第16話 反省


 「サミュエル様、オレリアンさんがいらっしゃいました」


 「え!まだ約束の時間まで20分はあるぞ」


 「珍しいですね。いつも時間ギリギリのオレリアン君が早く来るなんて」


 「そうね。念願の魔獣の狩りが迫っているから興奮しているのかもね」


 「それは、レアも一緒じゃないのかな」


 「そうよ!私も興奮しているわ。サミュエルはどうなのよ」


 「もちろん俺も興奮しているよ」


 「僕もだ!」



 この3人は冒険者になることは3年前から決めていた。なので、やっと冒険者として第一歩を踏み出せる事に興奮を隠せない。


 デュピタンは登録をすれば誰でもなることは出来るし、魔獣と戦うことがない安全な仕事である。しかし、ノルマルは昇格試験を合格した者しかなることができないうえに、死を伴う魔獣の世界に行くことになる。なので、冒険者としてスタートするという事はノルマルとして魔獣の世界に入ることを指す。



 「みんな集まっていたんだな」



 オレリアンが深刻な表情で声をかける。



 「今日はいつもより早く来てくれたんだね」


 「あぁ、実はみんなに謝りたいのだ」


 「え!オレリアンどういうことなの?」


 「レアが昨日言っていた事に気付いたのだ。俺はまだまだ未熟だった。冒険者になることをなめていたのかもしれない」


 「レア、昨日オレリアンに何か言ったのか?」


 「実はノルマルに昇格した後、公園の射撃練習場に行ったのよ。オレリアンが居ると思ってね。そこで私・・・魔獣の世界に入る資格はないと言ってしまったのよ」


 「レア・・・」


 「サミュエル、レアは俺の為に言ってくれたのだ。レアが俺を突き放すように言ったのは理由があったのだ。レア・・・俺に後ろの射線を意識しろと言いたかったのだろ」


 「オレリアン・・・気付いてくれたの」


 「あぁ・・・でも最初は気づけずに見下されたと思っていた」


 「私はあなたの事を一度も見下したことなんてないわよ」


 「わかっている。でも、俺よりも優れた才能があるレアに言われたら、素直にアドバイスを受け取る事が出来ないのだ。レアとは幼い頃がずっと魔銃などの練習を一緒にしてきた。レアは優秀でいつも出来の悪い俺にアドバイスをくれていた。でも、年を重ねるにつれて、素直に受け取る事が出来ず、俺は1人で練習するようになってししまった・・・」



 オレリアンは体をふるわせながら、思いのたけをぶつける。


 

 「オレリアン・・・」



 レアはそっとオレリアンの側に近寄り包み込むように抱きしめる。



 「すまない!俺が間違っていた。まだまだ未熟な俺だが仲間から外さないでくれ」


 「バカ!外すわけないでしょ」



 レアは強くオレリアンを抱きしめる。



 「オレリアン、俺も君の射撃の腕は確かなものだと理解している。一緒に冒険者として第一歩を踏みだそう」


 「僕も同じ気持ちだよ」


 「ありがとう」




 「さて、明日は俺たちの冒険者としてのデビュー戦だ!輝かしいデビュー戦にする為に俺の立てた作戦を聞いて欲しい」



 オレリアンは涙を拭きとりサミュエルの作戦に耳を傾ける。



「岩場エリアでのラパンの討伐か・・・。この作戦にも意図があるのだな」



 いつになく真剣な表情でオレリアンは考え込む。



 「僕はサミュエルが意図したいことはわかったよ」


 「足場の悪い所での射撃は、ルージュの俺たちにはかなり不利になる。しかもラパンは跳躍力があり動きも早い。ラパンを討伐するには草原エリアのが良いはず」


 「そうね。オレリアンの言うとおりね」


 

 レアは子供の成長を見つめるような暖かな優しい目でオレリアンを見ている。



 「だから、ノルマルのデビュー戦に選ぶべきエリアではないはず・・・。もしかして、余計な射撃術をするのでなく、ヘイト(敵意)と後衛の射線にだけ集中しろと言いたいのだな」


 「正解だよオレリアン。ラパンは動きは素早いが魔力濃度が低いから、魔核を破壊するのは、前衛のリュージュだけでも出来る。だから、後衛の射線を気にせずに倒してしまう。俺はみんなの射撃技術が高い事はしっているから、次のステップである後ろの射線を意識した射撃を練習して欲しいと思っている」



 ※魔獣の頭部には魔核がある。魔核から全身に魔力が流れており、この魔力が血液のように体に循環されることによって魔獣の皮膚や筋力などが強化されている。魔力濃度が高いほど皮膚が堅く力も強い。


 ※魔獣を倒す方法 魔核を破壊するのが一番効果的だが、魔核がある頭部は魔獣も簡単には攻撃させてくれない。なので、体にある繋目と言われる場所を攻撃する。繋目は皮膚が薄いので、魔弾を当てると魔力の循環を弱めたり遮断することが出来る。魔力の循環を弱めたり遮断することにより、魔獣は動きが鈍くなったり、倒れこんだりするので、その時に魔核を破壊するのが正攻法である。


 

 「私も同じように思っているの。後衛の射線を意識して射撃するのは、実戦で鍛えないと本当の後ろの目を身に着ける事はできないわ」



 ※後ろの目とは射線を意識した動きを指す。



 「おれの為に用意された作戦ってことだな」


 「そうかもしれないけど、僕たちも無関係とは言えないと思うんだ。僕もレアも後衛の射線を意識しながら練習はしているけど、実戦でも同じ動きが出来るわけじゃない。サミュエルはパーティーが強くなるためにこの作戦を選んだのだと思う」


 「俺たちは学校では成績優秀者として讃えられてきた。しかし、学校での評価がよかった者が、冒険者として必ず成功するという方程式は存在しない。実際に腕を過信して死んでいった先輩方の話しをみんなも耳にした事はあるはずだよ。だからこそ、ギルドから配布されている地図を確認し、きちんと作戦を立ててから行動をする必要があると思っている」


 「もしかしてサミュエル、岩場エリアを選んだのは他にも理由があるのかしら」


 「もちろんだ」



 サミュエルが岩場エリアを選んだ理由は他にもあるらしい。



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