(3)係争中なので

「山下さん」


 外出先から戻ってきた亀男が、肩を荒く上下させながら部屋に入ってきた。


「なんだい」

「『訴状はもう届きましたよね?』って、しつこく取材の申し込みを受けて困っているんですけど」

「また例の記者か」

「みんなしつこいと言えばしつこいんですが、特に粘り強いのはその記者ですね」


 泉は席を立ち、ブラインドを指で下げる。

 議員会館の門に詰めかけたメディア関係者たちは、さらに増えてしまっていた。門前を埋め尽くさんばかりである。

 先頭は例の女性記者だった。その手には、


『山下議員、今日こそコメントを』


 と書かれたプラカードが掲げられていた。


「だいたい十日くらいで届くはずですので、実際に訴状はもう来てますよね? 僕も読んでおきたいです」

「いつのまにか詳しくなってそうだな。勉強したのか?」

「勉強中です。この前、あの記者に『法律は全然わかりませんので』って言ったら『秘書ならきちんと勉強して下さい』って怒られたので」


 ふむ、と泉が顎を触る。


「で、山下さん。まだ策はあるんです?」

「もちろんある。こういうときは『係争中なのでコメントは控えさせていただきます』だ。頼んだぞ」

「はあ」


 亀男は「んー」と小さくうなりながら部屋を出て行った。

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