閑話、葛藤と後悔

 ユキが集落を飛び出した直後、集落の入口で呆然ぼうぜんと立ち尽くすヤスミチにエリカが静かに話し掛けた。その表情は、少しばかりかなしげだ。

「ねえ、本当に良かったの?ユキ、クロノ君を一人でたすけに行ったけど?」

「なんて馬鹿な真似まねを、クロノの奴が生きている保証ほしょうなんて限りなく零に近いというのに。どうして……」

 そんなヤスミチの言葉に、エリカが何を当たり前の事をと溜息をいた。

「そんなの、仲間なかまだからに決まっているじゃない。ヤスミチさんが仲間を大事にするからこそ犠牲ぎせいを許容出来なかったのと同じように、ユキだってクロノ君を仲間と思っているからこそその生存を信じて助けにいったんだよ?」

「それ、は…………」

「ヤスミチさんだって、理解りかいしている筈でしょう?もう、クロノ君が部外者なんかじゃないって事くらい」

 それはヤスミチとて理解している。クロノはこの短い期間きかんで集落の人間達ととても仲良くなった。それこそ、彼という存在そんざいがもはや部外者とは言えない程度には。

 だが、それでも。ヤスミチには仲間の犠牲を許容出来ない。もし、クロノを助けに行って仲間に甚大な被害ひがいが出れば。それこそヤスミチの心は容易く折れるだろう。それ程に自身の心が脆い事を、ヤスミチは自覚しているのだ。

「……分かっているよ、そんな事は。けど、俺は」

「分かってるよ、ヤスミチさんの気持きもちは。でも、だからこそヤスミチさんが率先してクロノ君を助けに行くべきじゃなかったの?」

「…………どういう事だ?」

 ヤスミチの問いに、エリカは優しく微笑ほほえむ。

「誰よりも仲間を守るたてになりたい、そんな想いをいだいていたからこそヤスミチさんにそんな異能が宿ったんでしょう?」

「……………………」

 ヤスミチの異能。霊的れいてきな防壁を張る、絶対防御のたて

 そうだ、ヤスミチが誰よりも仲間を守る盾になる事をのぞんでいたからこそこの異能を獲得したのだろう。だが、ヤスミチは同時に理解りかいしている。絶対防御をうたいながらもその実、王かそれに準ずる巨大な怪物の攻撃を受ければ容易く砕ける程度だと。

 その程度の防御性能しか持たないと、自覚じかくしている。

 ヤスミチの異能で防げる限界げんかいは、準王級より格下かくしたの攻撃まで。準王級以上の攻撃を喰らえば、ヤスミチの異能は耐え切れずにくだけてしまう。

 本来、非物理ひぶつりの概念的防壁であるヤスミチの異能は容易く砕けるものではない。しかし、本来非物理の防壁を物質界へ物理ぶつりエネルギーとして顕現させるヤスミチの異能は本来の性能を大きく下回る。

 故に、準王級以上の攻撃にはえ切れないのだ。

 だが、それでも……ヤスミチは。

「姉さん、準備じゅんびが出来たぞ!」

「待ってたよ、行こう!」

 其処に現れたアキトは、万全の装備を整え戦闘準備は万全という風だった。その姿にヤスミチはかなり驚く。

 思わず、声をあらげる。

「お、おいっ!お前達まで何を‼」

まっているだろう?ユキとクロノをたすけに行くんだよ!」

「そんな勝手かってな事!」

 許可出来ない、と言おうとしたヤスミチをエリカとアキトは苦笑気味に言う。

「分かってるさ、これは俺達の独断専行どくだんせんこうだ。帰ったら、その件についてたっぷり怒られる覚悟かくごくらい出来ている」

「私達にとって、ユキもクロノ君も。皆大事な仲間なかまだからね。だから、放っておくなんて選択肢は最初からいんだよ」

「それ、は……」

「じゃあ、行くか姉さん!」

「うん、行こう!」

 そう言って、その場から駆け出そうとするエリカとアキトをび止めるヤスミチ。

 自覚して止めたのではない。無意識むいしきでだ。

 しかし、もう理解している。ヤスミチ自身の本音ほんねを。

「……………………あー、くそっ!かったよ、お前等勝手に行けば良いさ。だが、俺も一緒に行かせてもらうぞ?お前等を止められなかったのは俺の責任せきにんだからな‼」

「……分かってる、じゃあ行こう‼」

「……ありがとう、じゃあ行きましょう‼」

 そう言って、三人揃ってユキとクロノを助けにけ出した。

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