十二章 合流
薄暗い森の中に緑の光が現れると、そこには赤ん坊を抱いた雪奈の姿があった。
「おや、お早いお戻りだな」
「その赤ちゃん如何したの?」
「……」
背後からかけられた青年と少年の言葉にそちらへと振り返る。
「ライチ、トーマ。それに晴義。ちょうどいいや。この子お願い」
「まさか……我に子守をしろと言うのか?」
赤ん坊を差し出してくる彼女の様子に男性が顰め面で尋ねる。
「……」
「事情は帰ってきたらしてもらうからな」
「気を付けてね」
問答無用で赤ん坊を差し出された晴義が抱き上げると、ライチとトーマが口々に言う。
「じゃ、行ってくる」
雪奈は小さく笑むと緑の煌きに包まれ星を渡る。
その頃雪奈が離脱した後、トーマは千代達を連れて空船へと戻っていた。
「でも、雪奈がいないのに空船を動かせるの?」
「えぇ。問題はありませんよ。彼女の魔力が残っていますので次の目的地までなら飛行できます」
千代の問いかけに彼が答えると空船を浮遊させるため操作する。
「雪奈、どこにいったですか?」
「知り合いに預けてくるって言っていたけど、この世界に知り合いがいるはずはないよな」
ライトの言葉に続けてサザも聞いてきた。
「さて、ね。雪奈は俺達と違ってこちらの世界に詳しいみたいだったし、もしかしたら知り合いがいるのかもしれない」
「トーマとも知り合いみたいな感じだったしな。もしかして雪奈はこっちの世界から来た人だったりして」
風魔の言葉に続けて柳も茶化すように話す。
「今ここで論じていても何の解決にもならないだろう。それよりもこれからの事について作戦を立てた方がいいと思う」
「作戦と言うと?」
忍の言葉に布津彦が首をかしげて問いかける。
「今までは雪奈やトーマが前線に立ち戦ってくれていたおかげで煉獄、悪鬼、怠婆を倒すことが出来たが、これから先はそうもいかないだろう」
「鬼も強い奴が残っている……そう言う事ね」
「私達では互角に戦えるかどうかも分からないですよね」
彼の説明に胡蝶が真剣な顔で言うと麗も不安そうに瞳を歪めて呟いた。
「だからこそ作戦を立てた方がいい……ってことだね」
「そうだ。今までのように何とかなる相手とは限らないからな」
千代も真剣な顔で考えると忍が小さく頷き答える。
「トーマ。残っている無羅と影鬼について詳しい話を聞かせてもらえないかな」
「分かりました。毒霧の無羅はその通り名のとおり毒霧で相手を病ませて苦しめそして死に至らしめる厄介な鬼です。彼の納める土地は皆毒霧の影響で人々は病に倒れている事でしょう。そして幻影の影鬼……奴は人が一番見たくない幻覚を見せて狂わせ、操ってしまう厄介な相手です。皆さんも奴の幻影にかからないように気を付けて下さいね」
「毒霧の無羅は何とかできそうな気がするけど、幻覚の影鬼って奴は厄介な相手かもしれないな」
風魔の問いかけにトーマが説明すると柳が顎に手を当て考え深げに呟く。
「そうですね。まずは二対の竜神の下へ向かいましょう。彼等なら何か策を考えてくれているかもしれませんからね」
「その竜神のいる所にはあとどのくらいかかりそうなの?」
彼の言葉に千代が尋ねるとトーマがふっと微笑む。
「もう間もなく到着致しますよ。この辺りは竜神の力により守られておりますので皆様も安心して過ごせることでしょう」
彼の言葉に皆安堵して吐息を漏らす。
「ここまで戦い続きでしたので、暫くこの地で休息して参りましょう」
船を近くの山の頂上に停めるとトーマがそう言って各々久々にのんびりとした時間を過ごす。
そうして一日休んだ後、いよいよ二対の竜神に会うため彼等が住む太古の森へと向けて足を進める。
太古の森があるのはかつて栄えた瑠璃王国の跡地の近くで古い遺跡が数多く残っていた。
「ここが太古の森?」
「空気が澄んでいる。ここは大丈夫」
千代が問いかける背後で冬夜が淡々とした口調で安心してよいと話す。
「冬夜ここが大丈夫だって分かる根拠があるのか?」
「根拠? ……う~ん。分かんない。ただ今まで感じていた嫌な気を感じないから?」
柳の問いかけに彼が首をかしげて疑問形で答える。
「聞かれたってオレ達じゃ分かんねぇよ」
「でも、確かにここに来てから鬼達の姿見てませんね」
サザの言葉にライトが鬼に遭遇していない事に気付いて話す。
「ここは二対の竜神が守っていますからね。さぁ、そろそろ森に入りますよ」
トーマが言うと先導して先に森の中へと入っていく。皆はその後に付いて行った。
暫くうっそうと生い茂る森の奥へと進んでいくと小さな祠が現れる。
『我が愛しき君……待っていたぞ』
「え?」
急に空から轟いた男性の声に千代が驚く。
『やれ、お前はまだ引きずっているのか……もう記憶も遠のくほどの昔の話であろう』
もう一人の男性の声に皆は姿を探す。すると金と銀の柱が昇り祠の上に二対の竜神が現れる。
「お久しぶりです」
『
『まだ、
トーマの言葉に金色の竜と銀色の竜がそれぞれ話す。
「えぇ。千代様達を導くために、
『ふむ。賢者様の姿がないが如何した?』
「雪奈さんとは今別行動中でして、すぐに戻ると思いますよ」
『では、それまでにこの者達に説明をしろというのだな』
金竜の言葉に彼が答えると銀竜が面倒だといった感じに溜息を吐き出した。
「あらかたの事は説明しましたが、皆様はまだ半信半疑でしてね」
「私達が輪廻転生した瑠璃王国の関係者だって聞いたけれど、それは本当の事なのですか?」
トーマが言うと千代が一歩踏み出し尋ねる。
『あぁ、本当だ。貴女は紛れもなく瑠璃王国の姫アオイ様の魂を継承している。そしてそちらにいる者達もまた……』
『あまり思い出したくない記憶だがな……』
『銀竜はそうでしょうねぇ』
『笑うな!』
二匹の竜だけで話をされても千代達には何のことだか分からず疑問符を浮かべた。
『さて、魂の覚醒はしているようですが、まだその使い方が解っていらっしゃらないようですね』
『なれば、ここで力の使い方を説明してやろう』
竜神達が言うとそれぞれ一人ずつ呼ばれ力の解放を試みる。
そうして何となく使えるようになったころに森の中に足音が響いた。
「……ちゃんと力の使い方を教わったみたいだね」
『雪奈か……』
雪奈の姿に金竜は頭を下げ、銀竜は顰め面をする。
「これからの旅はより過酷となると思う。皆は暫くここで力を付けた方がいい」
「まさか、こんな森の中でずっと野宿しろとか言うんじゃないだろうな?」
彼女の言葉に冗談じゃないと言いたげに柳が尋ねた。
「ずっと野宿が良いならそれでもかまわないけど……この近くに神殿があるから、そこで寝泊まりすればいい」
「神殿?」
雪奈の言葉に麗が首をかしげる。
「時の神殿ていってね、昔僕がよく使っていた場所だよ」
「昔使っていたって……やっぱり雪奈さんはこの世界の人なのですか?」
彼女の言葉に布津彦がさらに疑問を抱き問いかけた。
「……君達と同じで、僕も昔瑠璃王国に関係していたんだよ」
「それじゃあ、雪奈も生まれ変わり?」
「さてね。そろそろ行くよ。神殿まで少し歩くからさ」
雪奈の話を聞いて千代が問いかけるがそれにはごまかすようにはぐらかし先を促す。
そうして彼女について歩く事数時間後にうっそうとした森の奥に神殿が姿を現す。
「ここが時の神殿だよ。部屋は自由に使っていいよ」
彼女の言葉に神殿を見上げていた皆は中へと入る。
「あら、これは何かしら?」
「中に何か……っ!? 人だ」
胡蝶の言葉にそちらに近づいて装置の中を覗き込んだサザが叫ぶ。
「麗、ちょっとそっちに近づいてみなよ」
「え?」
何が面白いのかにやにや笑いながら言われた雪奈の言葉に不思議に思いながらも装置の側へと近寄ってみる。
『!?』
すると途端に麗の腕にはめられていた腕輪から光が放たれ一同驚く。
「「う……うぅ~ん」」
装置の扉が開かれると中で眠っていた双子のように顔がそっくりな女の子と男の子が大きく伸びをする。
「やぁ、よく寝た」
「ふぁぁ~。ようやく起こしてくれたのね」
男の子が言うと女の子もにこりと笑い麗の顔を見やった。
「君が起こしに来てくれる日をずぅ~っと待っていたよ」
「貴女が麗奈の末裔ね。ふふ。麗奈によく似ているわ」
男の子がにこりと笑い言うと女の子も微笑み語る。
「あ、あの……貴方達は?」
「ぼくはケイト」
「わたしはケイコ」
「「よろしくね!」」
呆気に取られていた千代だったが何とかそう声をあげると、二人がにこりと笑い答えた。
「それで、君の名前は?」
「そーそう。わたしたちの新しい主の名前を聞かないとね」
「え、私? 私は麗……です」
ケイトの言葉に続けてケイコも尋ねる。それに戸惑いながら麗が答えた。
「麗か……うん、いい名前だね」
「麗、説明するからちゃんと聞いてね」
「は、はい」
装置の中で眠っていたケイトとケイコ。一体この二人は何者なのか、これから何が語られようとしているのか千代達は戸惑いながら彼等を見詰めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます