第27話 大声
私の放った3発の魔弾は1発は魔核を外したが2発は魔核に命中した。
『ほぼ止まっているのに1発外してしまったわ』
落ち着いて射撃をしたつもりだったが、力んでしまいエイムがすこしズレてしまった。ラパンの魔核には大きなヒビが入っているが、完全に破壊されたわけでない。ラパンは微量の魔力を後ろ足に注ぎ込み、渾身の力で地面を蹴り飛ばして私に突っ込んで来た。
ラパンとの距離0.5m、エタンセルに残っている魔弾は1発、私は体制を崩さずにそのままの姿勢でトリガーを引く、ラパンはこれ以上魔核を破壊されないよに命がけで突っ込んできた。ラパンとの距離はわずか0.2mに迫る。
「パン」
残り1発の魔弾がラパンの魔核を破壊した・・・と同時にラパンが私との距離を0にした。
「ドスン」
ラパンは私の腹部に当たる寸前のところで地面に倒れ込んだ。私のクロスアーマは先ほどの戦闘でヒビが入って壊れている。また同じような攻撃を喰らえば、次は肋骨が折れていたかもしれない。しかし、今回は安全を期するために1mという距離を開けた為、難を逃れた結果に終わった。
『倒したの???』
私はまだ安心していない。完全に魔核が破壊されたのか自信をもって判断できないからだ。私は倒れ込んだラパンからすこし距離を取り、もしものためにエタンセルに再装填する。
『もう、油断はしないわ』
私は再装填が終わりラパンの背後に回り込む。ラパンはピクリとも動かない。私は足でラパンを蹴飛ばして仰向けにした。ラパンの魔核は完全に破壊されていた。
ラパンが死んだことを確認すると急に体の力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。
『死んでいるわ』
私は辺りを見渡した。食事をしていたラパンはいつの間にか消えていた。おそらく銃声を聞いて逃げてしまったのだろう。そして、私は念入りに辺りを確認する。私の周りに魔獣も冒険者もいない事を確認することが出来た。誰もいない事を確認できた私は、お腹の底から言葉が上昇気流のように這い上がって来る。私はさらに念入りに辺りを見渡す。誰もいない・・・
「やったぁーーーーーーーーーーーーー。やったぞぉーーーーー」
私は生まれて初めて大声で叫んだ。大声を出した瞬間、全身に電気が走り体の細胞が活性化しているような気分がした。心臓の優しい鼓動が頭の芯まで届き、重力がなくなったかのように体が宙を浮いているように感じた。初めて出した大声は、とても気持ちが良いモノであった。
『美味しいお肉が食べれるわ』
私は食堂で調理補助をした時のラパン焼きの美味しい香りが蘇ってきた。
『解体してすぐに食べたい』
戦闘を終え緊張感がほどけた私は、急にお腹が空いてきたのである。まだ日は暮れていないので16時くらいであろう。私は朝にくず肉を食べただけで、それから何も食べていないので、お腹が減って当然である。私は孤児院に戻る前にラパンの肉を一部だけ解体して遅い昼飯を取ることにした。
『魔獣の世界から出てからの方が安全よね』
私は調理をする前に、魔獣の世界を出るために常夜の大樹に向かった。
私が魔獣の世界で悪戦苦闘していた時、サミュエル達は人間界の常夜の大樹の側にあるログハウスに居た。そこは、冒険者の休憩所兼解体場である。このログハウスを利用するには、使用料を支払う必要があるが、安価なので利用する冒険者も多い。
「ここで解体してから町へ帰ろう」
「そうね。解体は魔獣の構造を知る為の大事な業務ね」
「当たり前だ」
オレリアンはぶっきらぼうに答えながら一番にログハウスに入って行った。
「そんなに急がないの!」
レアがオレリアンの後を追う。
「僕たちも行こうか」
ポールがサミュエルに声をかけてログハウスに入って行く。
「思ったよりも大きいわね」
ログハウスに入るとすぐに受付がある。1階は解体場で2階が休憩場になっている。解体場は30㎡の大きさで、ブフのような大型の魔獣でも解体できるように滑車など便利な道具が用意されている。お金を払えば解体方法を指導してもらえる。
サミュエル達は料金を支払って解体場に向かう。
「レア、ラパンを出してくれ」
レアとサミュエルのエスパスは、魔道具で大型化されているので3体ずつラパンを収納している。
「どうぞ」
レアは解体場にある大きな台にラパンを3体並べる。
「レア、俺が全部解体してもいいか?」
「いいわよ。私は見学しておくわ」
「悪いな」
オレリアンはいつになく素直に返事をする。
「レア、こっちのラパンを1体解体したらいいよ」
サミュエルも別の台にラパンを3体並べていた。
「私はいいわ。ポールに2体解体させてあげて」
「ありがとう、レア」
ポールはレアに笑顔で返事をした。
「相変わらず綺麗にさばくのね」
オレリアンは、ラパンの首の繋目にナイフを差し込み簡単に頭を切り落とす。
「ここが前足の繋目、胴体からは3㎝、後足の繋目は胴体から4㎝、後足と前足の繋目は位置が少し違う」
レアの声はオレリアンの耳には届いていない。オレリアンは解体をしながら入念にラパンの構造を勉強しているのであった。
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