第41話 最後の意地
少し話は遡ります。
「エリオット、お前は行かないのか?」
「俺の作戦を無視するなら俺は参加しない」
「なぜだ?俺がサミュエルに勝てないと思っているのか?」
「この際、勝負の行方などどうでもいいのだ。俺が立てた作戦を無視して緑地エリアの奥に進むなら、そこに待ち受けているのは死だ」
「何をわけのわからない事を言っているのだ。俺がルーに殺されると思っているのか?バカげたことを言うな!」
「パンジャマン、緑地エリアの奥に進むな。ここで狩りをすれば勝利は確実だし、死ぬこともないだろう」
「俺は正々堂々と勝ちたいのだ。お前が来ないなら3人で戦うまでだ。コム、馬車を走らせろ」
「本当にいいのか?」
不安げな目でコムは訴える。
「問題ない。3人でも勝てるはずだ。俺の腕を信じろ」
「わかったよ」
コムは馬に命令を出し馬車を走らせた。
「パンジャマン、俺はちゃんと警告をした。その警告を無視して先に進んだのはお前の判断だ。俺には責任はない」
エリオットは常夜の大樹を目指して歩き出した。
「パンジャマン、本当にエリオットなしで勝てるのか」
「馬車を捨てて3人で戦えば人数は同等だ」
魔獣の世界を馬車や馬で移動する時は、1人は馬車や馬の見張りをすることになる。
「でも、俺たちではエリオットの代わりはできないよ」
「大丈夫だ。俺が全てカバーする。お前たちはヘイトを稼いでくれれば問題ない」
「わかったよ。パンジャマンの腕を信じるよ」
しばらくして、パンジャマン達は緑地エリアの奥にある繋ぎ場に到着した。
「パンジャマン、オーク達が馬車を破壊している・・・」
コムは顔面蒼白になる。
繋ぎ場に止めてあったサミュエルたの馬車を、2体のオークが丸太のような腕で破壊していた。
「なぜ、こんなところにオークがいるのだ!」
「パンジャマン、ポールが危ない!」
オークに馬車を襲撃されたポールはすぐに馬車から飛び降りて、エスパスからフラムを取り出しオークに銃口を向けていた。
「なんで?こんなところにオークがいるのだよ。僕が馬車を守らないと」
ポールは馬車を守るためにフラムを発射させ、ヘイトを自分に向けさせることにした。
『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』
ポールの放った魔弾は全てオークが腕で払いのけた。ポールが魔弾の装填している間に、オークは大きな足音を立ててポールに突進した。オークのタックルをくらったポールは3mほど吹き飛んだ。地面に倒れ込んだポールに向かってオークは太い腕で殴りかかる。
『ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ』
パンジャマンは不安定な馬車の上からアヴァランチを発射した。不安定な場所の為、上手い事リコイル制御が出来ず、魔弾は首の繋目にはほとんど当たらずに、オークの背中や後頭部に当たる。
「パンジャマン、もう一体のオークがこっちに向かって来るよ」
「コム、レオナード、ヘイトを稼いでくれ」
「わかったよ」
コムとレオナードはフラムを構えて馬車から降りる。パンジャマンも馬車から降りて少し距離をとり肩幅程度に足を開き、腰を下ろして両手でしっかりとアヴァランチを構える。
「ポール!意識はあるのか?」
「僕は大丈夫だよ。パンジャマンが助けてくれたの?」
「そんなことより、なぜオークがここに居るのだ?」
「わからないよ。・・・でも、もしかしたら・・・」
「ポール何か知っているのか?」
「エリオットにこの場所に行くように脅迫された時に、馬車に小箱を積むように言われたのだよ。そして、目的についたら箱を開けるように言われていた」
「魔道香炉か!」
「たぶんそうだよ。魔道香炉を使ってオークをおびき寄せたのだよ」
「でも、それは少しおかしいだろ。魔道香炉を使っても近くにオークがいないと近寄って来ないはずだ。ここはEランクの魔獣の世界。オークが近くにいるはずがない・・・あ!そういうことか。エリオットがここに来ない理由がわかった」
「どういうことなのパンジャマン?」
「エリオットは初めからシャッス・バタイユ(狩猟対決)なんてするつもりはなかったのだ。ここでお前たちをオーク達に殺させるのが目的だったのか・・・」
「そうなの・・・僕は勝負に負ける為の手伝いをさせられてのではなく、みんなを殺させるためにここに誘導しちゃったの」
ポールは自分のしたことの重大さに気付いて涙が込み上げてくる。
「ポール!今は泣いている場合じゃない、共に協力してオークを倒すぞ!オークごときにやられる俺ではない」
「わかったよ。僕も手伝うよ」
4人は協力してオークとの戦闘に臨んだ。繋ぎ場は視界も広く邪魔する木も少ない。3人が共同してオークのヘイトを稼ぎながら、パンジャマンがアヴァランチで首の繋目、額の魔核などを攻撃する。
オークの尋常を越えたパワーの前に3人はヘイトを稼ぐどころか逃げるのが精一杯である。一方使い慣れていないアヴァランチに、オークが縦横無尽に移動するので、パンジャマンは射線が通せずにエイムを合わす事できない。
『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』『バン』
3人は避けながらフラムを発射するが、四肢の繋目や首の繋目、額の魔核には当たらずに、体に当たるだけである。強靭な皮膚を持つオークには意味はなく、威嚇射撃にもならない。
「全然当たらないよ」
「ごめん。僕も当たらない」
「俺もだ」
3人が敵わないの当然である。オークはCランクでも上位に相当する魔獣である。最低でもグランの腕は必要なので、ノルマルの3人では相手にならない。
『グォォォォォーーー』
繋ぎ場に大きな威嚇声が響く。
「ポール!後ろだ。後ろにデカいオークがいるぞ」
パンジャマンの叫び声と同時にポールが竜巻に吸い込まれて宙を舞って地面に叩きつけられた。
「あれは・・・サージュオークだ」
パンジャマンがぼそりと呟いた。
「パンジャマン、どうするの?」
「ヤバいよ。アイツはヤバいよ」
コムとレオナードの顔がみるみる青白くなり恐怖のあまり戦意を失った。
「コム、レオナード。馬車に戻れ!撤退だ」
パンジャマンが声をかけるよりも先にコムとレオナードは馬車に向かって走り出していた。
「無理だ。あんなの絶対に無理だよ」
「逃げよう」
2人はすぐに馬車に飛び乗る。しかし、ポールは血を流して地面に倒れ込んでいる。そして、ゆっくりとゆっくりとサージュオークはよだれをたらしながら近寄って来る。2体のオークもパンジャマンの馬車に向かって歩きだす。
「まだ馬車を出すなよ!ポールも助けるぞ」
パンジャマンは大声で叫ぶが、馬車はパンジャマンとポールを置き去りにして走り出す。
「待てぇ!俺たちをおきざりにするのかぁ~」
パンジャマンは走り行く馬車に向かって叫ぶが、馬車は止まることなく消え去った。
「俺の命運も尽きたようだな・・・最後ぐらいはカッコつけさせてもらうぜ」
パンジャマンはサージュオークに向かって走り出した。
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