9話

「うぅ。また逃げて来てしまったわ」

 だ、だって……恥ずかしかったんだもの。もしかして私、とっても失礼なことをしてしまったかしら?あ、あわわわわっ。どど、どうしましょう。

「あ、あうぅ。私ったら、情けない」

 ううん、それにしてもどうしてかしら…?さっきから胸のドキドキが止まらないわ。

 この気持ちは……はあ、わからないわね。シイナに聞けばわかるのかしら。帰ったら聞いてみましょうか。


「ただいまー。シイナ、いるー?」

 まだ明るいけど、いるのかしら。なんて考えていたら奥の部屋の扉が開いて、ドタバタとシイナが出てきた。…なんだ、いるじゃないの……。

 それはそうと……

「ねぇシイナぁ。さっきからね、ルナ。吸血鬼さんのこと考えるとね、胸のドキドキがね、とまらないのぉ。なにかわかる?シイナぁ」

 少し考えるような仕草をしていたシイナが私に向き直り、いった。

「え。もしかして、それって…」

 な、何?もしかして…び、病気…?深刻な顔しないでよぉ。こ、怖い……。

「ソフィア、それたぶん恋よ」

「こ、い……?」

 恋って何かしら…?も、もしかして心臓の病気なんじゃ。

「シ、シイナ。それってまさか病気とかじゃないわよね?」

 私は結構真剣に質問をしていた……つもりだったのだけど……

「び、病気…?あ、あはははははっ。ソフィア、それ…本気でいっているの」

 む、むぅぅ。シイナ、ひどいわ…私は本気だったのにぃ。シイナは目に涙を浮かべながら笑っている。

「ふ、ふふっ。コホンッ……ご、ごめんなさいソフィア。まず、恋って何かわかる?」

 私はわからなかったので正直に首を左右にふった。するとシイナは…

「……まぁ、そうでしょうね。私もよくわからないのだけども、恋というのは感情よ」

 感情。なんだかさっき、聞いたような…?

「ええと、例えば……その人と一緒にいたいなぁって思ったり?触れたいなぁって思ったり?すること、だと思うわ……たぶん」

 なんだ、シイナだってよくわかっていないじゃないのぉ。でも、おかしいわね……

「ねぇシイナ、私、それくらいならルナに対してじゃなくても思ったりするわ。例えば、シイナとかっ」

 私はそう言ってからシイナに抱きついた。

「わわっ、ととっ。あ、危ない危ない」

 シイナは最初よろけてしまっていたけど、なんとか私を受け止めてくれた。

「えへへ、ありがとうソフィア。でも、これからは気をつけてよね」

 お、怒られちゃった。まぁ、でも……

「これくらい別にいいじゃない。ケーチッ」

 これが私たちだから。ね、シイナ。

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