第158話 クレイに死角なし

一応、クレイはサリーが嘘をついている可能性も疑っていたが……


サリーについて【鑑定】した―――つまりリルディオンのデータベースからサリーの過去の経歴情報を引き出し確認したところ、嘘をついてはいないと判断した。サリーの過去を見る限り、特に犯罪組織と関わっているような情報は出てこなかったのだ。


クレイ (しかし残念だな…もし、直近の情報まで全てが確認できれば犯人もすぐに特定できるものを…)


世界の全ての事象が記録されているという謎のデータベース=【ザ・ワールド・レコーズ】。だが、“世界の全ての事象” などという膨大なデータにインデックスをつけて整理保存するとなると、この世界のシステムにどれ程の処理能力があるのか分からないが、やはりある程度タイムラグが生じるのは仕方がない事なのだろう。


クレイは情報が反映され取り出せるようになるのにどれくらい掛かるのか尋ねてみた。エリーの返答は、『早ければ数日、遅ければ十数年』というものであった。


クレイ 「十数…年???」


驚いたクレイだったが、そのように長い時間が掛かるのはレアケースだという事なので安心した。だが、1~2ヶ月程度掛かる事は、割りとよくある事らしいので、覚悟はしておいた方が良いという事であった。


タイムラグ以外にも、【ザ・ワールド・レコーズ】には色々と制約があるらしい。なんでもかんでも情報を引き出せるというわけではないのだそうだ。例えば先日襲撃してきた暗殺者について調べようとしても、クレイが直接目にしていない者の情報は見られないのであった。


(否、襲撃者の過去の経歴の記録はどこかに情報があるはずなのだが、それを引き出すための検索キーワードが分からないのだ。地球でも、仮にもし、インターネットに世界の全ての情報が記録されていたとしても、外見も分からない、名前も分からない、その他、一切の情報が分からない人物について情報を検索しようとしても、どうしたら良いのか分からないのと同じである。仮に、この街に存在している人間に限定して、一人ひとり経歴を虱潰しに見ていったとしても、“クレイを襲撃した” という直近の行動は記録されていないのだから、見つけようもない。)


クレイはいつか、時間がとれたら【ザ・ワールド・レコーズ】から “この世界の成り立ちの秘密” について調べてやろうと思っていたのだが、どうやらなかなか【神】には近づけないらしい。


クレイ 「長くとも1~2ヶ月待てば犯人は分かる可能性が高いって事か……しかし、いい加減ウザいな。毒を使われると、周囲にも被害が出かねないし、どうしたもんか……」


だが、考えてみてもこれと言って良いアイデアは浮かばないクレイであった…。これまでのところ、相手は一切証拠を残していない。なかなか巧妙である……。






その後、反省したサリーは警備隊に自首したのだが、睡眠薬だと思っていたし、誰も結局被害を受けていないと言ったところ、忙しいのにくだらない事を言ってくるなと相手にされなかったらしい。この世界の街の警備隊というのは、領主の命令で街の治安を守っているだけなので、平民の小さな犯罪の取締まではいちいち取り締まろうとはしないのだ。


してみると、クレイが訴え出ても、裁判どころか相手にされなかった可能性が高かった。実のところ、警備隊を動かすのは騒ぎ方次第であるのだが……


例えば、店で喧嘩騒ぎでもあれば、警備隊は対応せざるを得なくなる。街の治安に関わる事だからである。それに、クレイは貴族に伝手がある。叔母は王宮騎士団長であるし、父は隣町の子爵である。その伝手を使えば裁判まで持っていく事は可能だったかも知れないが……そもそも、クレイはサリーをそこまで断罪したいとも思っていなかったので、反省し謝罪したサリーについては許す事にしたのであった。


だが、クレイが許しても、店の主ポンズとしては、このままサリーを雇用し続ける事はできなかった。飲食店として、客に毒物を出したという事は、ポンズ的には絶対にあり得ない事らしい。


ただ、サリーも反省しているようなので、別の店に紹介状を書くと言ったのだが、サリーはこれを機に田舎に帰ってやり直すと言うので、黙って送り出す事にしたのであった。




  * * * *




■暗殺組織 闇烏のアジト


毒殺は闇烏ブレラの本気の現れであった。過去の歴史を振り返っても、伝説的な強さを誇る多くの武人や英雄が毒殺されて人生を終えている。手強い相手を抹殺するのに、毒殺は歴史的にも確実性の高い手法なのだ。


だが、クレイにはそれも通用しない事が判明した。


ブレラ 「毒が通用しない、だと?」


ドリー 「どうやら【鑑定】のスキルを持っているようでして」


ブレラ 「なるほど、鑑定されて毒が混入しているとバレたというわけか。だが、全ての飲食物をいちいち鑑定しているわけでもあるまい? 気付かれないようにうまくやれなかったのか…」


ドリー 「素人を使うと、どうしても不自然になりがちではありますね。次は、私が直接やってみましょうか」


ブレラ 「だめだ。一度失敗した手は使わないのが鉄則だ。それでなくとも一度類似の方法(眠り薬)で失敗しているのだからな…」


ドリー 「時間を置けば、そのうち油断するとは思いますが…」


ブレラ 「いいや、ダメだろう。今後はきっと、口にするモノ全てを鑑定するのが習慣化してしまう可能性がある。そうなれば、毒物はもう通用しない」


ドリー 「二~三年待てば、油断するのでは…」


ブレラ 「そんなに待てるかーい! 侯爵にはできるだけ早急にと言われているんだ……」


いよいよ切羽詰まってきて頭を抱えるブレラであった。




  * * * *




さて、王都の観光も飽きてきたクレイは、そろそろヴァレットに戻る事にした。


帰りももちろん転移なので一瞬である。


ヴァレットの自宅に戻ると、ポストに手紙が届いていた。


封筒にはヴァレット子爵家の紋章がついている。


内容は…


クレイ 「やべぇ、連絡忘れてたわ…」



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