【改良版】オアシス戦記

久坂裕介

第一話

 おっぱい歴二〇二三年一月十三日。オアシス国。約十万人のニンゲンが住む小国だが、自然が豊かで農業、工業がさかんだ。その日の季節は、真夏だった。


 まちゆく女性が、仕方なく薄着うすぎになるほどの。国中の男にとっては、まさにオアシスのような日だった。


 しかしそんなオアシス日和びよりに、この国の大佐たいさおそろしい宣言せんげんをした。

巨乳きょにゅう以外は、認めない』宣言だ。大佐の名は、グレート・マウンテン・トレジャー。略して、G.M.T.だ。


 G.M.T.は、演説をした。「この国の若造わかぞうどもに、巨乳の良さを教えてやる!」と。


 当然この国の貧乳好ひんにゅうずきは、恐れおののいた。だがG.M.T.は、巨乳アイドルのポスターを国中にり、またグラビア写真をばらまいた。


 ニンゲンの心は、うつりやすいものだ。この国にいた数少ない貧乳好きは、次々と巨乳好きになってしまった。


   ●


 あれから一カ月。俺は貧乳好きの仲間二人と共に、たった三人でG.M.T.にレジスタンスとして抵抗ていこうしていた。最初は三十人いた仲間も、次々に巨乳好きになってしまった。


 貧乳アイドルたちもG.M.T.の圧力により居場所を無くし、アンダーグラウンドで活動をしていた。俺たちは、そんな貧乳アイドルのグラビア写真をばらまき、また写真集を街中まちなかで男にくばったりもした。


 だがそんな苦労もむなしく巨乳に目覚めてしまった男たちは、二度と貧乳に振り向くことはなかった。


 レジスタンスのリーダーである俺は、思いを胸に思わずため息をついてしまった。

「はあ……」


 すると副リーダーである、ムネマサにはげまされた。

「おい。お前が落ち込んで、どうするんだよ、ユウスケ?」


 俺は、無理やり笑顔を作った。

「ああ、そうだな。すまない……」


 そして二人で、具がベーコンと卵焼きのサンドイッチを食べていると、レジスタンスのアジトであるレンガ造りの古い小屋の扉が、ノックされた。


 俺は目でムネマサに、『頼む』と合図あいずした。うなづいたムネマサは、すぐに木製の扉に近づき、ささやいた。

「貧乳は?」


 すると扉の外で、男の声が返ってきた。

美乳びにゅう


 更にマサムネは、ささやいた。

「巨乳は?」


 再び扉の外で、男の声が返ってきた。

「ただの脂肪しぼう


 安堵あんどしたムネマサは、「よし。入れ」と告げて扉を開いた。すると愛嬌あいきょうがある顔で小柄こがらな男が、小屋に入ってきた。


 俺は、微笑ほほえみかけた。

「よう、ヒグリン。お仕事、お疲れ」


 するとヒグリンは、不満を口にした。

「もう、この合言葉あいことばめません? 何か、めんどくさいんですけど……」


 俺は、説明をした。

「そう言うな、ヒグリン。この合言葉は、俺たちのポリシーでもあるんだ」


 ヒグリンは腕組うでぐみしながら、答えた。

「ポリシーねえ……」


 俺は、微笑んだ。だが、ある違和感に気づいた。

「まあ、そう言うなって。あれ? 何だそれ?」


 俺はヒグリンの半ズボンの、ポケットからはみ出ているモノを指差ゆびさした。


 するとヒグリンは、俺がおどろくほど動揺どうようした。

「え?! い、いやこれは、何でもないです!」


 俺はちょっとふざけて、そのはみ出したモノを手にした。まさか巨乳アイドルのグラビア写真って訳じゃ、ないだろうに……。


 しかし俺は、こおりついた。その、まさかだったからだ! ヒグリンはしただが、大事な仲間だ。だから俺は、出来るだけ冷静に聞いた。俺の声はふるえていたが。

「こ、これは、どういうことだ? ヒグリン……」


 するとヒグリンは、申し訳なさそうに答えた。

「オイラ、気付いちゃったんですよ。巨乳の良さに……」


 気がつくと俺はヒグリンの左頬ひだりほほに、右こぶしをたたきこんでいた。

「バカやろう! 巨乳なんて、ただの脂肪だ! 目を覚ませ、ヒグリン! ちまよったか?!」


 尻もちをついたヒグリンは、真剣な表情で言い放った。

「じゃ、じゃあユウスケさんは、巨乳をんでみたいとは思わないんですか?!」


 俺は、思いをいだきながら、言い放った。

「出ていけ……。お前はもう、俺たちの仲間じゃない!」


 ヒグリンは、ゆっくりと立ち上がると、つぶやいた。

「ユウスケさん、大人になりましょうよ。自分の心に、正直になりましょうよ……」


 それでも俺が何も答えないでいると、ヒグリンは小屋から出て行った。

「巨乳も、良いですよ」と言い残して。


 今度こそ本気で落ち込んでいる俺に、ムネマサは告げた。

「このレジスタンスはもう、終わりだな……」


 俺は、驚いた。

「な、何を言ってるんだムネマサ! まだ俺たち二人がいるじゃないか?! 俺たち二人がいれば、きっと……」


 だがムネマサは、俺の言葉をさえぎった。信じられない言葉で。

「実は僕、彼女がいるんだ……。しかも巨乳の……」


 その言葉は俺に、とどめをした。もう、何も考えられなかった。両脚がガクガクと震え、気づくと俺の体はくずれ落ちていた。


 まさかムネマサに彼女?! しかも巨乳の?! これは俺にとって、二つの裏切りだった。一つはもちろん、巨乳の彼女。そしてもう一つは、彼女がいること。


 実は俺とムネマサの間には、俺たちだけの合言葉があった。俺が、「リア充は?」と聞くと、ムネマサは答えた。「爆発しろ!」


 俺は、再び聞く。

「俺たちのよめは?」

脳内のうないにいる!」


 そして二人で笑いあった。ムネマサと知り合って、もう十七カ月が経とうとしている。俺はムネマサを、親友だと思っていた。大切な。


 だから平静を装って、祝福しゅくふくした。

「そうか……。何はともあれ、お前にやっと彼女が出来たのか。おめでとう……」


 だが、ムネマサは答えた。

「いや、やっとじゃない。僕に彼女が出来たのは、十四カ月前だ」


 俺は、血反吐ちへどいた。

「ぐはっ!」


 そう言えば、思い当たるフシがあった。週末に酒を飲みに誘うと、断られることが度々たびたびあった。


 まあ家に帰って脳内の嫁と、イチャイチャするんだろう。俺も家に帰って脳内の嫁に夜這よばいをかけようかと、そんな風に考えていたのに。でも違った。ムネマサは三次元の女と、いや、リアルな女とイチャイチャしていたのだ!


 ダメだ……。こんな事実を知ってしまったら、もうムネマサを親友と呼ぶことは出来ない。しかし、どうしてムネマサに彼女が?……。


 俺とムネマサは、この国の男の平均身長よりも少し高い。だがムネマサは、しょうゆ顔だ。それに比べて俺は、ほりが深いソース顔だ。しかもメタボだ。くっ、その差が出たのか……。


 だがもう、終わりだ。巨乳の彼女がいる奴に、レジスタンスに所属させる訳にはいかない。そして、親友でもない……。


 しかし俺は、ムネマサを強く非難ひなんすることは出来なかった。ムネマサと過ごした日々があまりに長く、そしてあまりに楽しかったからだ。


 だから俺は、告げた。震える声で。

「さよならだ、ムネマサ。彼女を大切にしろよ……」


 ムネマサの声も、震えていた。

「ああ、分かってる……。じゃあな……」


 ムネマサが小屋から出ていくと、俺はつぶやいた。

「さよなら。今度、会う時は敵同士か、強敵ともよ……」


 俺は一人ぼっちになった。本当に。だが落ち込んでいる場合ではない。決着を、着けなくてはならない。G.M.T.と。。G.M.T.は強敵だ。だが俺には、勝算しょうさんがあった。奴を倒すには言葉で攻めるしかない。


 俺はそう決心すると、小屋を出た。そしてG.M.T.の屋敷やしきに向かった。その途中、大通りの建物の壁には、有名巨乳アイドルのグラビア写真が貼ってあった。だが俺は、それを不快ふかいだとは思わなくなっていた。まずい、急がねば。


 そして、G.M.T.の屋敷にたどり着いた。ウワサでは部屋が三十もあるという、大きくて漆黒しっこくの屋敷だった。


 俺は、門を目の前にして全力で叫んだ。

「出てこい、G.M.T.! 俺と決着を着けよう!」


 すると屋敷の衛兵えいへい、二人が現れた。

「何者だ、お前は?!」


 俺は、説明した。俺はレジスタンスのリーダーで、今やレジスタンスは俺一人だと。


 そうやって俺と衛兵が門でもめていると、G.M.T.が現れた。

「何だ? 何を、もめている?」


 そして俺は、恐怖を感じた。G.M.T.が発する、威圧的いあつてきなオーラに。G.M.T.は俺よりも背が高く、そして筋肉質だった。また、黒いサングラスをかけていた。


 俺は、れそうになる心をふるい立たせ、G.M.T.に言い放った。

「勝負しろ、G.M.T.! 今や一人しかいないレジスタンスのリーダー、この俺、ユウスケと!」


 G.M.T.は、余裕よゆうの笑みを見せた。

「ほう、私と勝負? いいだろう……。だが待て。私はまだ、昼食を取っていない。それからでも、いいだろう?」


 俺は、うなづいた。

「ああ。いいだろう……」


 するとG.M.T.は、衛兵に命じた。

「ふむ。今日の気分は、カレーだな……。よし、カレーを持ってこい。ああ、だが、う〇ことカレーを間違うなよ」


 その言葉を聞いて、俺は戦慄せんりつした。くっ、間違えやすい、うん〇とカレーを間違わないように指示を出すとは……。やはりこの男、ただ者ではない……。


 衛兵が持ってきたカレーを食べ終わると、G.M.T.は命じた。

「ふうむ、まだい足りん……。よし、あれを持ってこい」


 俺は衛兵が持ってきたモノを見て、再び戦慄した。それは、カツカレーだったからだ。くっ、カレーかぶりだと……。この短時間に、カレーを二杯にはいだと……。俺なら絶対、胃もたれする。この男やはり、ただ者ではない……。


 カツカレーも食い終わったG.M.T.は、言い放った。

「よし……。かかってこい、若造が!」


 すると俺は、考えていた必殺の言葉を放った。

「お前、『この国の若造どもに、巨乳の良さを教えてやる!』と言ったな?」

「ああ、それが、どうした?」

?」


 俺は、勝利を確信した。このまま貧乳の良さを伝えれば、ヤツを倒せると。だがG.M.T.は、意外な言葉を発した。

?」


 俺の心は、折れた。

「な、何だと?……」


 G.M.T.は不敵ふてきに笑って、言い放った。

「確かに私は若い頃、貧乳好きだった。だが今は、巨乳好きだ。分かるか、この意味が……」


 俺は絶望ぜつぼうして、何も言えなかった。その代わり、G.M.T.が告げた。

!」


 ダ、ダメだ……。G.M.T.は予想以上の強敵だ。おとこだ。いや、人智じんちをはるかにえた存在だ……。


 そしてG.M.T.は、とどめの言葉を告げた。

「ユウスケと、言ったか……。お前は、巨乳に興味を持ち始めているな? 巨乳を揉みたいと、考えているな?」


 俺の目の前は、ショックで真っ暗になった。いや、G.M.T.の姿だけが、ぼんやりと浮かんでいた。そうだ、俺は気づいてしまっていた。貧乳を揉むのは、難しいと。


 俺は、全身の力を振り絞って聞いた。

「な、なぜ分かった……」

「簡単なことだ。今や一人になったレジスタンスのリーダーが、私の屋敷にきた理由は一つ。自分が巨乳好きになる前に、私を倒したかった。違うか?」


 俺は、何も答えられなかった。図星ずぼしだったからだ。俺が何も言えないでいると、G.M.T.は恐ろしい言葉を言い放った。

「そんなお前に、とどめを刺してやろう。!」


 俺はショックで指一本、動かせなかった。ダメだ、キラーワードがそろいすぎている……。


 そんな俺にG.M.T.は、とどめを刺した。背中に隠していた写真週刊誌の、ページを開いて、俺に見せた。


 俺は無表情で、つぶやくことしかできなかった。

「せ、先週デビューしたばかりの、新人巨乳アイドル……」


 そして俺は、ひざから崩れ落ちた。勝負は着いた。俺の完敗かんぱいだ。俺は、聞いてみた。

「なあ、G.M.T.……。俺にも、出来るのか? 俺にも貧乳と巨乳の両方を、愛することが出来るのか?……」


 G.M.T.は無言で俺に、写真週刊誌を手渡した。そして告げた。

「それは、お前の努力次第だ……」


 俺は写真週刊誌の、その娘のセクシーポーズを、穴が開くほど見つめた。そして、本心を告げた。

「巨乳も、美乳なんだな……」


 するとG.M.T.は、笑顔で告げた。

「そうだ。私は若い連中に、それに気付いてほしかったのだ」

「え?」


「若い時は、貧乳を美乳だと思う。その気持ちは、分かる。だが今、考えるとそれは、私の視野しやせまかったからだ。でも歳を重ねた私は、気づいた。巨乳も、美乳だと。私はこの国の若者に、広い視野を持って欲しかった……」

「G.M.T.……」


 G.M.T.は、続けた。

「これで国中の男が、巨乳も美乳だと気づいた。もう街中に、巨乳アイドルのポスターを貼る必要も無くなった。貧乳アイドルたちも、自由な活動を許そう」


 俺とG.M.T.は、力強い握手あくしゅをした。

「ありがとう、G.M.T.!」


 すると次の瞬間、G.M.T.の屋敷から、長いあごひげでながら小柄な老人が近寄ってきた。


 俺とG.M.T.は、素早く片膝かたひざをついた。

「オ、オアシス国王!」


 オアシス国王はG.M.T.の屋敷に、今後の国政運営を話し合うためにきていた。それほどまでにG.M.T.は優秀で、国王からの信頼も厚かった。


 オアシス国王は、優しく告げた。

「全部、見ていたよ、お若いの……」


 俺は、頭を下げた。

「は、ははー!」


 オアシス国王は、続けた。

「ほっほっほっ。貧乳と巨乳、どっちも、おっぱいじゃ。わしら男の、心のオアシスじゃ。ほっほっほっ」


 俺は頭を下げたまま、告げた。

「ははー! もったいない、お言葉!」


 国王は、優しかった。

「それより二人とも、おもてげい。わしは、堅苦かたくるしいのが苦手じゃ」


 その言葉に甘えて、俺とG.M.T.は立ち上がった。そして俺は、G.M.T.に聞いた。

「なあ、この娘の写真集は、いつ出るんだ?」


 G.M.T.は、満面の笑みで答えた。

「来月だ。握手会あくしゅかいもあるぞ?」


 全てのわだかまりが消えた俺は、清々すがすがしい表情で答えた。

「来月が、楽しみだ……」


 すると、オアシス国王は微笑んだ。

「ほっほっほっ。これで国内の対立も解消。無事ぶじに一件落着じゃ、ほっほっほっ」


 オアシス国王の笑い声は、国中に響き渡った。



                             完結

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【改良版】オアシス戦記 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ