第39話 見捨てる見捨てない
サミュエル達は馬車を止めていた場所に戻ると、そこには目を覆いたくなる光景が映し出されていた。サミュエルの馬車は大破されていて、ポールは壊れた馬車の近くで頭から血を流しながら倒れていた。そして、馬車を引いていた2頭の馬は、二体のオークによってお腹を食いちぎられていた。
※オーク 人型の魔獣で背丈は2m程。緑色の皮膚に猫背でしゃくれた下顎から長い牙を覗かせ、豚のような鼻を持つ。耳は狼のように尖っていて、不気味な黄色の瞳、手には大きな木の槍を持っている。
「逃げろぉ~」
サミュエル達が到着すると同時に豪華で派手な馬車が物凄い勢いで逃げ去った。そして、馬車が逃げ去った跡には、馬を食べているオークよりも一回り大きなオークが人間を頭から頬張っていた。
「何がおこったのだ・・・」
サミュエルは異様な光景に体の震えが止まらない。
『ウェッ』
私はあまりにも凄惨な光景をみて吐いてしまった。
「ポー・・・」
オレリアンはポールの名前を叫ぼうとした瞬間にレアがポールの口をふさぐ。
「みんな落ち着くのよ。理由はわからないけどオークが3体もいるわ。2体はポールが乗っていた馬車を襲って馬を食べている。もう1体は人間・・・いえ、あの派手なサーコートから推測するとパンジャマンを食べているわ。馬を食べているオークは普通のオークだけど、パンジャマンを食べているオークは人食いによってモール化したサージュオークよ」
※人型魔獣は、人間を何度も食べる事によって進化する。進化すると知能や魔力が上がる。そして、進化することをモールという。
※サージュオーク オークが人間をたくさん食べることによって進化した個体。背丈は2m50㎝でレザーアーマとレザーバンダナを着用して四肢の繋目と魔核を保護している。
「サージュオーク・・・なんでこんなところに居るんだ」
「わからないわ。でも、今は食事に夢中でこちらに気付いていないようね。サミュエル・・・わかっているわよね」
「・・・このまま撤退しよう。オーク2体だけならポールを救出できるが、サージュオークが居るなら話は別だ。あの化け物を相手にすべきではない」
「賢明な判断よ」
『逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・』
私は恐怖のあまり口を抑えながら後ずさりをする。
「うううぅううぅうう」
口を抑え付けられていたオレリアンは激しく抵抗しながら呻きだした。
「オレリアン、我慢して。ここで助けに行っても全滅するだけよ」
「そうだオレリアン。リーダーの指示に従ってくれ」
『今逃げないと、逃げ遅れるわよ』
私はいち早く逃げ出した。しかし、恐怖のあまりに足がからまり転んでしまう。
『逃げなきゃ・・・逃げなきゃ』
私は地面を這いつくばって必死に逃げる。
「離せ!仲間を放って逃げるなんてできるかぁ!俺は1人でもポールを助ける」
オレリアンはレアを振り切ってポールの元へ走って行く。
「オレリアン!」
レアがオレリアンを追いかけようとするが、サミュエルがレアの腕を握りしめた。
「レア・・・」
「・・・」
「わかった。作戦は変更だ。みんなでポールを救おう」
レアとサミュエルはオレリアンを追う。
『逃げなきゃ・・・逃げなきゃ』
私は少しでもこの場から離れようともがきながら這いつくばって逃げる。
「ポール!生きているか」
オレリアンが大声を出したので、2体のオークが食事をやめて、ゆっくりと動き出した。一方、サージュオークは食事をやめることなくパンジャマンの腕を引きちぎっておいしそうに食べている。
「ポール!しっかりしろ」
オレリアンはポールを激しく揺さぶる。
「・・・オ・・レリアン君」
ポールはうっすらと瞳をあけてオレリアンの名を呼んだ。
「ポール!動けるか?すぐに逃げるぞ」
「僕のことはかまわないですぐに逃げて、オレリアン君も死んでしまうよ」
「仲間を見捨てて逃げる事なんてできるか!ポール!動けるなら立ち上がれ。こんなところで寝ている場合じゃないぞ」
「オレリアン君・・・僕のせいなんだ。僕が悪いんだ」
「うるせぇ!言い訳ならここから逃げてから聞いてやる」
オレリアンはポールの腕を引っ張りあげて無理やりに立ち上がらす。
「オークが気づく前に逃げるぞ」
『バン』 『バン』
オレリアンがポールを助け出している間にレアは2体のオークのど真ん中に走って行き、左右に移動しながらヘイトを引き付けていた。2体のオークは、丸太のような太い腕でレアを殴りつけるが、レアの蝶のように舞って華麗にかわす。そして、レアがオークのヘイトを稼いでいる隙に、サミュエルがレアの手助けをするために魔弾を発射した。
「オレリアン、今のうちに逃げるのよ!」
レアが叫ぶ。
「俺も手伝う」
「ダメよ!あなたはポールを連れて逃げるのよ」
「オレリアン!サージュオークが動き出す前に逃げろ!アイツが動き出したらお前は邪魔になる」
「しかし・・・」
『ズドーーン』
緊張感高まる緑地エリアに鈍い音が響いた。
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