息をつかれるので、ため息だけで相手の感情が読み取れる。
「はぁ……」眼の前の私の上司が、呆れのため息をつく。「
「……すいません……」
別にこの名前に生まれたかったわけじゃない。同じアオキなら、青木が良かった。なんで鬼なんて、私には似合わない漢字が入っているのだろう。
「お前さぁ……」上司の言葉はまだ続く。「入社して、そろそろ1年だろ?」
「はい……」
「なのに……こんなこともわかんない?」
「こんなこと、とは……なんでしょうか……」
「はぁ……」
またため息。今度は失望のため息だ。
こんなこと、と言われても本当にわからない。そもそもなんで私は今、こうやって怒られているのだろう。命じられた仕事はこなしたはずだ。
しかも……こんなオフィスのど真ん中で怒らなくてもいいのに。他の社員もみんな見てる。クスクス笑いながら、こっちを見ている。その視線だけで心が焼ける。修復不可能なくらい焼かれていく。
いっそのこと、心なんてこのまま壊れてしまえばいいのに。中途半端に回復しようとするから気が狂いそうになるのだ。完全に吹っ切れてしまえばどれほど楽なのだろう。
「掃除とお茶出しと買い出し」
「……?」
「常識だろ? その手の雑用は、新人の女がやる。今どきそんなこともわからないのか?」
今どきそんなことを言ってるんですか?なんて反論ができるわけもない。言ってやりたいが、そうしてしまえば私の首を絞めることになる。
「申し訳ありません……」とはいえ、このまま黙っておくほど私は仕事ができる人間じゃない。「ですが……今までそんなことは……」
この会社に就職して1年が経過しているが、はじめて言われた。もちろん掃除や買い出しを頼まれることはあったが、それは直接命令として、仕事として頼まれていた。暗黙の了解としてやれなんて言われたことはない。
それに……お茶はみんな持参してる。客人が来たときも、私はお茶出しを頼まれない。
「言わないとわからないのか?」そりゃわからないだろう。「とにかく……今すぐお茶をもってこい。それからプリンターのインクと……適当に菓子を買ってこい」
「……」それは私の仕事なのだろうか。まぁ無能に与えられる仕事としては……良いかもしれない。「わかりました……」
「ああ……それからな」上司はA4の紙の束を取り出す。私が作成した書類だ。「誰がA4サイズで作れと言った?」
「……」あなたですよ。そう言ってやりたいが、怒りモードの上司に何を言っても無意味なことは私の心に染み付いている。「……誰かに言われたと、思うんですけど……」
「そうか……そいつはとんだ無能だな」だから、あなたですよ。「俺への書類はB5サイズで作れ。そっちのほうが扱いやすい」
この間B5で作ったら『常識的に考えてA4だろう』って言われたんですけど……その前はA5で作れと言われたけど。まぁこの上司の理不尽は今に始まったことじゃない。ずっと耐えていれば、明日には意見が変わっている。そのときに怒られるか否かは、運次第である。
「とにかく、買い出し行って来い」
「はい……」
ああ……なんで私はこんなに無能なんだろう。他の社員は怒られずにうまくやってるのに。
……生きるって、難しい。もっと楽に生きたい。
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