クラスメイトは厨二病。魔導少女は──
「気おつけ、礼っ」
「「「「ありがとうございました」」」」
4時間目が終わり昼休憩に入った。
「…………」
各々が昼食の準備をする中、私は正面と後ろから挟み撃ちにされていた。
すると、正面に立つ女子生徒が話しかけてくる。
「トノカ、今日はちゃんとノートを取っておるのか?」
話しかけてきた女子生徒は手に扇子を持ち、お嬢様口調で、珍しい灰色の髪をした女子生徒、
彼女は高校になって最初に話しかけられたことで仲良くなった間柄だ。
扇子を持っていたりお嬢様口調であることを考慮すると、どこかのお嬢様とかなのかもしれない。
──しかし学校まで持ってくる必要はあるの? その扇子……。
……と、学校に魔導書なるものを持って来ている
「じーー……」
そして背後に陣取るのは、さっきから執拗に視線を向けてくる特徴的な赤と桃色のグラデーションヘアーの女子生徒、望月桜だ。
彼女とは今日会ったばかりで、知っている事と言えば望月さんは私と同じように魔力の存在を知っていて、自称「神の使いの勇者」らしい。
最初「魔術使う奴はぜーいん敵!」みたいな過激な考え方を持っていたようだけれど、話せばちゃんと分かってくれたし、悪い人ではなさそうだ。
しかし、まさか同じ学年同じ教室、そして真後ろに来るとは思っていなかった。
「あ、そういえばトノカよ、後ろの望月とやらとは知り合いなのか?」
不意に、
「ま、まあ……今朝あったばかりなので知り合いって程じゃないですが……。なぜそう思ったんです?」
「おや、気づいてなかったのか? こやつ、自己紹介した時からずっとおぬしを監視していたのだぞ?」
「あ…………やっぱそうだったんですね……」
京のの改めミノノが言う通り、今日はずっと背後の望月桜の視線が刺さっていた。
それゆえに授業に集中できず……。
机からノートを出し最新のページへ、本日の日付「5月14日」と書かれたページを開く。
「……トノカ、まさかこの白紙のページは無限大の可能性を意味しておるのか?」
「…………それは名案ですね、そういう事にしておきます!!」
開いて見せたノートにはほとんど内容が書かれていない……。
もはや恒例と言っても過言ではない光景に、「やれやれ……」と首を振るミノノ。
「はあ……まったく仕方のない奴じゃ。わらわのノートを貸してやるから写せ」
そう言って、ミノノは自身のノートを渡してくれる。
「ありがとうございます……」
これで何回目だろう、ミノノからノートを借りるのは。
少なくとも二日に一回はあるな。
毎度毎度申し訳ない……。
両手で受け取りながら、私は心の中で言い訳する。
──私だってどうにかしようかと頑張っているんだ。
授業に集中するために先生の一挙一動に注目したり、とにかく黒板を写すことに注力したり……果ては集中力を高める魔術を使ったりもしたんだ。
しかし結果は、なにをどうしようが睡魔に負けてしまう。
そんな有様だった。
──授業がつまらない学校が悪いんだ……。
私が学校の体制に嫌味を言っているとは露知らず、ノートを渡してくれたミノノは、「で、じゃ……」と顔が私の後席、望月桜の元に向かった。
「望月とやら、わらわはおぬしに用があるのじゃ」
「……はい?」
すかさず、ミノノは扇子をかざして言った。
「おぬし、魔法少女であろう?」
「「え……っ!?」」
突然の単語に、私と望月桜は声を揃えて驚いた。
ミノノの示した先には望月桜がいる。
そう、彼女は神に遣わされし「勇者」であり、神が定めた魔法を扱う「魔法少女」であるのだ。
それを何の迷いや躊躇もなく、望月桜だと的中させるとは……ミノノは一体何者なんだ?
もしかすると、ただただ普通に純粋な厨二病(?)で、偶然言い当てただけかもしれない。
しかし、数ある選択肢の中で、ピンポイントで「魔法少女」という言葉が意味する言葉がそう最初に出てくるとは思えない。
何にせよ、望月桜が警戒心を高めるためには十分な材料であった。
「やはり……か。その様子では図星のようじゃなぁ、魔法少女よ……!」
勝ち誇った表情で語るミノノ。
対して、望月桜は声音を落とし、低い声で聞く。
「……根拠は? 私を魔法少女だと判断した根拠はなに……!?」
振り返ると、望月桜は眉間にシワを寄せて表情も怖い。
今にも攻撃しそうだ。
しかしそうなるとかなりマズイ。
もし京ののが闇の魔道師であった場合、魔力を扱った戦いになるに違いないだろう。
そうなれば、その戦火はクラス中……いや高校全体をも巻き込んでしまうだろう。
しかしそれにも関わらず、ミノノは喜々とした口調で聞く。
「ふふふ……知りたいか? 知りたいじゃろう?」
望月桜は首を縦に振る。
それにミノノはバサッと扇子を広げ、「ずばり」と扇子を口元に持ってきて、言い放った。
「
「「────」」
その瞬間、3人の間には静寂が訪れた。
そんな空気感の中で、私は心の中で嘆く。
──そういえばこの人も(重度の)厨二病だった……。
と。
基本的に厨二病はありもしないことを、自分勝手な妄想によって創造してしまう生き物である。
(実際私もそうだった)
それに存在しないことを勝手なこじ付けで判断するため、きっかけはあれど大体の発言や決めつけに明確な根拠はない。
大抵の決めつけは突発的な勘とその時のテンションによるものだ。
それはどの厨二病にも共通すること。
しかし、今回に限ってはその「勘」は的中している。
ゆえに、単なる「勘」によって自身の正体を「魔法少女だ」とバチ当てされた望月桜は納得がいかない様子だ。
「…………え、と……つまり……?」
苦笑いする望月桜に、ミノノは繰り返す。
「聞こえなかったか? 勘じゃ勘。」
「…………嘘は良くない。私は完璧な偽装をしてたし、それらしい挙動も行動も態度もしていなかった。それでも私の正体を見破ったのが勘だなんてありえないよ……!!」
「えぇ……」
──ずっと前の席の人を睨んでる人って、周りから見て不信感しか湧かないと思うけど……。
──今のセリフ、周りから聞いてて厨二病こじらせたやばい人としか思えない……!
今のところ全く会話に混ざれず、ほとんど傍観者みたいな立場で見ていた私はそんなことを思った。
2人が言っていることは、厨二病と普通の人の両方を経験し、魔術関係にも関わってる私には納得できる。
しかし、この現場はそれらどれかを知らない人からすると、「厨二病をかなりこじらせた人」という印象しか湧かないだろう。
すると、「コホン」と咳払いしてミノノは言った。
「……まあ正直な事を言えば、おぬしががどんな人物なのかを見極めていたのじゃ。そしたら……転校初日に
幾つもの根拠を出すミノノ。
それらはどれも筋が通っているし、説得力もある。
「ぐ……確かに……」
これには望月桜も反論できない。
するとミノノは少し声色を変え、突然私に視線を向けた。
「それに、よりによってトノカに目をつけるとは悪手にも程があるぞ」
「っ……!」
「え、なんでわたし……??」
突然話題が私に向いた。
ミノノは、おもむろに畳んだ扇子で私の頭を軽く叩く。
「何を隠そう、こやつはこのクラスの──」
そこまで言いかけてきた時だった。
「──おいっ!! グランドに魔獣を引き連れた魔道師が現れたぞ!!」
窓側にいるクラスメイトから、そんな声が飛び込んできた。
「魔獣と……魔道師が……!?」
──なぜこんな所まで!?
慌てて窓際に駆け寄る。
するとグランドの真ん中、陸上トラックの中央に顔はライオン、体は馬で背中には鷹のような翼がついた異形の魔獣。
そしてその横には、小柄な身体を真っ黒なローブで包み、どす黒いオーラを纏った魔道師が立っていた。
「あれが……」
「ふむ……」
──まずい事になった。
魔獣と言えば生半可な魔術では倒したり使役することは難しく、それを連れた魔道師ということは、かなりの魔術に関しての腕前があるという事。
まず魔術が使えない人間には対抗できない。
私が考えを巡らせていると、望月桜は私に疑惑の視線を向ける。
「……これもトノカさん……だっけ? 君が呼び寄せたりはしてないよね?」
私はすぐに首を横に振る。
「してません。……たぶんですが、魔力を悪用しようとしている人たちの刺客かもしれないです……!」
「じゃな、トノカが魔獣を使役できるとは思えんしの」
「…………」
的確な指摘に、私は黙り込む。
否定はしない。
私は昔から何故だが動物に好かれにくい。
だから魔獣はおろか普通の動物にも好かれたことはほっとんど無いのだ……。
「……いや、たとえそうであっても君が仲間に救援を要請する時間はあった。だからトノカさん、いったん魔道書をこっちに渡して。」
「えぇ……!?」
しかしまだ望月桜は私を疑っているようで、私に魔導書を渡すよう言ってくる。
そこまで信用しないのはどうしてだろう……?
昔に裏切られた事でもあるのだろうか。
それでも限度というものがあるはずだ。
一度裏切られたことがある人ならばまだしも、私とは今日会ったばかりの初対面なのに……。
「望月よ、それはいささかこじ付けが過ぎるぞ。」
「いえ、あなたもそうです。さっきから私の正体に気づいたり、まさか二人……いやこの教室全体が……」
半ば錯乱状態のように、異常なほど疑惑をつける望月桜。
極度の人間不信だ。
だから、そんな望月桜に言ってやる。
私は取り出した魔導書を握って言った。
「……そんなに信じられないならここで見ていてください。私が魔力を悪用しない人間だって、証明して見せてやります!」
「え……っ!? ま、まさかあの魔術師と魔獣を一人で倒そうって言ってる!?」
そう言って、教室を出ようとする私の手を掴んでくる望月桜。
それに向けて、私は首を縦に降った。
「そうです。そうしないと望月さんは私の事を信用してくれないし、クラスにも馴染めない。だから信用できるようにするんです。」
「だ、だからって……君は分かってない! あれは……あの魔術師わから溢れ出ている魔力量的にただの魔術師じゃない! 君程度じゃ敵わないよ……!」
たしかに、あの魔道師の魔力量はそこそこの量だ。
しかし、信用しない割にはすごい心配してくれるのは何故だろう?
さっきの様子からして、どう考えても私を心配する必要は無いだろうに。
その疑問は、ミノノが聞いてくれた。
「信用しない割にはかなり心配するのじゃな」
「そ、それは……」
言葉に詰まる望月桜。
その隙に手をほどいた私は、廊下に向けて駆け出した。
「ちょっと待っ──!?」
すぐに私を引き止めようとする望月桜を、ミノノが止めてくれる。
「行ってくるのじゃトノカ! ここはわらわにまかせろ。おぬしは全力でかましてくればよい!!」
「ありがとうです、ミノノ!」
ミノノも望月桜が魔法少女だと言い当てたため、新たに謎が生まれてしまったが、それでも彼女とは少しの期間だが付き合いはあるし、悪い人では無い事は確かだ。
私は教室から出て、中央階段に向かう。
目指す場所は屋上。
少しでも早く着くべく、全力ダッシュで──。
「間陽野さん? 校舎の中は走ってはしけないですよ???」
──行こうとしたところで、担任の先生であり、生徒指導の佐藤先生に見つかった。
「あっ、佐藤先生……で、でも急がないと……」
「走ってはいけないですよ???」
「いそ……」
「……危ないですから、ね?」
「………………はい」
笑顔という威圧感に圧され、しぶしぶ速度を遅めた。
しかしただ歩くのではなく、早歩きで。
そしてなんとか屋上についた。
眼下にはグランドと、そこにいる魔獣と魔道師がいる。
「──はぁー……」
深呼吸。
気持ちを整え、目を閉じる。
これからやる事は今まで何度もやってきた事だ。
心を静まらせて、落ち着ける。
大丈夫、私なら出来る。
魔術を使えば……!
「すぅー……」
思い出せ。
我はマビノ・トノカ。
数多の魔術を操り、街の平穏を保ち、皆の笑顔を守る者……。
今は活動は沈静化したが、かつての栄光なる力は健在なり。
私は強い、強いんだ。
だからあの程度の魔力など、雀の涙にも満たない。
私はそう……魔術を扱い、より良き未来へと導く者。
──魔導少女だ……!
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