第178話 ガルム小隊

さて、襲撃者を退け、ヴァレットの自宅に戻ってきたクレイであるが、その夜……


クレイはクランの拠点に行き、アダモにガルム小隊のメンバーを全員集めるよう指示した。


クレイは、ガルム小隊には自由行動を許可しているため、流石に今日の今日では、全員集めるのは難しいだろうと思ったので、集合は翌日で良いと言ったのだが、いつクレイから指令があっても即集まれるようにアダモが心がけさせていたそうで、その場ですぐに全員集合できてしまった。


クレイ 「アダモ……」


アダモ 「おう…?」


クレイ 「カラザ」


カラザ 「へい…?」


クレイ 「ビューク。ライザ。マルボ。ドニー。メグス。デコバル…」


クレイはガルム小隊十七名の名前を一人ひとり全員呼んでいった。


クレイ 「ユネイ。ユラー。コズ。ヘオーテ。ダニス。ホモス。フィル。ヤドー。ザボー…」


ライザ 「…どうしたんだ?」


クレイ 「お前達が居たからダンジョン攻略もできた。よくやってくれた。礼を言いたい」


ビューク 「なんだい、急に? まるでお別れの挨拶みたいだな」


クレイ 「実は、王都で王様と会ってきた」


アダモ 「ほう?」


ライザ 「王様はなんだって? まさか、俺たちを返せとか……?」


クレイ 「いや、ミトビーツ王に、ダンジョン完全踏破の褒美をやると言われた。最初は爵位を与えると言われたんだが」


コズ 「おお、貴族の仲間入りか!」


クレイ 「それは断った」


ドニー 「なんでだよ、もったいねぇ」


クレイ 「えっと、お前達は知ってたはずだよな? 俺がもともとこの街の領主の息子だって事を」


ユネイ 「そうだったっけ?」


ビューク 「そんな事言ってたな、そう言えば」


クレイ 「貴族は色々と面倒事も多いからな。今更貴族に戻る気はない」


ドニー 「へぇ、そんなもんかね」


クレイ 「そこで、王様には別の褒美に変えてもらったんだ」


デコバル 「何を貰ったんだ? 嫁さんとか?」


クレイ 「俺が所有している戦争奴隷を、解放する許可を貰った」


ビューク 「確か俺達は、国の許可なく売買ができない、また奴隷から解放する事も禁じられている、だったよな?」


クレイ 「ああ、その制限を解除し、正式に奴隷から解放する許可を貰ったんだ。ただし…条件付きでな」


お互いの顔を見合わせざわつき始める面々。


アダモ 「…どんな条件だ?」


クレイ 「それは、解放後もこの国に対して敵対行動を取らないという魔法契約を交わすことだ。その条件を飲むならば、アダモも含めて、全員解放してよいと許可を貰った」


ヘオーテ 「ルルとリリはどうなるんだ?」


クレイ 「ああ、先に言うべきだったな。二人は既に解放済みだ。二人は戦争捕虜ではなくタダの借金奴隷だったからな。ダンジョン踏破の稼ぎで借金を返し終わったと届け出て手続きをした」


へオーテ 「へぇ、それは…! お、めでとう?」


ルル・リリ 「ありがとにゃ」


へオーテ 「じゃぁ、もしかして、二人ともお別れって事か…?」


クレイ 「ああ、二人は自由にどこへでも行ける」


ルル 「どこへも行かないにゃ」

リイ 「クレイと一緒に冒険者をするにゃ」


クレイ 「まぁ、そういう選択肢もある」


ビューク 「じゃぁ俺達も…?」


クレイ 「もちろん、奴隷でなくなれば自由にどこにでも行ける。祖国に帰る事も…とスマン、もうそこは占領されてこの国の領土となっているんだったな」


ライザ 「それでも、祖国がどうなったか、一度は見てみたいがな…」


クレイ 「ダブエラだった場所は、元の住人達はすべて他に移され、土地の名前もすべて変えられ建物も取り壊され、完全に別の街になっていると聞いた」


ライザ 「それくらいのほうがスッキリ諦められていいかもな」


アダモ 「…俺達を自由にしてくれるというのは有り難い話だが…クレイはそれでいいのか?」


クレイ 「ああ。これは冒険者ギルドのマスターや領主とも話し合って決めた事なんだ。奴隷を所有していると、その奴隷の行動について、全ての責任を負う必要がある。だから、普通は奴隷に自由を与えたりはしないのだそうだ。もし奴隷が何か問題を起こしたら、その持ち主が責任を取らされる事になるからな」


デコバル 「俺達は問題を起こしたりはしねぇぞ? 問題起こすなって命じられているしな」


クレイ 「分かっている。だが、この国では奴隷の地位は低い。この街は比較的優しいが、他の街では奴隷はモノとして扱われるんだ。そのために要らぬトラブルに巻き込まれる可能性もある」


ユネイ 「トラブルってどんな?」


クレイ 「この国には、奴隷が好き勝手に出歩いていると、気に入らないという人間が居るんだよ。奴隷は奴隷らしく、鎖に繋がれているべきだってな。


単に不愉快で済めばいいが、意地の悪い奴が、問題を起こさせようとちょっかいを出してくる、なんて事もよくある話なんだそうだ」


ドニー 「そんな奴ぁぶっ飛ばしちまえばいいじゃねぇか?」


デコバル 「だから、それをやって相手に怪我でもさせたら、主であるクレイが責任を問われるって話だろうが」


ドニー 「あ…! そっか…」


クレイ 「そういう時、今のままでは、お前達が俺に迷惑が掛かる事を気にして、抵抗できず怪我をしたり命を落としたりする可能性がある。俺はそうなって欲しくはないのさ」



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