第16話

 珍しく生徒会長に呼び出された俺。

 本当は昨日できた身体強化魔法をもっと試したかったんだが……呼ばれたのなら仕方がない。用件を聞いた後にやるとしよう。

 そんなことを考えながら支部長室に向かうと、そこには生徒会長とマナの姿があった。

 ちなみに、俺を呼びに来た神屋敷先輩はこの場にいない。


「やあ、急に呼び出してすまないね」

「いえ……あの、何の用でしょう?」


 そう訊くと、生徒会長は爽やかに笑う。


「そろそろ君に、仕事を任せてみようかなと思ってね」

「え!?」

「はあ? 何考えてるんですか!」


 予想していなかった言葉に驚いていると、マナも慌ててそう口にした。

 しかし、生徒会長は特に気にした様子もなく続ける。


「いつまでもこのままというわけにもいかないだろう? だから、少しずつ……簡単な仕事でいいから手伝ってもらおうと思ってね。どうだい?」

「そりゃまあ……言われればやりますけど……」


 元より昇給のためにちょっとは働きたいと思っていた。

 もちろん危険な仕事は遠慮したいところだが、簡単な仕事なら問題ない。

 本当は働かないで金を貰えるのが一番だが、よりお金を稼ぐため、そして何だかんだこの生徒会長には世話になっているので、ちょっとでも借りを返せたらと思っていた。

 ただ……。


「本当に俺なんかでもできる仕事でしょうか?」

「そこは問題ないよ。今回君に頼みたいのは、とある廃工場に棲みついた、【小悪魔インプ】の討伐なんだ」

「インプ?」


 聞き馴染みのない言葉に首を傾げていると、マモンが教えてくれる。


『人間どもは小悪魔と呼んでいるが、悪魔ではなく小さな魔物だな。悪戯好きというだけで、そこまで害のある存在ではない』

「へぇ……」


 マモンの説明に頷いていると、生徒会長は苦笑いを浮かべた。


「まあ……確かに悪魔であるマモンからすれば、インプの存在はその程度なんだろう。だけど、人間にとっては違う。ヤツらの悪戯は、人を殺すこともあるからね」

「ええ!?」

「例えば、信号待ちしている人間の背中を突き飛ばしたり、工事現場の工具を人の頭の上に落としたり……」


 怖ッ。

 なんていうか、一つ一つ切り取ってみると確かに悪戯だが、その悪戯を仕掛けるシチュエーションが最悪すぎる。


「その上、インプは集団で活動してる。これが中々厄介なんだよ」

「え、えっと……聞いてる感じ、俺だけで対処できるとは思えないんですけど……」

「ハッ! 魔王の契約者のくせに情けないわね」


 俺の気弱な言葉を聞いて、マナは鼻で笑った。


「マナ! ……すまないね。君の心配はもっともだけど、インプはその名の通り、小さな存在なんだ。それこそ、私たちの親指くらいかな」

「え、ちっさ!?」


 小さくてもバスケットボールくらいかなと思っていたら、もっと小さくて驚いた。

 そんな小さな存在が集団で悪戯をするって……蝗害みたいに厄介だな。


「というわけで、インプは手で叩けば簡単に倒せるんだよ」

「そんな蚊みたいな……」


 なんかイメージがコロコロ変わったが、ひとまず俺でも倒せそうで安心した。

 とはいえ、どれだけの数がいるのか分からないし、それらすべてを手で叩き潰すのは難しくね?

 すると、生徒会長はさらに続ける。


「それに、君一人じゃなく、ここにいるマナも一緒だからね」

「え?」

「はあ? どうして私まで!」


 マナも聞いていなかったのか、慌てて生徒会長に迫っていた。

 しかし、生徒会長は顔色を変えずに答える。


「今回、金仁君に仕事をしてもらいたいわけだが、未だに饗宴を含む様々な組織から狙われている状況だ。金仁君に身を護る力があればよかったんだが、それも難しそうだしね」


 身体強化の魔法を使えるようになったことは伝えていないが、たとえ伝えていたとしても俺が弱いことには変わりない。

 マモンも身体強化の魔法の魔法では魔物を相手にできても悪魔は難しいって言ってたしな。


「そこで君の出番だ。マナの魔法なら、インプを殲滅するのにもちょうどいいし、金仁君を護ることもできるだろう?」

「そうかもしれませんけど、わざわざ雑魚のために動きたくありません」


 おおう、雑魚呼ばわり。間違ってないけど。

 すると、生徒会長はマナを見据えた。


「マナ。君が魔王を憎む気持ちは分かるが、彼とマモンは関係ないだろう? 八つ当たりは許さないよ」

「っ……」


 魔王を憎む? なんかあったのかね。

 俺はチラッとマモンに目を向けると、マモンは首を横に振った。マモンにも身に覚えがないようだ。

 ということは、生徒会長の言う通り、魔王は魔王でもマモンとは別のヤツなんだろうな。


「ともかく、金仁君はまだまだ弱い。だからと言って、このまま監禁するわけにもいかないし、何より幻想対策部の仕事も少しずつ覚えてもらいたいからね。そのためにも、まずは君について行く形で仕事をしてほしいんだ」

「……覚えさせたとしても、魔力がなければ結局何もできないと思うんですけど」

「魔力を増やすアイテムだってあるわけだし、私も今、金仁君用にその品々を狙って探しているところだからね」

「どうしてそこまで……」


 何やら知らない間に、生徒会長は俺のために色々動いてくれていたらしい。

 すると、生徒会長はこちらを見て、申し訳なさそうにした。


「……君をこの支部に入れておきながら、力がなかったからと言って、何もしないのは違うと思ってね。魔力さえ増えればまた少し変わるだろうから探してるんだけど、元々希少なアイテムで、見つかるかどうかも怪しい。すまないね」

「い、いえ、そこまでしてもらってるだけでもありがたいです」


 何なら最後まで放置されると思っていたので、そんな風に考えられてて驚いたくらいだ。


「何はともあれ、今回の仕事はマナと金仁君の二人で取り組んでくれ」

「……はい」

「分かりました」


 こうして二人で仕事に向かうことが確定した。

 その際、マナは俺を激しく睨みつけてきたんだが……これ、大丈夫かね?

 初仕事を前に、不安が募っていくのだった。

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