第17話 パリシナ国への出張(1/2)

翌朝、いつも通り6時過ぎに起きてヨガと体幹トレーニングをしてからシャワーを浴びて食堂に行く。ちょうどレオンハルト殿下は朝ごはんを給仕されたところだったみたい。

「お粥ですか?」

「そう、シノ大陸のコンギー。色々種類があって最近ハマっているんだ。」

今朝のものは黎の朝食の定番のお粥で、鶏肉とネギにユーティオという揚げパンを乗せたものらしい。ヘルシーで美味しそうだけど血糖値が上がるかもなぁ。

私は頼んでいたヨーグルトと温野菜のサラダをいただく。

「朝から意識高い人と一緒なのはいいよね。うちの家族は自堕落だからさ。両親は朝から好きなもの食べるし、運動しないからお腹ぷよぷよなんだよ。」

殿下は朝からトレーニングしているそうだ。軍で手に入れた筋肉を維持するためだとか。でも、両陛下のお腹ぷよぷよ問題はコメントできない。話題を変えよう。

「こんな広い食堂でいつも一人で食事されていたのですか?」

「いや、リリーシアが来るからここに変えたんだ。今までは部屋かシリウス宮で家族と一緒だったよ。気に入らなかった?」

気に入らないなんてそんな恐れ多いことを思うはずがない。

「いえ、二人だけなのに広すぎるなぁと思って。」

「確かにね。でもリリーシアも親元を離れて一人で部屋で食事するのも寂しいかなーって。」

「もともとパリシナ国に留学する予定だったからひとり暮らしの覚悟はできていたんですが・・・。私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。」

「そういうわけにはいかないよ。そういえば、アディに聞いたんだけど5階の温室が気に入ったみたいだね。ここが落ち着かないなら温室に4-5人が着席できるダイニングテーブルを置いて朝食をとれるようにしようか。」

ガラス張りだし植物に囲まれて素敵な朝ごはんの時間になりそう。

「いいんですか?」

「もちろん。じゃあ、せっかくだから週末は家具を見に行こう。ずっとここに閉じこもっているの嫌だろう?」

「え!いいんですか?」

家に巣ごもりするのも嫌じゃないけど、自由に出かけられないとなると外に出たくなってしまう。めちゃくちゃ嬉しい。

「いいよ。家具屋の帰りに美味しいパスタのお店があるから行こう。プッタネスカがおすすめなんだよ。」

プッタネスカ!私が一番好きなパスタじゃないですか!

「ところで、再来週はパリシナ国立法科大学院の入学式じゃない?君にはそれに参加してもらいつつ俺のパリシナ出張に付き合ってもらいたい。」

「入庁したばかりの職員が出張ですか・・・。」

「入学式のついでという名目もあるけど、国王主催の夜会に同席してほしいんだ。」

「え?妃候補の方じゃなくて私が?」

「4人の候補で誰を帯同させるかという話になるとややこしいんだ。皇太子直属の側近の中で独身の貴族女性が君しかいないんだよね。」

4人の候補以外を帯同させるのもそれはそれで問題なような気もしますが。

「・・・わかりました。でも私、あんまりダンスは・・・」

昔は密談や駆け引きで社交ダンスを使っていたらしいけど、電話が発明されて以降はあまり重要視されていない。パーティーがあれば踊れる場所は提供されているが、社交というよりはチェスやビリヤードと同じように余興で踊りたい人たちが踊る感じになっている。

ちなみに私はあまり知らない人と触れ合うのが好きじゃないので進んでダンスしない派だ。

「うん、踊っている姿はあまり見たこと無いよね。」

シオンとお兄様たちとしか踊ったことがない。ダンスはシオンが他の人が申し込もうとすると鬼気迫った感じで追い払うから・・・。

「でもパリシナ国はアルーノ大陸パレインから独立してからそれほど経っていないから、パレイン王室のならわしを踏襲とうしゅうしてるんだ。夜会でダンスを1度は踊るのがマナー。リリーシアが参加してくれないとパリシナ国の蛇女がパートナーになるから困るんだよね。」

(蛇女・・・どんな人なんだろう。)

レオンハルト殿下は何かを思い出して、味が薄すぎるコーヒーを飲んだ人のような微妙な顔をしていた。その人のことが本当に嫌いなのが分かる。

「・・・わかりました。」

「じゃあ、今夜から特訓ね。仕事が終わって18時から!動きやすくそのまま保護区にご飯を食べに行けるラフな格好で訓練場に来てね。」

皇太子と・・・ダンス。緊張しそうだ。

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