第27話
そして迎えた喜多川くんとのお出掛け当日、彼と駅で待ち合わせたあたしは、楽しみ過ぎて約束の時刻の三十分前には到着してしまっていた。
あー、やっぱ早すぎたなぁ……でも、そわそわして家で待っていられなった!
梅雨入り前の薄曇りの空は淡い日が差していて、午後はにわか雨の予報もあったけど、概ねお出掛け日和と言えそうだ。
何を着て行こうか迷った末、あたしは鎖骨の下辺りに横の切れ込みが入った、ヘルシーな肌見せが可愛いリブ生地の黒のタンクトップを着て、その上にグリーンのメッシュカーディガンを羽織り、ミニ丈の白い台形スカートに黒いバルキーソールのスポーツサンダルを履いて、白のロゴキャップを合わせ、黒いショルダーバッグを斜め掛けにしていた。
へ、変じゃないよね?
行く場所がおじいちゃんちだし、気合入れ過ぎておじいちゃんや喜多川くんに引かれないよう、その辺りは調整したつもり……。
昭和世代のノラオは今の流行やファッションに詳しくはないけれど、『好きか嫌いかで言ったらオレは好き。いいんじゃね?』と言ってくれた。
そのノラオは今日はもしかしたら自分の弟かもしれないおじいちゃんに会いに行くことになっているのに、全くそういう実感が湧かないらしく、「
うーん、これはハズレの公算が大きいかもしれないなぁ……。
まあ、その時はその時だよね……喜多川くんもそう言ってたし。
空振りに終わったとしても、ノラオとおじいちゃんに関係がないことが分かったっていう、ひとつの成果が得られるんだから。
うんそうだ、前向きに前向きに―――そんなふうに考えていた時、視界の端にキラッとするものが映って、そちらへ視線を向けると、私服姿の喜多川くんがこちらへやってくるところだった。
時刻は、約束の二十分前。
……もしかしたら、喜多川くんもあたしみたいにそわそわしてくれていたのかな?
そんな想像をして、勝手にキュンとしてしまう。
喜多川くんは落ち感のあるベージュのシャツジャケットにオフホワイトのTシャツを合わせたシンプルコーデで、ダボっとし過ぎないテーパードシルエットの黒パンツにスニーカー姿だった。シャツの袖を肘までたくし上げていて、肩に黒系のワンショルダーバッグを掛けている。
キレイめカジュアルだ~。似合っている!
「おはよう、岩本さん。早いね」
「おはよ。へへ、何かそわそわしちゃって」
楽しみ過ぎて昨日の夜はなかなか寝れなかったし、朝も気合入り過ぎて、目覚ましより早く目が覚めたんだよね!
あたしは頬を染めて私服姿の喜多川くんを見た。
あー、私服いい! 特別感半端ない~!
たくし上げた袖から覗く腕の筋が最高ー!
「もしかして結構待った?」
「ううん。十分くらいかな。喜多川くんも予定よりだいぶ早く来てくれたから」
「オレも岩本さんと一緒でそわそわしてるっていうか、色々初めてだしちょっと緊張している部分もあって」
あー、まだうちにも遊びに来ていないのに、いきなり県外のおじいちゃんちだもんねー。
どんな感じか分からないし、緊張するよね。
今日はもしかしたらノラオのルーツに迫れるかもしれないし、それに、休日にこうして二人で出掛ける初めての日だしね!
俄然テンションの上がってきたあたしは、抑えきれないにっこにこで喜多川くんを促した。
「電車の時間までまだあるし、売店行って飲み物とか買ってよっか」
「そうだね。あと、おじいさんに何か手土産を持って行った方がいいかなと思うんだけど、好みが分からないから岩本さんに聞いてからにしようと思って。一緒に選んでくれる?」
さすが喜多川くん! しっかりしてるー!
あたしはそれに感心しながら、そこまでしてもらわなくても大丈夫だと彼に伝えた。
「そんな気を遣わなくていいよいいよ! むしろあたしがお願いして一緒に来てもらうんだし! てか、あたしそれ用にお母さんからお金もらってきてるから、一緒に選んでくれる? 二人で選んだお土産って形で渡そうよ」
「えっ、でも……いいの?」
「そんなの当たり前だよ、全然いいよー。むしろそうして? お願いだから」
そうでないとこっちが申し訳ないよ。交通費の負担とかもかかるわけだし。
「……うん。じゃあお言葉に甘えさせてもらってもいいかな」
良かった、頷いてもらえたー!
了承してもらえてホッとする。それからあたし達は出発前に駅構内のお土産店を見て回り、おじいちゃんが好みそうなものをあたしがいくつかチョイスして、その中から喜多川くんに選んでもらうという形を取ったんだけど、これがもう、めっちゃくちゃ楽しかった……!
いつもより距離が近いし、私服だし、二人で色々相談しながら、っていうのが仲良しっぽくていい!
ふあぁ、出発前から楽し過ぎる……!
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