第179話 ガルム小隊解散
クレイ 「まぁ、ぶっちゃけて言うと、お前達の行動の責任を俺に負わせないでくれって話だ。お前達という荷物から解放されるために、俺はお前達を奴隷から解放するのさ。悪く思わんでくれ」
ビューク 「まぁ、奴隷から解放してもらって悪く思う事もないが…」
アダモ 「…自由に行動する者は、その行動の責任も自分で持つ必要がある。子供ではないのだから、誰かに責任を負わせたまま好き勝手行動するのはおかしい。当たり前の事だな」
ライザ 「俺達が、奴隷なのに自由に行動させてもらってるのがおかしかったんだよな…」
クレイ 「魔法契約の内容は詳しくは聞いていないが、おそらく、この国に対する軍事行動は禁止という事になるだろう。この国でクーデターなどはもちろんできないし、敵対する国に渡ってこの国と戦争する事もできなくなると思う。それ以外にも…例えば政治運動等が制約されるかとかもあるかも知れない。まぁ内容は契約前に詳しく確認してくれ」
コズ 「俺達は…奴隷じゃなくなるのか…」
クレイ 「ああそうだよ。今後は、この国の国民として生きていってもいいし、もちろん、国外へ移住するのも自由だ」
マルボ 「だけど……急にそんな事言われても……解放された後、俺達どうすれば…? ガルム小隊も解散てことだろ?」
クレイ 「退職金代わりにこのクランの拠点はお前達にやるよ。金は王様からもたくさんもらったしな。ここでクランを作って冒険者活動をするもよし、何か商売を始めるもよし。あるいは、違う街や違う国へ行くもよし。好きにしてくれ」
アダモ 「…希望者は、クレイと一緒に冒険者を続けるって事でも?」
クレイ 「ああ、まぁ、構わないが、すまん、一つ言い忘れていた。俺の方にも、解放に当たって条件があるんだ。それは、俺の秘密を…武器や俺の能力、リルディオンについて、一切喋らない事。そのための魔法契約をしてもらう。色々と制約が多くなって申し訳ないが…」
カラザ 「このまま奴隷で居たいっていうのは……?」
クレイ 「その場合は、それでも構わないが、これまでのように自由は保証できない事は覚悟してくれ。奴隷を自由にさせるなというのが領主の意向だ。
ヴァレットの街は比較的奴隷に優しいが、この街にも他の街から人間が来る事もある。そういう者達は、奴隷は奴隷らしく扱う可能性が高い。そういう者達とトラブルになるのは、ヴァレットの街としても望まないという事だ。ましてや、今後、他の街で活動する事もある予定だ。そうなったら、自由に行動させる事はできなくなると思う」
アダモ 「なるほどね。まぁ、クレイには、体を治してもらった恩がある。クレイの負担にならないようにしてくれと言われたら、NOとは言えねぇなぁ…」
アダモ 「……クレイよ、今日は飲むか! 酒が嫌いなのは知ってるが、今日くらい付き合えよ!」
クレイ 「ああ、そうだな…。クラン・クレユカの解散パーティだな」
アダモ 「そういやそんな名前だったな」
クレイ 「予算は気にしなくていい、好きなだけ飲み食いしていいぞ!」
クレイはアダモ達と街の繁華街に繰り出していくのであった。
* * * *
翌日から早速、クランの奴隷達の解放の手続きに入った。
まず、全員リルディオンに連れていき、秘密厳守の魔法契約を掛けてもらう。
次に、王都へ向かう。転移で出入りするのは拙いという事で、面倒だが馬車を四台買って分乗しての移動である。
王都についたのは夕方になってしまったので、宿に泊まる事にした。ただ、少し良い宿に泊まろうとしたところ、奴隷を客として扱うのを拒否されてしまい、結局安宿に泊まる事になってしまった。高級宿では、奴隷は奴隷専用の粗末な部屋が用意してあり、そこに泊まらせるのが普通で、他の客と同じ様に宿の中を歩かれると困るというのだ。言ってみれば厩に繋がれる家畜と同じ扱いである。
なるほど、これが普通の奴隷の扱いかと納得するガルム小隊の面々であった。
* * * *
翌日、王宮に馬車で向かう。平民街から貴族街に入る場所には門があり、門番が居る。そこで怪しい者は身分を改められる事になるが、クレイ達の馬車も当然門番に止められてしまう。
ただ、クレイは予め宰相に奴隷を連れてくる時用の紹介状を渡されており、それを見せるとすんなり通してもらえた。
クレイ達が門を通ったのが報告されていたのか、国王が話を通しておいてくれたのか、王宮の門番に止められる事はなく、すぐに宰相に面会する事ができた。
宰相も既に準備を進めておいてくれたようで、既に契約魔法を使える王宮専属の魔法師が一緒に来ていた。
魔法契約の内容はクレイの予想した通り、国に反する目的での武力行使、そして政治運動なども一切禁止という事であった。ただ、国民としては認め、義務を果たせば権利は与えると言う事であった。もちろん、他国に行きたければそれも自由であると。
全員それを受け入れ、奴隷の首輪を外してもらう。こうしてガルム小隊の者達は晴れて奴隷から解放されたのであった。
* * * *
王宮から出たクレイ達。
首輪が外れた元奴隷達は晴れやかな顔をしていた。
クレイ 「じゃぁ、ここで解散としよう。お前達は王都の観光でもしてくればいい。その後ヴァレットに戻ってもいいし、なんならこのまま王都に住みたい奴は残っても良いかも知れんな」
アダモ 「クレイはどうするんだ?」
クレイ 「前にも言ったが、俺は当分冒険者活動は休業予定だ。飽きるまで適当にぶらぶら遊んでいるつもりだよ」
アダモ 「贅沢だな」
クレイ 「お前達だって、当分働かなくても生活できる金を持っているはずだろう?」
※ダンジョンで確保した素材は隊員達とルル・リリで山分けにしたので、それを売って大金を得ているのだ。
クレイ 「まぁ、ゆっくり、これからについて考えれば良いと思うよ」
アダモ 「なぁ、皆で話し合ったんだが……俺達をそのままクレイの部下として使ってくれないか?」
クレイ 「そう言われてもなぁ、さっきも言ったが、当分仕事をする気はないから、何もやる事がないんだよ。冒険者活動がしたいなら、お前達だけで続けてくれてて構わないがな」
アダモ 「クレイは今後もヴァレットの街を拠点として活動するんだろう?」
クレイ 「ああ、まぁ、当分はそのつもりかな。先の事は何も考えてない」
アダモ 「なら、俺達もヴァレットの街でクランを作って冒険者活動する事にするよ。クレイが何かやる気になったら……あるいは何か助けが欲しい時には、俺達を呼んでくれ。その時には俺達は何を捨てても駆けつけると約束する」
クレイ 「……全員?」
アダモ 「ああ、みんな、故郷がどうなったか見て来たいと言ってるから、しばらくは旅行に出ていると思うが、また必ずヴァレットに戻ってくるつもりだ」
クレイ 「そうか…まぁ、じゃぁ、何かあったら声を掛けるよ。それまでは、それぞれに自立して活動していくということで」
アダモ 「ああ、まずは故郷の地に、家族や仲間達、同胞達の墓を作ってやるつもりだ。金はあるからなんとかなるだろう。お前はまぁ、俺達が戻るまでしばらくゆっくりしているといいさ」
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