第15話 後ろの目
「そうか・・・レアは俺に後衛の射線の重要性を知ってほしかったのか」
射線(照準線)とは敵とアイアンサイトを結ぶ線である。射線が定まっていないと射撃しても敵には当たらない。
『そうよオレリアン君、あなたの射撃方法だと後衛の射線が通っていないから、後衛が的を絞れずに困ってしまうのよ』
前衛であるルージュの役割は、敵である魔獣にダメージを与えつつ、ヘイト(敵意)をルージュに向けさせる事。そして、後衛であるブロンは少し離れた安全な場所で魔獣にとどめを刺す事である。この連携を上手くするには射線は需要なことである。ルージュが邪魔でブロンが射線を通すことが出来なければ、ブロンは安定した射撃が出来なくなる。
「俺は自分が上手くなることだけしか考えていなかった。魔獣の世界に入る資格がないと言われて当然だ」
オレリアンは膝を落としてうなだれる。
『オレリアン君、そんなに落ち込むことないわよ。私だって後衛の射線の事なんて考えずに命中率を上げるための練習ばかりしていたわ』
後衛の射線を意識して射撃するのはノルマルの冒険者なら必然である。しかし、戦闘中にきちんと後衛の射線を確保しながら射撃できるようになるのは数年かかると言われている。
「ポールは射撃術よりも後衛の射線を優先していたんだな。それなのに俺はポールの射撃をバカにしていた。レアにいたっては後衛の射線を確保しつつソテーステップをしていた。俺は・・・あいつらの仲間にふさわしくないのか」
『オレリアン君・・・』
私はオレリアンの気持ちが痛いほどわかる。私は勉強も魔法も射撃もサボらずに頑張ってきた。しかし、結果はどれも人並み以下の実力である。一生懸命がんばっても才能のある者に追いつくことは出来ないと悲観して、自分はダメな人間だとくよくよしていた。
「ダメだ!ここで逃げたら俺の夢は叶わない。俺はあの二人の天才と一緒に冒険者になり夢を叶えるのだ」
『よく考えたらオレリアン君は学内では3位の成績を誇る優秀な人だったわ。そうよ、私と比べたらオレリアン君もポール君も天才だったわ・・・』
私はオレリアンの気持ちがわかるなんて思ったことに後悔した。
「明日素直に謝罪をしよう」
オレリアンは立ち上がり再び射撃の練習を再開した。
次の日の朝、ここはサミュエルの部屋である。
「おはよう!レア」
「おはよう!サミュエル」
「早速だけど、みんなが来るまでに最初の狩りの内容を確認してほしい」
「わかったわ」
パステックの町が所有する常夜の大樹は2つある。1つ目はEランクの魔獣の世界に通じる常夜の大樹で食用魔獣がメインに生息する。2つ目もEランクの魔獣の世界に通じる常夜の大樹だが、素材魔獣がメインで生息する。
※魔獣の簡単な分類 食用魔獣 食材として使用できる魔獣 素材魔獣 素材としての価値が高い魔獣 災害魔獣 人間を捕食とする危険な魔獣 無価値魔獣 食用にも素材にもならない魔獣
「初めてなので、食用魔獣のラパンの狩りに行こうと思っている」
「わかったわ。でも肝心なのはどこのエリアに行くかだわ」
「平原エリアと言いたいところだが・・・あえて岩場エリアに行こうと思う」
「足場の悪い岩場エリアに行くのはオレリアンの為かしら?」
「そうだよ。オレリアンには後衛の射線の重要さを理解して欲しいんだ」
「その意見には私も賛成だわ。オレリアンは射撃の腕は確かだけど後衛の射線に対する意識がなさすぎるわ」
「そうだね。昨日の昇格試験も全く後衛の射線を通してなかった」
「そうね。魔獣の世界に行くには後ろの目は重要な事。岩場エリアで後衛の射線の重要性に気づいてくれたらいいのだけどね」
※後ろの目とは後衛の射線を意識することを指す。
「オレリアンが本気で冒険者になりたいなら、俺たちが教えるのではなく自分で気づかせないとね」
「サミュエル様、ポール君がおみえになっています」
「すぐに部屋に案内してくれ」
「わかりました」
「集合時間より15分も早いわね。ポールらしいわね」
「そうだね。あいつは真面目だからね。レアと違って」
「何よ!その言い方。私が真面目じゃないって言いたいの」
レアが頬を膨らませる。
「レアは学校を抜け出して公園の射撃練習場に行ったりしてたからね」
「サミュエルも一緒に来てたじゃない」
「そうだね。でも、ポールはいくら誘っても勉強は大事だって言って来なかったよ」
「たしかにね、ポールに比べたら私は真面目じゃないかもしれないけど」
『ガチャ』
サミュエルの部屋の扉が開く。
「なんか僕の話しでもしているのかな」
「ポール、そうなのよ。サミュエルが私が不真面目って意地悪を言うのよ」
「相変わらず仲がいいね!」
「もう!ポール。ちゃんと聞いているの」
「聞いているよ。早く着いて邪魔をしてしまったかな」
「ポール、君が15分前に来るのはわかっていたから問題はないよ」
「サミュエル、僕にも初陣の事を説明してくれないか」
「もちろんだとも」
サミュエルはポールにレアと同じように説明をした。
「さすがサミュエルだね。僕もこの作戦には賛成だよ」
3人はオレリアンに後衛の射線の大事さを知ってほしいと願っていた。
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