15,エリカとアキト

「いや、あれはそもそも姉さんがわるい」

なによ、アキト君だって!」

「はぁ、面倒臭めんどうくさい……」

「面倒って何よ‼」

 まだアキトが10歳、エリカが11歳だった頃。その頃の二人は仲が悪く、何時も喧嘩ばかりしているような間柄だった。ひどい時はお互いに手が出て、結果二人ともボロボロになった後でユキやヤスミチにめられるという。

 今回も、二人は朝から喧嘩をしていた。喧嘩の原因げんいんは、アキトが個人的に大事にしていた望遠鏡ぼうえんきょうをエリカが勝手にち出したかららしい。

 そして、結局この日も最終的にユキが間に入ってなだめる事になった。ヤスミチは傍で呆れ果てている。

 喧嘩は何時もまっていて、二人とも自身のを認めずに相手が悪いと認めるまで喧嘩をめようとしない事で最終的にユキとヤスミチが間に入る事になる。それがいつもの定石じょうせきだった。しかし、今回はどうやら違ったらしい。

 二人ともヒートアップした頭をます事が出来ず、喧嘩は続く。

「何時も何時も、姉さんは鬱陶うっとうしいんだよ‼」

「なっ、アキト君だって何時いつも突っかかってくるじゃない‼」

「何だよ‼」

「何よ‼」

「あーもうっ!二人ともいい加減かげんにしなさいっ‼‼」

 結果、ユキが二人を無理矢理引き剥がした事により喧嘩は強制的に終了した。

 無理矢理引き剥がされ、そのまま互いに別の場所へと連れていかれる。

 そんな中、ユキは互いに睨み合い威嚇いかくし合う二人を見て思う。このままでは、二人とも喧嘩ばかりで何時までも仲良なかよくなれないのではないか?と。

 そもそも、何故二人は其処までたがいに喧嘩ばかりするのだろうか?何故、二人は其処まで互いに敵視てきしし合うのだろうか?それとも、本当に二人は互いの事を鬱陶しいと思い互いを本気できらっているのだろうか?

 いや、或いは……

 一つ、確認かくにんしてみる為にユキは行動を起こしてみる事にした。


 ・・・ ・・・ ・・・


 まず、ユキがったのは姉のエリカだった。エリカはふてくされたまま、じっと座り込んで黙っている。

「ねえ、少しはなしを良い?」

「何よ、ユキもアキト君みたいに私が悪いって言うの?望遠鏡ぼうえんきょうを勝手に持ち出した私の事を悪者わるものにしようって?」

ちがうよ、そんな事は言わない」

 ユキはそっと、エリカのそばに座り込む。そして、エリカの頭をそっと撫でながら何から話そうかと僅かばかりなやんだ。悩んだけど、ユキは苦笑と共にそれを切り捨て体当たり気味に聞く事にする。

 やはり、何だかんだ言ってそれがユキらしいと自分自身思うからだ。

「ねえ、そもそも何でエリカはアキト君の望遠鏡を勝手に持ち出したの?」

「それは……私も、星空ほしぞらが見たかったから…………」

 徐々に尻すぼみになってゆく言葉。その言葉に、ユキは直感的にそれだけではないと見抜く。エリカが逸らした視線に、彼女のうそを感じ取ったからだ。

 なので、ユキはもう少しだけみ込んでみる。

「ねえ、本当ほんとうにそれだけ?」

「それだけって?」

「本当に、エリカは星空ほしぞらが見たいだけでアキト君の望遠鏡をち出したの?」

「……………………」

 黙り込むエリカ。しかし、その沈黙ちんもくには僅かばかりの自己否定が。自分自身、認めたくない本心が垣間見えた気がした。おそらく、それがアキトとの喧嘩の理由であり根源なのだろう。

 そう思い、ユキは更にふかく聞く。自分自身、これ以上踏み込むのは良くないのではないかと思いつつ。それでも二人が仲良くする為にも。

「エリカの本心ほんしんが聞きたいの。おしえてくれないかな?」

「…………ったから」

「ん?」

「アキト君と、もっと話したかったから…………」

 そう、それこそがエリカがアキトと喧嘩していた原因。エリカは本当は心の中では弟のアキトと仲良なかよくしたかったのだ。もっと、弟と話したかったのだ。喧嘩はその本心の裏返うらがえしだったのである。

 それを知り、ユキはようやく安堵あんどの溜息を漏らした。ああ、良かった。本当はエリカは弟と仲良くしたいだけで、べつにアキトの事を本心から嫌っている訳ではないんだなと。そう心から安堵した。

 さて、その上でユキにはもう一つ懸念けねんがあった。アキトだ。

「じゃあ、私はアキト君から話を聞きにいく事にするよ。エリカの本心も聞けた事だし次はアキト君の本心を聞く事にするよ」

「……アキト君と、もっと仲良くなれるかな?」

「なれるよ、きっと」

 そう言って、ユキはそのまま立ちっていった。その場に残されたエリカはじっと座り込んだまま、考え込む。

 やがて、しばらく考え込んだ後。何かを決心けっしんしたかのように立ち上がった。


 ・・・ ・・・ ・・・


 続いて、ユキはアキトの居る場所へ向かった。

 アキトはむすっとした表情のまま近付いてきたユキを黙ってにらみ付ける。そして、そのままユキがかまわず近付いてくるのを見てそっぽを向いた。どうやらふてくされているらしい。

 思わず、ユキは苦笑してしまう。

「何だよ、ユキも俺の方がわるいって言うのかよ?」

「別に、そんな事は思っていないよ」

「俺は悪くない。悪いのは姉さんの方だ。姉さんが、姉さんが俺の望遠鏡を勝手に持ち出したから……」

「本当に、そう思っている?」

 ユキは、アキトの本心を聞き出す為に敢えてエリカと同じさぐり方をした。

 本当にそう思っているのかと。本当に、アキトはエリカの事をしざまに思い本心から嫌っているのかと。そうり込んでいく。

「何が言いたいんだよ」

「思ったんだけど、アキト君はエリカがたとえ何もしなかった所で喧嘩の理由を見付けようとしていたよね?無理矢理喧嘩の理由を見付け、喧嘩しにいってたんじゃないかって私は思っているけど。ちがう?」

「……違うよ。それに、何時も何時も姉さんは鬱陶しいんだ。大嫌だいきらいさ」

「……ねえ、エリカはアキト君の望遠鏡を持ち出した事。本当はアキト君ともっと話したかったからって言っているよ?」

うそだ。そんな事、姉さんがおもっている筈がない……」

「思っているよ。だって、本人から直接聞いたんだから」

「嘘だよ。そんな事、絶対に嘘だ」

 こまり果てるユキ。思った以上にアキトはみとめようとしない。

 嘘だ。そんな事、とずっと上の空のようにり返し呟いている。そんな中……

大変たいへんだ!エリカが、エリカが外れにある花園はなぞのに行ってくるって。一人で‼」

「「っ⁉」」

 外れにある花園はなぞの。其処は、恐らく金獅子きんじしの生息する花園に違いない。

 金獅子ジンライ……この集落の外れにある花園に生息する準王級じゅんおうきゅう。王に準ずる力を持つ強大な種であり、なわばりである花園から決してはなれようとはしない比較的危険度の小さい獅子ししの怪物だ。

 だが、危険度が小さいというのはあくまでなわばりを離れないという性質ゆえ。なわばりを荒らす者は容赦なくその強靭な爪や牙により引きかれるという。

「どうして、そんな場所ばしょに一人で行かせたの‼」

「い、いや……めようとはしたんだが」

「っ」

 どうやら、止めようとしたけど出来できなかったらしい。エリカの異能はテレポート、その力により止める前にってしまったとの事。

 しかし、驚いたのは何もユキだけではない。他でもないアキトが驚愕していた。

「何、で……」

「何でと言われても、エリカは仲直りするためとか。言、って…………」

「っ、あの馬鹿ばか‼」

 瞬間、文字通りの意味でアキトは放たれた弾丸だんがんのような超速度で飛んでいった。恐らくは、サイコキネシスにより自身を操作し飛行ひこうしたのだろう。

 何て無茶むちゃな使い方を!と、ユキは憤った。アキトのサイコキネシスは強力だ。文字通りの意味で戦局せんきょくを大きく覆しうる程に。しかし、それ故に彼自身まだ自分の能力を上手く制御出来ていない。

 そんな使い方をすれば、自身の異能により身体が巨大な圧力でつぶれてしまいかねないだろう。制御不可能な力は、自身の身体をもこわしかねないのだから。なのに、アキトはそれを一切無視して異能を自身の身体からだへ行使したのだ。

 その意味いみは、もはや聞くまでもないだろう。

 そう、アキト自身エリカともっと仲良なかよくしたかったのだと……

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