14,クロノの訓練

 朝、食堂しょくどうで朝食を食べた後。食事中のエリカとアキトに声を掛けた。

「少し、この後時間はあるか?」

 きょとんとする二人ふたり。まあ、いきなり言われても訳が分からないだろうし事情じじょうはもちろん話すけどな?

 そう思い、続きを話そうとした瞬間。アキトがそれを片手でせいした。何やらとても真剣な表情だ。何かをさっしたのだろうか?そう思い、俺は黙る。

「まあ待て、今は食事中だ。朝食を食べた後で話をこう」

「うん、まずは何より腹ごしらえからだね」

 ……どうやら先に食事をませたかったらしい。うん、まあ確かに食事は大事だと言うけれど。俺は一気に脱力だつりょくした。それはさておき、エリカとアキトの食事はサンドイッチと野菜スープ、トマトサラダに紅茶こうちゃのセットだ。朝からがっつりとしていた。

 ちなみに、俺の朝食あさはサンドイッチとコーヒーのセットだ。朝と夜はそれほど食べずに昼をがっつり食べるタイプだ。

 まあ、それはともかくだ。

 それ等朝食を二人は一気にほおばりべている。そんなに一気に食べて大丈夫だろうかと少しだけ心配になった。うん、やっぱりのどに詰まらせて手元の紅茶を二人して一気に飲みす事になっていた。

 ……その後、食事をえた二人と一緒いっしょに外へ出る。のだが、

「アキト君、これってもしかして噂に聞くおもてに出ろという奴かな?もしかして私達は喧嘩けんかを売られている?」

「おおっ、だとしたらかえり討ちにしてやんよ!」

 姉弟揃って俺に向かいシャドウボクシングのポーズをする。うん、まあこの二人が悪戯好きだと知っているけどさ。

 もう少しこう……なぁ?

ちがう。結果論的にあながち間違まちがっていないけど、違う」

「「???」」

 そう、二人揃って同時に首をかしげるのは止めて欲しい。

 いやまあ、分かってはいるけどさ。二人はこういう人物だし、そもそもまだ話の概要すら話していないという事くらい。分かっているけど、なあ?

「ああ、うん。なんていうか、二人には俺の訓練くんれんを手伝って欲しいんだよ」

「うん?訓練を?」

 問い返すアキトに、俺は頷く。

「まあ、二人だから言うけどさ。実は俺、訳あってまだ戦闘経験自体そんなに無いんだよな。初めて戦ったのがユキを襲った甲殻こうかくバジリスクだったし」

「え、そうなの?」

 俺の言葉に、疑問ぎもんの声を返すエリカ。うん、まあ分かっている。こんな時代にいくらなんでも戦闘経験が無いなんて、おかしいことくらい。

 だからこそ俺は今、腹をって話している訳だが。

「ああ、そもそも今持っているかたなだってつい最近手に入れたものだし。それまで武器を持った事自体全く無かったな。そこらへん、事情じじょうが複雑なんだ」

「…………そうなのか。うん、分かった。じゃあ、俺達二人でクロノの訓練を手伝えば良いんだな?」

「私も了承りょうしょうしたよ。言っておくけど手加減てかげんなんてしないからね?」

 そう言って、俺達は集落のはずれに向かった。


 ・・・ ・・・ ・・・


 集落の外れ。瓦礫がれきが散在している遺跡いせきの荒野。其処で、俺と二人は向かい合う。

「じゃあ、まずは何処からでもい!」

 その言葉に、俺はまずアキトに向かい手ごろな木の枝で作った細めの木刀を振る。

 木刀とはいえ、それはもうただの木の枝と言って過言ではない代物しろものだ。それを俺はアキトに向かい振るう。木の枝はアキトの頭のすぐそばまで接近し……

 しかし、俺は何か強力な力によりまるで反発はんぱつを受けているかのように阻まれる。それはまるで、強力な磁石じしゃくの同極同士を近付けたかのような反発力だ。そのまま俺は、その反発力によりはじき飛ばされる。

「ぐっ……まだまだ!」

「ああ、まだまだわりじゃない」

 気付けば、俺の周囲には石のつぶてが幾つも取り囲み浮遊していた。何時の間に、とは全く思わない。俺はこの現象げんしょうを知っている。以前、白蛇の怪物が襲撃してきた時にエリカが見せていた瞬間移動能力だろう。

 だとすれば、この礫が浮遊している現象の正体は———

 なるほど?

「テレポーテーションに、サイコキネシスの複合技ふくごうわざか」

「その通り、よく分かったな?」

「これだけ見ればな……」

「けど、理解りかいしたからといってかわせるとは限らないよ!」

 瞬間、縦横無尽に飛び交う礫の数々。俺は、それを何とかして躱し続ける。しかしもちろん相手はサイコキネシスだけではない。テレポーテーション能力も同時に相手しなければならない。

 飛び交う礫は不規則ふきそくに、そしてランダムに瞬間移動して俺を襲う。それを完全に直感でさばく事など不可能だろう。これを躱すには、相手の攻撃パターンを読んで次の行動を高度にかつ迅速に予測する必要がある。

 事実、幾つかは俺の背中や腕、肩や後頭部などに直撃していた。けっこういたい。

「ぐっ……まだだ。まだ、まだ……っ‼」

「「⁉」」

 瞬間、俺の身体が炎につつまれた。この現象を俺は知っている。白蛇との戦いで俺の意思が一定値以上に高まった瞬間に見せた、あの炎だ。さしずめ、こころの炎とでも呼ぼうか。

 この炎は、俺の意思の具現ぐげんらしい。俺の意思の力次第で炎の出力しゅつりょくが決定する。ならば、俺はこの炎を意識して制御可能だろう。

 ならば、と俺は心の炎を意識して木刀にまとわりつかせる。本来、木の枝なんかに炎を纏わりつかせれば一瞬で木の枝がえ尽きるだろう。

 しかし、これは心の炎だ。俺の意思により制御が可能な代物だ。

 なら、不可能ふかのうは無い!

「行くぞ!」

 言って、飛び交う礫の数々を蹴散けちらしながら。俺は炎の流星となる。

 しかし、

「はぁっ、忘れていないか?これは訓練くんれんだぞ?」

 呆れたような声。次の瞬間、俺の後頭部に大きなごつごつした何かが直撃して。

 驚き、振り返る。其処そこには巨大ないわが浮遊して……

 そのまま、俺の意識は暗転あんてんした。


 ・・・ ・・・ ・・・


「はっ‼」

「目がめたか?馬鹿野郎」

「目が覚めた?おろか者」

 目を覚ますと、俺の目の前にはエリカとアキトの悪戯いたずらめいた笑顔があった。果たして、そこはかとなくいやな予感がするのは気のせいだろうか?いや、断じて違う。これは絶対に気のせいではないな。

 そう思い、俺は勢いよく起き上がった。

「お前等、俺が気を失っている間に何をした?」

「別に?俺達は何もしていないぜ?」

「別に?私達は何もしていないよ?」

「まだ?まだって一体何だ!」

 俺の疑問に、二人の悪戯めいた笑みが更にふかくなる。俺の嫌な予感が、加速度的に急上昇していく。これは流石にやばいのでは?

 そう思った、次の瞬間にアキトの言葉で予感は確信へとわる。

「べっつにー?ただ、訓練で負けた時のばつゲームを考えていなかったなと」

「よし、訓練を再開さいかいしよう‼今度は絶対にけないぞ‼」

 俺の言葉に、エリカとアキトの笑みが更に深くなったのは言うまでもない。

 …………結果。

 結局俺は二人を相手にしてぼろ負けした。エリカとアキトの縦横無尽なコンビネーションには流石に俺もきびしかった。

 いや、でも言い訳くらいはさせて欲しい。これでも俺は、最初の頃よりは二人の攻撃パターンを読めるようになってきたのだ。なので、これは大きな進歩しんぽという奴なのだろうと思う。そう、思う事にする。

 うん、

「……何、やってんの?」

 そんな俺達にあきれたような声が掛けられた。ユキだ。

 見れば、俺達の訓練を何時いつの間に来たのかユキが見ていた。その視線の先には、俺の顔に筆で落書らくがきをしようとしているエリカとアキトの光景が。

 うん、正月しょうがつの羽子板によくやるアレだろうか?ともかく、俺は現在、罰ゲームとして顔に落書きをされていた。悪戯好きな姉弟に、嬉々ききとして顔に落書きをされる俺は一体なんなんだろうな?

 そう思うが、まあこれくらいなら黙って受け入れよう。

「何って、訓練と罰ゲーム?」

「訓練でどうして罰ゲームを?」

「いや、らないけどさ」

 そう開き直る俺に対し、ユキは呆れ返ったように溜息ためいきを吐く。

「……ほどほどにね?」

 そう言って、ユキはそのままっていく。そして、俺の顔に落書きを終えた二人は満足そうに笑うと俺に手をし伸べる。

 言わないでも理解出来ている。これは、つづきを始めようという意思表示だ。俺は苦笑しながらもその手を取り、き上がる。


 ・・・ ・・・ ・・・


 そして、しばらく訓練を続けた結果。俺は普通に礫をさばけるようになった。二人の異能による複合技、それを俺は木の枝で捌き続ける。此処ここまで至るのに、もちろんかなりの苦労くろうがあったけど。それでもかなりの進歩だろう。

「よく頑張がんばったな、ずいぶんやるようになったじゃないか!」

「よく頑張ったね、素直にうれしいよ!」

 そんな俺に、二人は手放しで賞賛しょうさんを送る。どうやら訓練は此処までらしい。二人とも隠してはいるが、少しばかりつかれが見えている。やはり、あそこまで異能を精密に制御するのはかなり疲れるらしい。

 そっと、その場にこしを下ろす。しばらくのんびりとした時間じかんを三人で過ごす。

 そうしていると、ふとエリカがぽつりと話し出した。

「ねえ、クロノ君。実は、此処ここだけの話だけど……私とアキト君って最初はとても仲がわるかったんだよ」

「……そうなのか?」

「うん、最初の頃は喧嘩けんかばかりしているような姉弟だったね」

「ああ、そうだな。最初は俺も、姉さんの事をぞんざいに扱っていたしな」

「そうそう、それで私もむきになってね」

 今じゃ想像もつかないような話だった。一体どのような過程かていがあったのか?

 そう思い、話をく事にする。二人にとって、転換点てんかんてんとなった物語を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る