第3話 魔法の色は何色か

敵の数に怯むも、これ以上時間をかけると状況は悪化すると思い戦いに加わる。


コマンダーを先に倒したいが逆側なので、せめてより脅威の高そうなファイターを狙う。

気づかれる前に背後から背中に剣を突き入れると、剣は胸を貫き一撃で倒すことに成功する。

ここからは速度が求められる。

剣をゆっくり引き抜くと、ファイターが倒れて音を立てる前に隣のゴブリンを薙ぐ。

2体のゴブリンが倒れる音で近くのファイター1体が反応するもこちらを向いた直後に袈裟斬りに。


「援護する!」

「誰だかわからんが感謝する!」


大声をあげてゴブリンの注意をひく。ゴブリンの意識を分散させ2人の負担を減らす。


「オオオォ!」


気合を入れ、ゴブリンに連携される時間を与えずにゴブリンを倒していく。

森の木に剣を取られないよう大振りをせず、足捌きを意識し次々と倒していく。

4体目を倒し5体目の首筋に突きを入れ倒したと思ったところ、

側面から剣が伸びえているのが見えた。


「クッ!」


(いままでのゴブリンより早い!?長剣持っているからファイターか!)


ステップして躱そうとするが脇腹をかすめ出血する。

初手で気づかれる前に2体倒していたので分からなかったが、

ファイターは武器の違いだけでなく能力も高いようだ。

脇腹に熱を感じるも戦闘の興奮からか痛みは無かった。

すぐに体を屈め足払いをすると、見事に決まり背中から倒れる。

倒れたファイターに剣を突き刺すとファイターの剣を奪い投擲する。

こちらに向かってきていたゴブリンに刺さり、振り向きざまに更に近づいていたゴブリンも仕留める。



「ハァ、ハッ、ハッ、、、」

(どれだけ倒した!?)


近くにいた自分に向かってくるゴブリンを倒しきると息を切らせ味方と敵の戦況をみる。


そこには20近い倒れたゴブリンの姿と、傷つきながらも健在な2人の姿があった。

さきほどまで包囲されながらも牽制で動きがあまりなかったゴブリンだが、

悠樹が参戦したことで戦いは大きく動き、男2人に対し一気にゴブリンが襲い掛かっていた。

多くのゴブリンが倒されたが、体力は削られ、更なら負傷も負った。

そこへ残ったファイター3体、コマンダー1体が襲い掛かっていた。


(これだけ倒せたんだからあとは2人だけでも勝てるんじゃ・・・)


斬られて出血した腹を押さえて2人を期待して見守るも、

明らかにゴブリン側が優勢のようだ。


(後ろからコマンダーを狙えるか?)


全力で走りコマンダーの背後に回ろうとする間に、

2人の男はそれぞれ1体ずつファイターを仕留めるもその隙に残りのファイターとコマンダーから攻撃を受ける。


「アリー!」


アリーと呼ばれた男へコマンダーが致命的な攻撃を繰り出すも、

叫んだ男が間に入り庇う。

だがそれは罠だったのかコマンダーの顔がニヤリと嗤ったように見えた。

そしてコマンダーの剣は軌道を変え男の腹を横に薙いでいた。


「グッ!」

「ダーレー隊長!」


アリーは隊長が斬られたことに動揺し残っているファイターの存在を忘れていた。

ファイターから隊長に向かおうとするアリーの背中へ剣が振り下ろされる。


「間に合え!」

「キシャッ!」



牽制になればいいと思って投げた剣がファイターに投げた剣が胸に刺さってそのまま倒れる。

数だけで言えば残りはコマンダーだけだが無傷のコマンダーに対し、

重傷のダーレー、傷だらけで体力を削られているアリー、武器を手放した悠樹。

果たしてどちらが有利だろうか。

コマンダーは一番ダメージが少ない悠樹が剣を手にすれば脅威と考えたのか、

悠樹へ一気に間合いを詰めてくる。


「速!って俺に来るのかよっ!」


間合いを詰められ次々とコマンダーから剣が振るわれる。

攻撃を10回ほど躱すと一旦攻撃は止み、構えたままお互い様子見のような形で膠着する。

ゲームでは回避してカウンターを何度もやったことがあるし、

攻撃速度を見ても十分対応できるように思えた。

だがゲームでは失敗しても体力が削られるか、あるいは死んでもやり直しできる。

でもここで失敗するとおそらく死ぬ。

そんな実戦のなかでギリギリで回避して攻撃に転じるという気持ちにはなれない。

一か八かの状況なら覚悟を決めてやったかもしれない。

だが躱すだけなら大丈夫という状況がより悪い結果を迎えることになる。

何度かの牽制の攻撃を避けているのは当然、バックステップやサイドステップだ。

森の中には柔らかい土もあれば木や石も落ちている。

そのどれかだったか、あるいは連戦による疲れからか悠樹は足を取られ転倒する。


(まずい!)


完全な無防備なところへ剣が振り下ろされる。


「シャーッ!」


(死ぬ!剣があれば勝てたのに。剣が無くても魔法が使えてたら・・・)

(魔法、ゴブリンも使ってたよな・・・魔法がある世界なら俺も使ってみたかったな・・・)


死ぬ直前は時間がゆっくり流れるように感じる。

映画やアニメで見てきた感覚を自分が感じるとは、実際にあるんだと感心しながら悠樹は振り下ろされる剣を見つめる。


(諦められるか!)


「っ!腕ならやるよ!」


咄嗟に腕を出し頭を守る。腕は使えなくなるかもしれないがポーションなんてあるのだ。

あるいは回復手段はどうにかなるかもしれない。

少しでもダメージを減らそうと、そして少しでも相手の体勢を崩せないかと、

剣が腕に当たる刹那、腕を横に払い剣を捌こうとする。


「くっ、ぐぅぅぅ、、、!」


斬られた痛みから呻き声をあげる。


(えっ、痛いけど、痛いけどこんなもんか?思ったほどじゃない?)


最悪、腕の切断。それに近いかなりのダメージを覚悟していたが、

腕を見ると出血はしているがさっき腹を斬られたよりは少し深いかといった程度で、

何度か手を拡げ握るを繰り返すも大きな問題は無さそうだ。

腕のダメージが少ないことに気を取られていたが、コマンダーが追撃してこないことに気づく。

すると数mに木にぶつかったのか武器を落としてこちらを見るコマンダーの姿があった。


(何があった?体勢くずすレベルじゃなく吹き飛んでる?)


理由はわからなかったがこのチャンスを逃すまいと負傷している男たちの剣を拾いに駆ける。


(体が軽い!?)


疲れや負傷で遅くなるならわかるが、自分が万全の状態でもありえない速さで駆け抜ける。

剣を拾って振り向くとようやくコマンダーは立ち上がってこちらに向かってくるところだった。

走り抜ける勢いそのままに剣を横に振るとコマンダーに防がれるが剣をはじくことに成功する。


(力は向こうが上かと思ったけど・・・)


さっきから自分の想像以上に体が動く。

追い込まれてアドレナリンが出てるからとかそういったレベルではなく、

身体能力が大きく上がっているように思える。


「終わりだっ!」


剣をはじかれ腕を上げた状態で無防備になったコマンダーの腹に横に薙いだ剣を切り返して攻撃する。


(なんとか勝てたか・・・)


戦いは終わった。この状況でそう思うのも無理は無かった。

だが相手は魔物であり、この世界には魔法がある。

無防備な相手を斬ったとしてもそれで死ぬとは限らないのだった。

現に今、コマンダーの腹には5cmほど剣が埋もれていたが、その目は憎悪が浮かびまだ力が宿っていた。


「なっ!まだ生きて!?」


「グォォォ!」


コマンダーは剣を腹にめり込ませたまま、落とした剣を拾わず悠樹へ殴りかかる。

咄嗟に剣を離してしまい腕を交差してガードするも地面に倒れされる。


「ぐっ!!」


顔をあげると腹の剣を抜いて振り下ろしてきていた。

コマンダーも傷からか動きが遅くなっており、体を転がしそれを回避に成功する。


(さっきは同じ体制で捌くだけじゃなくて吹き飛ばせたよな)

(何をした。一度できたのならもう一度できるはず。考えろ、考えろ、、、)

(さっきは追い詰められて、剣は無いけど魔法が使えたらと考えて必死に手を出して、、、)

(魔法?魔法を使った?ゴブリンが使うみたいに光の弾は出てない・・・)

(見えないけど吹き飛んだ?念動系?剣を引き寄せられる?)


「いや!風だ!」


再び振り下ろそうとしていたコマンダーへ手をかざし風をイメージする。

風の塊がコマンダーに直撃し数m吹き飛ばす。

剣と体を吹き飛ばされ、地面を転がるもまだ立ち上がろうと体を起こす。


「まだか!ならっ!ウインドカッター!」


自分がイメージし易い、ゲーム内でも使った呪文を声に出し手を振るう。

風の刃がガードしたコマンダーの交差した手に直撃する。

腕を切り傷を作ったが致命傷には程遠い威力だった。

だが突風で得た距離と、ウインドカッターで足を止めるだけで十分だった。

呪文を発した直後立ち上がり剣を拾い間合いを詰めることに成功していた。


「今度こそ終わりだ!」


油断なく、全力で突き入れた剣は、コマンダーの胸を貫きようやくこの戦いは終わったのだった。


「助かった、、、のか、、、」


息を切らせながらその場にへたり込んで一息つく。


(あの二人は無事か?ああ、早くタークさんのとこへ行かないと、、、)


もっと休みたかったが武器もなく負傷して助けを待つタークの救助と、

何より自分自身も安全な場所に行きたいのもあり腰をあげる。


「あの、えっと大丈夫ですか?ダーレーさんの仲間の方ですよね?」


「・・・ああ、ダーレーは生きているのか。良かった・・・」

「まずは礼を。俺はバルセロナ騎士団所属のダーレーだ。隣は部下のアリー。」

「タークは無事なのか?よければ案内してくれないだろうか。」


(バルセロナ?スペインのバルセロナ?同名の都市?)


二人はよろめきながらも立ち上がる。

正直立てるなら援護して欲しかったが、今言っても仕方ないので話しを進める。


「すまないな。傷がまだ完全に塞がってないのと、血が足りず歩くのが精いっぱいだ。」

「もう少しポーションがあるから使ってくれ。」


革袋を手渡されたので、タークさんが使っていたのを思い出し少し飲んで腹の傷にかけた。


「っ、ありがとうございます。」


傷に少ししみたがその後、それまで感じていた痛みはひいていった。


「タークと合流して村へ戻ろう。その前に魔石の回収はせめてコマンダーとマジシャンはしなくていいのか?」


(魔石?)


いままで必死に戦っていたので気づかなかったが、それまで戦って倒したゴブリンの死体が無かった。

かわりに紫がかった石?結晶?のようなものがあちこちに転がっていた。


(コマンダーを倒したところにあるやつは少し大きいな?)

(あっちにも少し大きいのがあるけどあれがマジシャン?)

(換金できるのか、討伐の証明用なのかとりあえず回収しておくか・・・)


何個か大きいものを回収しているとダーレーが再び声をかけてきた。


「すまんが、ゴブリンとファイターの魔石は明日以降でいいか?」

「仲間の合流と安全の確保を優先したい。勿論魔石以外の礼も約束する。」


「すみません。タークさんのところへ案内します。」

「と言っても、正確な場所は自信ないですが街道の反対側でそんなに遠くないです。」


「よし行こう。それにしてもコマンダーを倒すなんてやるな。」

「うちの部下たちでは無理だろうな。」

「村の者じゃないと思うがハンターか?」


(自分の状況を正直に言って大丈夫なのか?ひとまずごまかすか?)


「ええっと、住んでたところ一人で出たので大きな街で仕事探そうかと・・・」

(嘘は言っていない)


「そうか。それだけ強いってことは魔物と普段から戦っていたのか?」

「ああ、、、そういえば最近、近くの開拓村が魔物の群れに襲われたと聞いたが、、、」


「・・・・」


沈黙を肯定ととったのかダーレーが気まずそうに続ける。


「あー、だったらバレンシアでハンターになると良い。」

「もし騎士団に興味があるなら推薦しよう。」」

「市民権も出せるように上とかけあってみよう。」

「なに、命の恩人だしさっき言ってた礼だ。それに強い者は歓迎だ!」


「すみません。いままで外に出たことが無かったので詳しくないんですが、バルセロナはどれくらい大きな街ですか?」


少しでも情報を集めようと尋ねる。


「イスパニアで一番大きい街はマドリードだな。あとは遷都前の王都だったセビリアや迷宮都市グラナダとかは大規模な街だ」

「バレンシアもそれくらいの大都市だ。最近はマラガも遠征軍相手の商売で賑わってるようだが。」


(イスパニア、、、他の地名からしてもスペイン確定か。)

(だが少なくとも自分の知るヨーロッパとは違う。)

(そもそも時代が現代じゃない。そして魔物、魔法の存在、、、)


自分の状況を改めて考えているとタークさんと別れたあたりに近づいてきた。


「この辺りだったと思います・・・」


「ターク!いるなら返事をしろ!」


「!?大声を出して大丈夫ですか!?ゴブリンがまだいたら大変ですよ!」


「いや、コマンダーを倒したから当分は大丈夫だ。」


専門家?が言うなら大丈夫なのだろう。歩きながら何度目かの声掛けで返事が返ってきた。


「隊長!こっちです。」


「無事だったか、こっちは二人やられた・・・」


「そうですか・・・弔ってやらないといけませんね・・・」


「そうだな。だが全員満身創痍だ。暗くもなっている。悪いが明日以降になるだろう。」


「おお、ソーマ。お前も無事合流できたんだな。」


「ソーマ殿が来てくれたおかげで我々は生き残れたんだぞ。コマンダーも彼がひとりで倒した。」


「コマンダーを!?お前そんなに強かったのか?」



「いや、運が良かっただけだと思います。」



「そんなことはないぞ。身体強化は安定していないが剣筋は見事だった。」


今まで黙っていたアーリが口を開く。



(あの時見る余裕があったなら援護してくれてもよかったのでは・・・)



「一対一で大丈夫だと思ったから、足手まといにならないよう自重したのだ。」



生きるか死ぬかのぎりぎりの戦いだった悠樹からしたら不本意だったが、

本心か言い訳かはわからなかったがアーリはそう評した。


それから30分ほどかけ四人は村へ戻った。

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