第23話 リリーシアは翻弄される(1/3)
翌日はパリシナ王立大学法科大学院の入学式だった。今日は単独行動なので私も専任警護のレオナルドさんも楽勝気分だ。白いシフォンのブラウスと膝丈の上品なモスグリーンのスカートを着た。その上には大学院から支給されている黒いケープコートを羽織る。金の天秤とパリシナ王国の紋章が刺繍されていて、めちゃくちゃかっこいい。すでに気分は国際弁護士だ。
入学式は法科大学院と会計大学院の合同で行われ、昨日紹介してもらった法務大臣も参加していた。
入学式のあとは説明会と交流会が行われた。私は色々な人と話をしてマクレガー製薬に連れて帰れそうな人を探した。
「レオナルドさん、今夜は会食に参加して明日はパーティーに参加するじゃないですか。最終日の夜は殿下だけが王家の晩餐会に参加されるから夜は気兼ねなく遊びに行くチャンスなんです。」
「じゃあ、非番の殿下の護衛の人も誘ってパリシナ城下に繰り出しますか?」
「侍女の人たちにも声をかけてみます。」
パリシナ王城に帰る途中でレオナルドさんと最終日に夜遊びに行く相談をした。王城に戻って声をかけると、侍女3人と護衛2人が共に食事に行くとの事だった。家庭のある大人たちはせっかくの出張を楽しみたいらしくて、別で自由時間を過ごすらしい。
翌日以降の公務は、
色眼鏡で見ている私は彼の交渉する姿がこの上なく素敵に映るわ。敵だったら憎いことこの上なかったと思うけどね。
そしてあっという間に最終日になった。今日の私達は16時で勤務は終了となり、ホクホク顔で王城に戻り出かける支度をした。
外交中のレオンハルト殿下と帯同されている護衛と文官には申し訳ないが、残りのメンバーはそれぞれパリシナ滞在を満喫する。私達はパリシナ王城のメイドに教えてもらった海の近くのカジュアルなレストランで会食することにした。
お店はガラス張りでどの席からも海が一望できる。ちょうど夕暮れの時間に入って、とても雰囲気が良かった。
「ミダスにはありそうでない感じのお店ですね。」
「パリシナはアルーノ大陸のパレインに統治されていたからか、文化的に影響を受けている部分が多いですよね。」
「食事もパレイン王国の影響を受けているみたいですね。」
「シーフード料理がたくさんありますね。」
みんな今日のお店が気に入ったみたい。料理のチョイスは女性陣が保守的なので冒険はしないみたいだ。
「イカとかタコを食べるんですね。げ!
最近、イカは流通し始めているけどタコや鰻はサルニア帝国ではゲテモノ扱いだ。鰻はアルーノでも太陽国でも食べられているらしいし、結構美味しいってオリバーお兄様が言っていたから興味があるんだけどな。
とりあえず、ピンチョスという一口サイズのつまみを5種類と男性のための塊肉を頼んだ。あと、グァカモーレをガン積みしたチキン・ケサディーヤと牛のバルバッコアも。
みんな歳も近く、一仕事終わった後の開放感で和やかに食事。
日も暮れて、お酒も3杯目で気分が良くなってきたところで、苛立った声の我々の主が現れた。
「リリーシア、書き置きだけ残して勝手に出かけて!心配をさせないでくれ。」
「ちょっと!リリーシアさん。ちゃんと殿下に相談するって言っていたじゃないですか。」
「すみません、バタバタしていて話しそびれていて・・・」
レオナルドさんは困った顔をしていて本当に申し訳ない気持ちになる。
私の右隣に座っていたマルティナさんが耳元に顔を寄せてきて小声で、
「殿下は来たらみんなが気まずくなるの分かってたけど、夜会でのこともあってリリーシアさんのことが心配で来たんですよ。多分、居心地が悪いと思うので早めに抜けてください。」
と言った。マルティナさんは席をレオンハルト殿下に譲り、お店の人に席をセットし直してもらった。みんなお酒が入ってるからか、殿下が参加してきてもそこまで緊張した様子もない。レオンハルト殿下はIPAのビールを頼み、不機嫌そうに飲んだ。
晩餐会では気を張っていなければいけないから、ここで気持ちを弛緩できるといいのだけど・・・。
(かといって彼の地位を考えるとこういう場では相手を恐縮させてしまうから、心を落ち着かせる場所がなかなか無いんだろうな。)
ぼーっと考えながら私が3杯目に頼んだジンリッキーの泡を見ていると手に温かい感触を感じて驚いた。何が起こったか最初の数秒はわからなかったが、それがレオンハルト殿下の手だと分かると私の気持ちは酷く乱れた。
高鳴る心臓の音を感じながら頭の中を整理する。
(・・・どういうこと?)
レオンハルト殿下の真意は分からないが、この後の私の反応が私達の関係の分岐点になるような気がした。
手を引き離せば私は殿下を拒絶したことになり、明日からはちょっと気まずいけど何もなかったように過ごすのだろう。このまま繋いだままいれば、きっと何かが動き出す。その何かはまだわからないけれど。
選ぶべき答えは明白だ。
繋がれた右手からレオンハルト殿下の手を離そうと左手で彼の手に触れる。彼の手がピクリと動いて私の手は止まってしまった。躊躇してしまった。
次の瞬間、正しい選択じゃないとわかっているのに一度離した手を手のひら同士で合わせて指を絡ませてしまった。
(何て意志薄弱なの・・・私。)
冷静になって手を離そうとするとレオンハルト殿下は絡めた指に力を入れて捉えた手を離そうとしなかった。
テーブルの下でこっそりと手を繋ぎながらレオンハルト殿下は何でもない顔をして向かいの席のレオナルドさんと話していた。
「マクレガーさんは」
殿下の侍女のリシア・クラウソン子爵令嬢が話しかけてきた。
「はい?」
「キアヌ殿下がご執心のようでしたが、どうするつもりなんですか?」
「3日前にダンスしてからその後は何もないですよ?」
質問に対してほんの少しだけレオンハルト殿下の指が反応した。
「贈り物を用意しているって聞きましたよ。」
「えぇ!困りますね・・・」
「キアヌ殿下、イケメンだし良いじゃないですか。夜会で見初められるなんてまるでシンデレラみたいですね。」
「いやいや国際問題になっちゃいます。それに私、キアヌ殿下に全くときめきませんでしたよ。」
整った顔の人だけど私は濃い顔の人はあんまり好みじゃない。というか本能的に彼を拒絶している。
「確かにマクレガーさんには、全サルニア女性が憧れるワイマール公子がいらっしゃいますものね。」
レオンハルト殿下の指に力が入った。私はこの質問には慣れているので、何も答えずに微笑み返した。
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