第5話
――この世界は荒廃している。
度重なる核戦争や化学の発達による土壌汚染は、限りある自然をじわじわと消費した。そうしてほとんどが出涸らしとなった、もうじき滅びゆく大地に、人々はぽつぽつと小さな町を造って暮らしている。
≪リーン・セントラル≫は、その中でも大きな町だ。資源を大量に消費するからととっくに生産も使用も禁止されたが、数十年前はそこらじゅうの道路を自動車がぶいぶい走っていたりした。今はただの横っ広い大通りだが、消えかけた横断歩道や、タイヤを引きずった跡の名残りがある。
メリノとオーシャンは、町の外へと真っ直ぐにのびた大通りを並んで歩いた。地平線に沈みはじめた夕陽に照らされて、長い影がふたつばかり、コンクリートのうえに落ちている。
「どうして彼女と喧嘩したの」
「ん、」
風が砂を含みはじめて、あらゆる粘膜がごろごろと不快であった。メリノはなるべく必要なものだけを見られるよう目を細めて、鼻と口を覆うようにパーカーをたくしあげる。
「死ぬにはどうしたらいいのかな、って言ったんだ。そしたら彼女、すごい剣幕でさ」
「え」
「俺は彼女が歳をとって、おばあちゃんになって……やがて死んでしまっても、ずっとこのままの姿で生き続けるんだよ。だから、彼女と一緒に死ぬにはどうしたらいいのかって訊いただけなのに」
「思うだけにしとけばよかったんだよ。そんなこと言ったら誰だって怒る。ふつうはね」
「そうなのかなあ」
腑に落ちない、といった面持ちで(といっても顔は半分以上隠れている)メリノが唸った。
「たいてい自分が死んだら、一緒に死んでほしいとかって思うんじゃないの」
「大雑把すぎ。なかにはそういう人もいるってだけの話だろ」
***
しばらく歩いて辿りついたのは、荒野にある小さな町だった。もとは休戦中の歓楽街として形成されたピンクのネオンがそこかしこに光るあやしげな集落だったが、今はすっかり大人しくなって寂しいくらいだ。
ここはどこ、とオーシャンが訊くので、名前はないよと答えた。
「もともと、がらくたを寄せ集めたおもちゃ箱みたいなところだったから」
歩きながら、敵も味方もいっしょくたになって、酒場のテーブルを囲んで朝まで飲んで食べて騒いだのを思い出す。メリノはあまり陽気なほうではなかったが、ここではたくさんの知り合いができた。時がくれば、そんな夜のことは忘れて互いに銃口を向けあうというのに。
人々がまばらにトタン屋根の隙間であるだけの通りを行き交っていて、薄いベニヤ板を組み合わせてつくった各々の家に帰っていく。青とか赤のペンキが塗ったくられた簡易的な壁が懐かしく、メリノはきょろきょろと視線をあちこちに泳がせた。
「なんかさがしてるの?」とオーシャン。
「ん、いや。この辺にたしか」曖昧な返事をしているうちに、目的の建物は見つかった。
メリノが少し緊張しながら、建て付けが悪くてがぱがぱしているドアを開くと、いらっしゃい! と大きな声で迎えられた。
中は倉庫のようなのっぺりとした空間に、木箱やドラム缶が並んでいるだけの簡素な平屋だった。お湯を入れるだけの即席麺とビスケット数枚を客に配りながら、中年の夫婦が「あっ」と声をあげる。
「メリノ? メリノだよな!」
「うわあ、久しぶり。全然変わってないね!」
最後の客には半ば押しつけるように手渡して、奥さんの方が駆け寄ってきた。おいおい、と旦那は困ったように後ろ頭を掻いてから、その客に悪い悪いと謝っている。
「ああ、久しぶり」
「さあはやく、座ってよ! そっちの子も」
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