「退屈」「ビール」「駅のホーム」

変わらない出勤、変わらない退勤、変わらない駅のホームで瓶ビールを少しずつ飲む日々、俺は刺激を求めていた。

『次は〜しえき〜しえき〜』

禍々しい電車が駅についた。

おかしいと思い後ろを見ると後ろの看板が『しえき』に変わっていた。

「しえき?なんじゃそら?」

酔いが回りすぎたかと勿論思った。ドアが開くとゾンビみたいな明らかに人ではないものが自分めがけて歩きだしてきた。

「おいおい酔いすぎだろ」

そう考え、酔い覚ましにバッグに入れてたペットボトルの水一本を一気飲みした。酔いすぎないように普段から何本か入れてあるのだ。

しかし、ゾンビも後ろの看板も何も変わらなかった。

「もしかして『死駅』か?」

ゾンビが近づいてきた。蹴りを入れてもすぐ立ち上がってきやがる。

バッグに残ってたペットボトルの水をかけるとゾンビが消滅した。

「こいつ、単体だと弱いが数が多い」

バッグの水が空になるもなんとか全部蹴散らした。

「しえき〜しえき〜」

ドアが閉じたかと思ったらすぐ開き、また同じ量のゾンビが飛び出した。

「ちくしょうきりがねぇ」

やっぱり死駅なのかここで俺は死ぬのか。

そういう考えが脳裏を過ぎり、走馬灯のようなものが浮かんだときあることに気がついた。

(この電車、ゾンビを全部倒した時にも『しえき〜』と電車の中から言ってなかったか?もしかして電車が本体か?水には弱かったが一か八かだ)

俺は持ってたビール瓶にタバコ用のライターの火を入れ電車のドアの中に投げつけた。

『しえき〜し……え……』

電車が普通の外見になり、湧いていたゾンビが全部消えた。

『しえき』という言葉は『死駅』ではなく『使役』だったのだ。

俺は危険を顧みず電車に乗った。

『次は〜へきえき〜へきえき〜』

次がどんなところかは知らないが当分は退屈せずにすみそうだ。

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