ショート劇場「キャッチ」
タヌキング
第1話
「ふぁ・・・うぅん。」
朝の11時。夜中にゲームし過ぎて朝の3時に寝たにしては早起き出来た。
俺の名前はコウ。只今、絶賛青春中の中学2年生。まぁ、青春がセピア色で、いつ灰色に降格してもおかしくないって感じだが、毎日割りと楽しくやらせてもらってる。
"トゥルルルル"
おっと、珍しく俺のスマホが鳴った。誰からだ?俺は名前も見ずに着信に出た。
「はい、もしもし。」
「コウ!!助けてぇ!!」
耳をつんざく様な大声。これは確か小学生の頃からの腐れ縁、同級生のメグミの声だ。朝っぱらから、なんて大声出しやがる。
「どうかしたのか?」
「どうもこうもない!!今、あんたの家の前の坂を下ってるんだけど!!自転車のブレーキ壊れちゃって!!やばいスピードで下ってるの!!助けて!!」
・・・突然のトラブル。確かに微かにガシャガシャと自転車の車輪の音が聞こえる。メグミの声の震え気味の声からして嘘を言っている様にも思えない。
坂の下は交通量の多い道路だ。自転車が急に飛び出せば十中八九事故確定である。俺の背筋に汗が伝う。
「い、今どの辺だ?」
「床屋さんを過ぎたところ!!」
やばい!!やばい!!推定だがあと30秒もないじゃないか!!
俺は慌てて寝間着で裸足のまま家を飛び出した。
すると上の方から絶叫しながら自転車で下ってくるメグミの姿が見えた。予想よりずっと早い。
俺は腰を落として、来るであろう自転車を待ち構えた。本当ならもっと準備出来たかもしれないが、寝起きでテンパってる俺には冷静な判断なんて出来るわけなかった。
まぁ、ここは絶対に止める。幼馴染に死なれたら一生分のトラウマだし、朝におはようと言ってくれる奴が居なくなったら、青春が灰色確定だ。ここは俺の命に変えても受け止めてやる。帰宅部舐めんなよボケェ!!
「さぁ、来いや!!」
「きゃああああ!!・・・なーんてね♪」
「へっ?」
"キキキキキキキキッ"
かなり手前の方からブレーキをかけて、自転車を俺の直前で止めるメグミ。あれっ?ブレーキ壊れた筈じゃ?
俺に微笑みかけながら、カゴの中に入れていたウエストポーチから小さなプラカードを取り出すメグミ。プラカードには【ドッキリ大成功!!】と書かれていたので、俺の力はスッカリ抜けてしまい、その場に崩れ落ちた。あーそういえば昔からコイツは俺をからかって遊んでたなぁ。
「怒った?」
悪事がバレた子供のように、恐る恐る俺の顔を覗き込むメグミ。
「怒ってないよ。驚いたけど、怒ってない。ははっ。」
「あー、良かった。少しやり過ぎたかと思った。」
大分やり過ぎだと思うが、もういい。一大事にならなくて良かった。
「じゃあ、好きだから付き合って♪あっ、もちろん男女の関係ね♪」
「あぁ、良いよ。」
・・・ん?あれ?
「はい、契約成立。じゃあ、今からデート行くから、秒でまともな服に着替えてきて、ちなみに私はこの日のために白いワンピース用意して着てきてるのです。」
「いや、待って。付き合うって、俺と?冗談だろ?」
「オッケーしたくせに男らしくないよ。それとも何?自転車は受け止められても、私の想いは受け止められないわけ?あん?」
怖い怖い・・・急に鬼の形相なんですけど。えぇ、俺悪い事したかな?
「ほらっ、早く着替えてくる。ダッシュね、ダッシュ。」
「・・・はい。」
寝起きで悪質なドッキリを喰らい、その上、何故か付き合うことになるという驚天動地な出来事があり、セピア色の俺の青春に薄っすら薔薇色が塗られ始めたのであった。
ショート劇場「キャッチ」 タヌキング @kibamusi
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