第30話 極秘の依頼


 ここはギルドの会議室。



 「極秘依頼の報告が届いたわ」


 

 神妙な面持ちで話し出したのはギルドマスターのヴァロテンヌである。



 ※ ヴァロテンヌ・バイカウント(子爵)・アリストロメリア 35歳 元王国騎士団のコメット(軍団長)。銀髪のベリーショート、瞳は金色、小柄で童顔の女性。



 「マスター、災害魔獣の危険性はあったのでしょうか?もし、少しでも危険性があるのでしたら即刻食用魔獣の常夜の大樹は閉鎖すべきです」


 「発見された魔道香炉は、魔獣をおびき寄せる為の物だけど、災害魔獣をおびき寄せる可能性は0とはいえないわ。少しでも安全を確保するなら常夜の大樹を閉鎖して、なぜ北のエリアに魔道香炉がばら撒かれたのか調べる必要があるわ。でも、私の一存では閉鎖は出来ない事はクロエも知っているわね。災害魔獣が目撃されれば閉鎖することはできるけど、今の状況では、王国騎士団の許可が降りない限り閉鎖は出来ないわ」


 「でも、冒険者の危険を守るのが私たちの仕事でもあります。災害魔獣が現れる危険性があるならば、すぐに王国騎士団に連絡して閉鎖をすべきです」


 「もちろんすぐに連絡はしたわ。でも、閉鎖は出来ないと言われたのよ」


 「そうですか・・・」



 クロエは悔しそうに俯いた。



 「それなら、地図の注意書きに災害魔獣の発生の危険があると記載しましょう」


 「北エリア15㎞以上の立ち入り禁止の注意書きが限界なのよ。これ以上不確定な注意書きはしてはいけないと王国騎士団から言われているの」


 

 ※魔獣の世界の地図を作成するのは王国騎士団であるが、地図の更新はギルドの仕事である。しかし、更新するには規定があり、自由に地図の更新が出来るわけではない。



 「間違っている。こんな重要な事を記載出来ないなんて・・・」



 クロエは悔しくて涙を浮かべている。



 「悔しい気持ちは私も同じよ。でもねクロエ、聡明な冒険者なら、この注意事項を読めば、災害魔獣が現れる危険を察知できるはずよ・・・いえ、キツイ言い方になるけど、察知できないようなら、冒険者として失格よ」


 「わかっています。でも・・・納得はできません」


 「クロエ聞いて、今回の事件は何かおかしな点があるのよ。私はもっと精査して、魔道香炉がばら撒かれた目的を調べるつもりよ。それに、もしもの為に備えて、食用魔獣の常夜の大樹のサブギルドにユルティム(治癒魔道具)を用意するわ」



 ※ユルティムとは四肢の欠損さえ治す事ができる魔道具。レアの母親が発明した魔道具である。国が独占しているので田舎町にある代物ではないが、元王国騎士団のコメットであるヴァロテンヌだから持っていたのである。



 「マスター・・・そのような貴重な物を用意して下さっていたのですね。それなのに私は、偉そうな口だけたたいて、何もしていません。生意気な事を言って申し訳ありません」


 「クロエ、謝ることなんてないわよ。あなたはいつも冒険者の事を親身になって考えている。その姿勢はとても大事な事よ。だから、思ったことは何でも言っていいのよ」


 「はい。マスター」



 クロエは何も出来ない自分を不甲斐無いと思っているが、ヴァロテンヌの言葉に救われた。



 「マスター、魔道香炉を持ち込んだ犯人は特定できたのでしょうか?」



 ギルド職員のサーハ(25歳 女性)が尋ねる。



 「今回の捜査の結果、新たにいくつかの魔道香炉が発見されたわ。前回発見された場所は禁止エリアギリギリの森林エリア。今回は特別許可を出し禁止エリア1㎞圏内の森林エリアを探索したら発見されたのよ。魔道香炉はかなり高額で入手経路はすぐに特定できると思ったけど、ルーセン商会に問い合わせたところ、ここ数年パステックの町や周辺の町でも購入者はいなかったわ。そもそも魔道香炉を買うのは王国騎士団か高ランク冒険者なのよ。ノルマルしかいないこの町には在庫すら置いていないわ」


 

 「犯人の特定は出来なかったのですね」


 「そうね。でも、このことから推測できることもあるわ。犯人はこの町の冒険者で、魔道香炉を極秘で入手できる者ということね」


 「マスター、魔道香炉を譲り受けた可能性もあると思います」


 「その可能性は低いわ。そんな簡単に入手できる代物ではないのよ」


 「犯人の目的は何なのでしょうか」


 「魔道香炉は王国騎士団が、魔獣の生態系を調べるために利用したり、高ランク冒険者が魔獣を一掃するのに使う物なのよ。低ランクの魔獣の世界で使う理由はわからないわ」


 「それが先ほど言っていたおかしな点ってことでしょうか?」


 「そうよ。だからもっと調べる必要があるのよ」




 ギルド内で不穏な話をしていた頃、私はやっと孤児院に戻ってくることが出来た。



 『走って帰るには少し遠かったわ。でも、いいトレーニングになったわね。さてと、食糧保管庫に行こうかしら』



 私は食料保管庫に向かうことにした。



 『うまく捌けなかったけど、味には問題はないわ。これで少しは孤児院に貢献できたかな』



 ラパンの肉は1体で30人前。1人で食べるなら10日間飢えを凌ぐことができる。そして、魔獣の肉は動物の肉よりも日持ちして保管に最適である。なので、独り占めしたいところだけど、私のせいで孤児院に迷惑をかけているので、半分は寄付することにした。寄付することにより私の罪悪感は薄れていき、代わりに達成感が込み上げてきた。




 


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