私は、妖怪人間。
山本田口
第1話 学校生活
私の名前は、鷹野ロク美。17歳の花の女子高生です。
でも、ホントは、あたしは人間じゃないんです。半妖怪というか、妖怪人間なんです。
母は、妖怪の世界では有名な、ろくろ首で、あの首が長~く伸びる女の妖怪です。とっても美人なんですよ。あたしも母に似て、美少女って言われてます。
父は、普通の人間で、鷹野裕一といいます。小学校の先生をしてます。
要するに、あたしは、人間と妖怪の間に生まれたハーフなので、半妖怪とか妖怪人間と呼ばれるわけです。
母に似たので、実は、あたしも首が伸びます。といっても、まだまだ子供なので、母ほどは伸びません。あたしも、いつか、母のように長~く首を伸ばしてみたいです。
どうして、普通の人間が妖怪と結婚して、私を産んだのかは、後でお話します。実は、私も知らなくて、いつか聞きたいと思っています。
母に聞いても、教えてくれません。他の妖怪たちに聞いても、はぐらかされてしまいます。
どんな事情があって、人種を超えて、結婚したのか、年頃の私は、とても気になります。
そんな両親に育てられた私は、人間の年で15歳になったころ、人間として普通の高校に通うようになりました。
見た目は、どこから見ても、普通の女子高生にしか見えない私を、妖怪としてではなく、人間として育てたかったらしいのです。そんな両親の教育方針に従って、私は、普通の女子高生として高校に通うようになりました。
とは言っても、私も妖怪の一人なので、首を伸ばさないように
気をつけないといけません。もし、学校で首を伸ばしたら、大変なことになります。クラスの友だちや学校の先生から、なにをされるかわかりません。
そんなわけで、私は、女子高生として、毎朝、通学しているのです。
私の通う学校は『私立名門学園』といって、男女共学の高校です。
2年B組が私の教室です。クラスメートとも、すっかり仲良くなって、友だちも出来ました。仲良しになった、女の子たちもいるし、男の子もいます。
正直言って、私は、そんな学校生活が、とても楽しくて好きでした。
そして、私が住むのは、妖怪アパートです。
学校から歩いて15分のところに小さな神社があります。
そこの小さな祠が、妖怪アパートに通じる入り口です。
もちろん、人間は、通れません。ここに入れるのは、妖怪だけです。
でも、お父さんだけは特別です。だって、お母さんと結婚してるから……
そんな妖怪アパートは、妖怪横丁の中にあります。
妖怪横丁というのは、私だけではなく、いろんな妖怪が住んでいます。
商店街のような、お店もたくさんあります。緑豊かで、川が流れて、自然がたくさんあります。
私は、そんな妖怪横丁も大好きでした。私は、生まれた時から、ここで暮らしています。たくさんの妖怪たちに囲まれて、元気に育ちました。
でも、実は、私は生まれて、まだたったの8年しかたってません。
だから、正確には、8歳です。
私の体の中には、妖怪の血が流れているので、普通の人間より、成長が早いのです。
だから、見た目は、17歳くらいの、立派な女の子に成長しました。
この話は、そんな私の回りにいる、愉快で楽しい妖怪の仲間たちと、大好きな友だちに囲まれた学校生活の話です。最後まで、読んでくださいね。m(_ _)m
「ロク美ちゃん、学校に遅れるわよ。ご飯食べちゃいなさい」
私は、眠い目を擦りながらふとんから起きると、テーブルには、朝ご飯が並んでいました。
「おはよう……」
「おはようじゃないでしょ。顔を洗って、歯を磨いてきなさい」
「は~い」
朝から、お母さんは、忙しそうです。
「あなた、いつまでトイレに入ってるんですか。お味噌汁が冷めるわよ」
お母さんは、台所でご飯を作りながら、首だけ伸ばしてトイレの中にいる、お父さんに話しかけます。
こんなとき、首が伸びるお母さんは、便利だ。
「ごめん、ごめん」
お父さんがトイレから出てきました。
私も顔を洗って、歯を磨いて、テーブルに着きます。
「ロク美、おはよう」
「お父さん、おはよう」
私たちは、朝の挨拶をして、テーブルがある座布団に座りました。
テーブルと言っても、ウチにあるのは、昔ながらの丸いちゃぶ台です。
お母さんは、ご飯を三人分よそって、ちゃぶ台に置きます。
ウチは、純和風です。畳の六畳と寝室の六畳間、台所とトイレがあるだけの狭いうちです。
お風呂はありません。その代わりに、近くに銭湯があって、安く入れます。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
食事の前の挨拶をして、朝ご飯を食べます。食事は、必ず家族三人で食べるというのが我が家の決まりでした。
今日の献立は、白いご飯、わかめと豆腐のお味噌汁、卵焼きと焼き海苔に納豆、白菜のお漬物です。
お父さんは、納豆ご飯にして朝から食欲満点です。お母さんもおいしそうに食べてます。
私は、正直言って、納豆は余り好きじゃありません。
だって、独特なニオイがするから……
でも、お母さんは、栄養があるからといって、毎朝出してきます。
ニオイが気になるけど、お母さんに食べないと怒られるので、毎朝、いやいや食べてます。
ご飯を食べると、制服に着替えて、学校に行きます。
「いってきま~す」
「ハイ、いってらっしゃい」
お父さんがスーツに着替えながら言いました。
「車に気をつけるのよ。首を伸ばしちゃダメよ」
「ハイハイ、わかってます」
いつものようにお母さんに言われて、靴を履きながら返事をします。
「あなた、ネクタイが曲がってますよ」
「すまん、すまん」
そう言いながら、お母さんにネクタイを結び直されます。
「あなた、いってらっしゃい」
「ロク子さん、いってきます」
そして、キスをします。毎朝の我が家の光景です。ウチの両親は、万年ラブラブ夫婦なのです。
娘の私の前で、キスなんてよく出来るなと、感心します。
「ロク美、ちょっと待って」
お父さんが靴を履きながら、急いでウチを出ます。
毎朝、私は、妖怪アパートをお父さんと出かけます。
私は、お父さんと並んで妖怪横丁を歩きます。
「いってらっしゃ~い」
お母さんは、私たちが見えなくなるまで、外に出て手を振りながら言います。
「もう、お母さん…… 恥ずかしいじゃない」
「いいじゃないか。お母さんに見送ってもらうなんて、今日も一日が始まるな」
お父さんも手を振り替えしながら言います。
ウチの両親は、ホントに仲がいい。
仲がいいのは、いいけど、よすぎるのもどうかと思う。
こうして、私たちは、妖怪横丁を通って、神社の祠から、人間の世界に足を踏み出します。
「これから学校かね?」
「ハイ、おはようございます。砂かけのおばあちゃん」
妖怪アパートを出てすぐに声をかけてきたのは、大家さんの砂かけのおばあちゃんです。
いつも白い着物を着て、長くて白い髪を伸ばし、灰色の顔に目が赤くてギョロッとしてます。
見た目は、怖そうだけど、とても親切で、世話好きの妖怪さんです。
横丁の中で、一番頼りになって、ここで一番偉い妖怪です。
妖怪アパートには、私たち家族の他にも、垢なめさん、から傘くん、呼子くん、人魚のアマビエちゃんが住んでます。
でも、ちゃんと家賃を払ってるのは、私たちだけらしく、いつも家賃の催促に忙しそうでした。
「砂かけさん、いってきます」
「鷹野も毎日、仕事が大変じゃの」
「いえいえ、この仕事が好きなので」
「仕事が好きなのは、いいことじゃ。それに比べて、あいつらときたら、毎日、ダラダラしてばかりで、困ったもんじゃ。少しは、人間を見習って欲しいもんじゃな」
砂かけのおばあちゃんの愚痴が始まった。長くなるので、私は、お父さんの裾を引っ張って、歩き始めます。
横丁を歩いていると、たくさんの妖怪たちから声をかけられました。
「おはよう、ロク美」
横丁を歩いていると、早起きの妖怪さんたちから声をかけられます。
妖怪は、早起きらしい。しかも、朝から、元気一杯だ。
最初に声をかけてきたのは、小豆洗いのおじさんです。
小豆のおじさんは、大福やお饅頭を作っています。いつも川で小豆を洗っていて、それを使ったお菓子は、私も甘くて大好きです。見かけは小さなおじさんで、前掛けをして、ハゲ頭に申し訳ない程度の髪が少し生えてます。
横丁一の働き者で、私たち家族にも親切にしてくれます。
「今日も、早いな、ロク美」
「カワウソくんもいつまでも寝てちゃダメでしょ」
「おいらは、いいんだよ。これが、おいらの仕事だからな」
そんな仕事があるわけがない。妖怪は、ナマケモノが多い見たい。
川の中から私を呼ぶ声がして、覗いてみると、のんびり泳いでいるカワウソくんがいました。
名前の通り、カワウソの姿で、全身毛むくじゃらで、わらでできた浴衣を着て、大きな葉っぱを頭に乗せています。
カワウソくんは、横丁一のナマケモノです。
「おはよう、ロク美。とうふいるか?」
「おはよう、とうふくん。さっき、朝ごはんに食べたから」
「そうか、ろくろ首は、いつも買ってくれるから、助かるよ」
とうふくんは、愛称で、ホントの名前は、とうふ小僧という、とうふを作るだけの妖怪です。でも、とうふくんの作るお豆腐は、ホントにおいしいんです。
とうふくんは、小さな男の子です。いつも可愛い着物を着て、頭に傘を被って、愛くるしいクルクルした目が可愛い。
なぜか、赤くて長い舌を出して笑ってます。私が小さかった頃は、いつも遊んでくれた、幼馴染みみたいなもんです。
「おや、これから、仕事かい?」
「お歯黒さん、おはようございます」
次に声をかけられたのは、横丁で銭湯を営業している、お歯黒のおばさんです。
ホントの名前は、お歯黒べったりと言って、口だけ大きくて、目も鼻もありません。
派手な着物を着て、裾を引きずっています。背が高くて、細い体型なのに、実は、すごい力の持ち主らしい。
「また、今夜、寄らせてもらいます」
「ハイよ、待ってるからね」
お歯黒のおばさんは、そう言って、銭湯までゆっくり歩いて行きました。
どうやら、横丁を朝からお散歩しているみたいです。
「ロクちゃん、おはよう」
「おはよう、ウサちゃん」
次に会ったのは、ウサギ娘のウサちゃんです。私と同じくらいの身長で、赤い釣りスカートに白いブラウスを着てます。
髪をポニーテール風にまとめて、赤いリボンがとても可愛い。
そして、何よりも、頭のてっぺんに大きくて長くて白い耳がついてます。
ウサギ娘だから、耳が長くて当たり前だけど……
目がクリッとして、丸い顔が、いつ見ても可愛いのです。
いつもいっしょに遊んでいるウサちゃんとは、横丁で、一番の仲良しです。
「学校から帰ったら、遊ぼうね」
「うん、待ってるね」
そう言って、ウサちゃんは、長い耳を大きく振ってくれました。
そこは、耳じゃなくて、手を振った方がいいんじゃないかと思いながら、お父さんと歩いて横丁を後にしました。
アーケードのような大きな看板に『妖怪横丁』と書かれているのを越えると、すぐに祠があります。
そこを潜ると、そこは、人間の世界です。
「それじゃ、いってくるよ。ロク美も気をつけてな」
「うん、お父さんもね」
私は、そこでお父さんと別れて、学校にいきます。
お父さんは、電車で小学校まで行くので、駅まで歩いて行きます。
私は、いつもの通学路を歩いていると、同じ制服を着た生徒たちが見えてきます。
「おはよう」
朝の挨拶を交わします。同じクラスの友だちで、木村キミエちゃんです。
学校では、私と一番仲がいい友だちです。
他にも、学級委員長で、とても真面目で頭がいい、岡田かずおくん。
スポーツ万能で、いつも元気な、高橋ひろしくん。副委員長で、メガネが似合う、上田マキちゃん。
同じクラスの人たちと、いっしょに歩いて校舎に入ります。
「おはようございます」
「おはよう」
いつも校門で生徒たちと挨拶をしているのが、校長先生と体育教師の河崎先生です。
河崎先生は、若くて怖い先生で、野球部の監督もしてます。私は、イマイチ、苦手でした。
下駄箱で靴を履き替えて、廊下を歩いて、教室に向かいます。
階段を上がって、2階が私の教室でした。中に入ると、すでに生徒たちがいて、それぞれの仲良しグループ同士でおしゃべりをしてます。私の席は、一番後ろの窓際です。自分の席に座って、カバンの中からノートや教科書を出して机に入れました。
「久美ちゃん、昨日のテレビを見た?」
「見た見た。おもしろかったよね」
隣の席の佐藤瞳ちゃんが話しかけてきました。
ちなみに、私は、学校では『鷹野久美』ということになっています。ロク美というのは、妖怪横丁での呼び名でろくろ首だから、ロク美と呼ばれています。
でも、人間の世界では、ロク美という名前は、ヘンだから
『久美』にしてます。
そんなとき、クラスの人気者で、いつも私たちを笑わせてくれる、内藤たけしくんが、私の席にきました。
「おはよう、鷹野さん」
「おはよう、内藤くん」
朝の挨拶を交わすと、内藤くんが机に手をついて前のめりになって、言いました。思わず私は、後ろに背中を引きます。
「鷹野ってさ、オバケとか幽霊とか、妖怪って信じる?」
「ハァ?」
「だから、オバケとか幽霊とか、妖怪って、信じてるかって聞いてんの」
朝からなにを言ってるんだろう…… 信じるも何も、私は、毎日、妖怪たちと暮らしている。もちろん、そんなことは、誰にも言えない秘密だけど……
「う~ん、信じてないわけじゃないわ」
「そうか。鷹野も信じてるのか」
私は、言葉を濁していったのに、内藤くんは、すごく喜んでいました。
なんだか、複雑な心境です。
「それがどうしたの?」
私は、それとなく聞いてみました。興味があったわけではありません。
「実はさ、この学校に出るんだってよ」
「なにが?」
「だから、これさ」
そう言って、内藤くんは、両手を胸の前でゆらゆら揺らします。
それが、幽霊の真似だってのはわかるけど本物の幽霊は、そんなことはしません。妖怪横丁に住んでる、本物の幽霊さんは、そんなことしない。
「だから、なに?」
私は、もう一度聞いてみました。
「幽霊だよ、幽霊。もしかしたら、オバケか妖怪かもしれないぜ」
「それが、この学校に出るって言うの?」
「そうなんだよ。見たやつがいるんだって」
「まさか」
「目撃者がいるんだぜ」
「それで」
「だからさ、今夜、その正体を見てやろうと思うんだけど、鷹野も来いよ」
「ハァ? そんなの行くわけないでしょ」
第一、学校に幽霊なんて、よくある話です。目撃者だって、きっと、目の錯覚かなんかに違いありません。
「そんなこと言わないでさ、頼むよ」
「イヤよ。内藤くんと二人でなんて……」
「イヤイヤ、俺たちだけじゃないって」
内藤くんは、慌てて差し出した手を左右に振ります。
「知ってるかどうかわからないけど、オカルト研究会ってあるだろ。そこの先輩二人と、俺たち二人の四人で行くんだよ」
なにそれ? オカルト研究会なんて初めて聞いた。
そんなのがウチの学校にあるのか……
「放課後になったら、紹介するから。それじゃ、今夜、7時に学校前に集合な」
そう言うと、私の返事を聞かずに、仲良しの男子たちの間に入っていきました。私は、深いため息をついて、ガックリと肩を落とすと、隣の瞳ちゃんが言いました。
「久美って、ホント、イジられるわよね」
「自分でも、そう思うわ」
「それで、今夜行くの?」
「行かないわよ。そんな遅くに出かけるなんて、お母さんに怒られるし」
「そうよね」
私は、お母さんの顔を思い浮かべました。夜に出かけるなんて言ったら、絶対、許してくれないだろうな。
「それでさ、さっき、内藤くんが言ってたけど、オカルト研究会って、ウチの学校にあるの?」
「知らなかったの? しょうがないけどね。アソコって、部員がたった三人しかいないから、クラブにも同好会にもなってないから、知らない人は、知らないわね」
「部員が三人しかいないの?」
私は、思いっきり不思議そうな顔で聞いてみました。
「一人は、あの内藤くんでしょ。それと、確か…… 三年の西澤冬樹って言う人と、向日桃香っていう人の三人だけって話よ」
「それは、また、淋しいわね」
「だって、オカルトよオカルト。怪しすぎるじゃない」
それは、そうだ。普通の人から見たら、オカルトなんて不思議としか思えない。科学で証明されないことなんて、怪しいかインチキとか、その程度でしかない。そんなことを言ったら、妖怪人間の私は、どうなるんだろう……
そんなことをぼんやり考えていると、授業開始のチャイムが鳴って、先生が入ってきました。
出欠とホームルームで今日の連絡事項を話すと、担任の先生は教室を出て、代わりに一時間目の国語の先生が教室に入ってきました。一時間目は国語です。
国語は、私の得意科目でした。
私は、妖怪横丁で生まれて育ちました。人間のように、幼稚園や小学校、中学校は行っていません。
でも、毎日、妖怪たちに囲まれて、いろんなことを教わりました。
生まれて一年もしないうちに、私は、歩けるようになって、言葉も話せるようになりました。
両親は、私に勉強させるために、妖怪学校に入れてくれました。
妖怪横丁の外れの、そのまた山の麓にある、大きな洞窟が妖怪学校でした。
勉強を教えるのは、妖怪先生といって、怖いけど優しい先生でした。
緑色の髪を角のように逆立てて、サンバイザーをいつも被って、顔は大きく一つ目でギョロギョロしてます。
口は大きく裂けて牙が見えて、見るからに怖そうです。全身が緑の毛で覆われて、なぜか、ジーパンを履いています。
ここに通うのは、妖怪の子供たちで、読み書きや算数を教えてくれました。
おかげで、私は、国語が好きになりました。その他にも、周りの妖怪たちは、私にとっての家庭教師のようなもので毎日なにかを勉強していました。
だから、学校に行ってなくても、それなりに勉強は出来るようになったのです。
なので、いきなり高校に入っても、授業には、何とかついていけました。
それも、妖怪先生と、家庭教師になってくれた妖怪さんたちのおかげです。
もちろん、ウチに帰れば、ホントの学校の先生である、お父さんが教科書を見ながらいろいろ教えてくれました。
私の周りには、いろんな大人がたくさんいて、しかも、物知りなので、学校で教わらないようなことも、たくさん教えてもらいました。もっとも、ウチに帰っても、先生がいるというのは、ちょっと息苦しかったけど、それは、お父さんには秘密です。
二時間目は、数学でした。算数までは、何とかわかったけど、数学になって、方程式だとか出てくると私には、ちょっと難しい。だけど、数字に強い、一本足の案山子くんに教わったので、高校の数学も何とか理解できました。
ルートがどうのとか、分数がどうしたとか、むしろ数学が楽しくなってもきました。
そして、次に好きなのが、三時間目の体育の授業です。
体を動かすのは、大好きだし、走るのも好きです。小さいころは、横丁の外れにある山や森の中を妖怪たちと毎日走り回って遊んでました。
でも、今は、そうもいきません。私が普通に走ると、人間たちはついて来れません。
それだけ妖怪の体力は、勝っているということです。
なので、いつも力を抜いて授業を受けてます。
それに、調子に乗って、走ったりして気を抜くと、首が伸びてしまいます。
だから、気をつけて運動するようにしています。
今日の体育は、陸上でした。100メートルなんて、5秒もあれば走れるけど、そういうわけにはいかないのでいつも二番か三番目くらいに、ゴールするようにしてます。
それでも、走るというのは、気分転換になるので好きでした。
「久美って、足が速いのに、何で陸上部に入らないの?」
「走るのは好きだけど、競争ってのが、余り好きじゃないのよね」
いつも聞かれることなので、そういう風に答えるようにしている。
陸上部の人からも、何度かスカウトされたけど、好きに走るだけならいいけど、他人と競争するというのが正直言って、余り好きじゃないのです。
走るのが好きなら、好きに走ればいいと思うし、それで、勝ち負けを決めるというのが、私は好きじゃありませんでした。
「でもさ、久美って、足が長くてきれいよね」
「そうかな?」
走る順番を待ってるときに、瞳ちゃんに言われました。
この足は、母親譲りだから、自慢の足だったりします。首も長いけど、足も長いのです。
「お母さんに似たのよ」
「へぇ~ 久美のお母さんて、そんなにきれいな人なの?」
「う~ん、どうかなぁ……」
ホントのことは言えない。私のお母さんは、すっごく美人で、首が長い、妖怪だなんて……
そんな話をしながら、私は、何度も100メートルを走りました。
もっと走りたいけど、学校では、そんなわけにはいきません。
横丁に帰ったら、ウサちゃんと走りっこしよう。
そして、昼休みになって、お弁当の時間です。
この学校は、給食ではなく、毎日お弁当を作ってこないといけないので、どの家庭もお母さんが大変です。
私のウチでも、お母さんが毎朝作ってくれます。毎日、お弁当の時間が楽しみでした。
仲良しグループの三人と机を付け合って、四人で食べます。
「今日の久美のお弁当は、どんなの?」
キミエちゃんが私のお弁当箱を覗き込みながら言いました。
「それじゃ、お見せしましょう」
私は、もったいぶりながら、蓋を開けました。
「おおぉ……」
「今日も豪華ねぇ」
開けてビックリ。今日のお弁当は、いりたまご、ひき肉のそぼろ煮、さやえんどうの細切りの三色弁当に、から揚げ、ポテトサラダ、ミニトマト、シュウマイ、ウサギのリンゴというメニューでした。
お母さんは、料理が上手なので、毎日、手の込んだお弁当を作ってくれます。
「久美のお母さんて、料理上手よね」
「ホント、あたしの分も作って欲しいわ」
「ウチなんて、昨日の残り物だもん」
そんなたわいのないおしゃべりをしながら食べるお弁当が、私は好きでした。
お弁当を食べると、午後の授業まで、校庭でサッカーをしている男子がいたり、
仲がいい人同士でおしゃべりしている女子たちがいたり、思い思いに過ごしています。
私は、どちらかというと、体を動かしている方が好きなので、体育会系のクラブに入っている女子たちとバレーボールなんかして過ごすことのが多いです。
図書室で読書というのは、私の柄じゃありません。
私は、学校生活も、それなりに楽しんでいます。人間として生活するのも嫌いじゃない。
もしかしたら、大学に行くかも知れない。女子大生なんてのも憧れます。
お父さんとお母さんは、なんて言うかな……
でも、それは、もう少し後の話だから、今を楽しむことにします。
午後の授業も終わって、放課後になりました。
私は、かばんを持って、帰る準備をしていると、内藤くんが走ってきました。
「いたいた、鷹野、紹介するから、来てくれよ」
私は、朝のことを思い出しました。悪いけど、今夜のことは、断ろうと思っていました。
それなのに、内藤くんは、私の腕を掴むと、そのまま教室を出て、廊下をずんずん歩いて行きました。
「ちょっと、ちょっと……」
「いいから、こっちだって」
私は、引かれるままに連れて行かれたのは、一階の視聴覚室でした。
内藤くんは、勢いよくドアを開けると、私を中に入れました。
「部長、連れてきました」
そう言って、私の背中を押して前に出されました。
「あ、あの……」
「ようこそ、オカルト研究会へ。歓迎するよ。ぼくが、部長の西澤冬樹です。初めまして、よろしく」
「あたしは、副部長の日向桃香です。よろしくお願いします」
私は、どう言っていいかわからず、ただ、立っているだけでした。
すると、内藤くんが肘で私を突っつきながら小声で言いました。
「自己紹介だよ」
そう言われて、私も口を開きました。
「初めまして、鷹野久美です。よろしくお願いします」
「内藤くんが言った、霊感少女と言うのは、キミなんだね」
「ハァ?」
霊感少女って、誰のこと? まさか、私のこと…… 私は、妖怪人間なんだけど。
「話は、聞いていると思うが、一階のこの部屋に、夜な夜な怪しい影を見たという目撃者がいる。ぼくは、それは、幽霊、もしくはオバケ、または妖怪だと思っている」
「もしかしたら、宇宙人て言うこともあるんじゃないかしら」
「その通りだよ、日向さん。あらゆる可能性がある。宇宙人なら、超能力がある。地球侵略に来たのかもしれない」
「まぁ、大変。そうなったら、地球の危機ですわ」
「そのためにも、ぼくたち、オカルト研究会が、その真相を確かめるんだ」
「ハイ」
なんだか知らないけど、二人で盛り上がっている。確かに、宇宙人もいるし、オバケも幽霊も妖怪もいる。
妖怪横丁には、地球侵略に着たのに、居心地がよくて住み着いた、メロトン星人とかいうオレンジ色で細長い宇宙人が、ボロボロの部屋でちゃぶ台を挟んで、お茶を飲んでいるのを見かける。
ちなみに、ウチで使っているちゃぶ台と同じものらしい。
ますます、興味がなくなってきた。もう、どうでもよくなってきた。
「そこで、鷹野さんも含めた四人で、今夜、その真相を確かめたい。いいかね、みんな」
「ハイ」
「行きます、部長」
「そこ、鷹野さん、キミの返事は?」
「えっ、いや、私は……」
「まさか、参加できないということでは、あるまいね」
「あぁ…… その、行きます」
「よろしい」
なんで、行きますなんて言ったんだろう。物の弾みというか、断りずらい雰囲気に飲まれたというか、結局、私も行くことになった。正体を見るとか言っても、なにかの間違いに違いない。
また、ホントになにかいたら、それこそ大変なことだ。私一人では、対処できない。砂かけのおばあちゃんや下駄履きのお兄ちゃんに助けに来てもらわないと、いけないわけです。
とりあえず、様子見だけでも、行って見ようかと思い直すことにしました。
それじゃ、お母さんに、なんて言おうか、それのが問題でした。
「では、夜の7時に学校前に集合ということで、今日は、これで解散。各自、時間まで、休息をとってください」
そう言って、一時解散になりました。私は、学校からの帰り道を、ボーっとしながら歩いていました。
「ロク美ちゃん、今、帰り?」
声をかけられて振り向くと、ウサちゃんがいました。
「ウサちゃん……」
「どうしたの? なんか元気ないけど」
「うん、実はね……」
私は、今夜のこととオカルト研究会のことを話しました。
ウサちゃんは、長い耳を忙しそうに動かしながら言いました。
「確かに、確認するのは、いいことよ。何もなければ、それでいいんだしね」
「そうだけど、私の立場からすると、余り乗り気じゃないんだよね」
「そうよね。ロク美ちゃんも、妖怪だしね」
同じ妖怪仲間として、気持ちがわかるのは、うれしいことです。
「なんにしても、やってみてからよ」
「そうよね。だけど、問題は、お母さんになんていうかなのよね」
「そうかぁ…… ろくろ首って厳しいお母さんだもんね」
ウサちゃんとお母さんとは、大の仲良しなのです。
「あぁ~あ、どうしようかな……」
私は、空を見上げて呟きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます