第157話 帰ってくれ

クレイ 「…俺には【鑑定】のスキルがあるんだよ!」


サリー 「そんなとってつけたような嘘を…」


クレイ 「嘘じゃないさ、何なら何か鑑定してみせようか? 例えば…お前の名前は…サリーだな」


サリー 「ぷっ! そんなんで騙されないわよ! 名前はさっきマスターが呼んでたじゃない!」


クレイ 「年齢は二十八歳」


サリー 「……え? なんでそれを…」


※クレイには【鑑定】スキルはない。ただ、リルディオンのデータベースから情報を呼び出す事ができるので、似たような事が可能なのだ。(直前の事象はすぐには呼び出せないという思わぬ弱点が露呈したばかりだが、相手の出自等の情報を読み出す分には何も問題ないのである。)


ポンズ 「ん? サリーお前二十二歳って言ってなかったか?」


サリー 「二十二歳ですよ! こっ、こいつが嘘言ってるだけですから…」


クレイ 「嘘じゃないさ。そうだな、じゃぁ今度はマスター、あんたは四十三歳だな。…生まれはダグアという街か」


ポンズ 「…! 当たってる…」


サリー 「そんなの…事前に調べてれば分かる事でしょ!」


クレイ 「何のためにそんな事調べるんだよ」


ポンズ 「……いや、俺は周囲にはいつも、出身はバレスだって言ってるんだ…ダグア出身だとは、誰にも言った事はねぇんだよ…」


サリー 「え」


ポンズ 「ダグアはバレスよりさらに北にある小さな村でな。そんな村の事は誰も知らないし、俺は成人してからはバレスでずっと働いていたから、バレスの出身だって周囲には言ってたんだ」


サリー 「…それじゃ……」


ポンズ 「サリー? お前、まさか…」


サリー 「か、鑑定ができたからって、毒を私が入れたって証明にはならないでしょう?!」


クレイ 「じゃぁ、その辺は裁判ではっきりさせようか。隷属の首輪で証言させれば嘘かどうか分かるだろう? ついでに誰に頼まれたのかも、是非喋ってもらおうか。衛兵を呼んで逮捕してもらおう、殺人未遂罪だ」


サリー 「ちょ…毒だとは知らなかったのよ! そこまでする話じゃないでしょ!」


ポンズ 「……なぁ、あんた、騒ぎを起こされても困るんだよ。衛兵なんて連れてきて、この店で毒を出したなんて噂が立ったら信用ガタ落ちだ。それに、サリーはこの店で働いてもう一年になる。俺はこの店を初めてもう十年になる。だが、あんたは今日始めて見た顔だ、雰囲気からしておそらく街の人間じゃないだろう? 衛兵を呼んだとしても、どっちを信用すると思う? 俺だってよく知らねぇ人間よりはサリーのほうを信用する。


だが、あんたもブラーが連れてきた客だ。なぁ、ブラーの顔を立てて騒ぎ立てる事はしねぇから、今日のところはブラーを連れて黙って帰ってくれねぇか?」


※ブラーは既に酔い潰れて眠っていた。


クレイ 「だが、俺は殺されかけたんだぞ?」


ポンズ 「悪いが俺は、サリーがやってないと言うのなら信じたい。だが、あんたも入れてないというなら……それも、信じよう!」


そう言うと、なんとポンズはクレイが持っていたお茶を引っ手繰って飲んでしまった。


クレイ 「おいっ! 馬鹿ヤロウ! 猛毒だと言ったろうが!」


ポンズ 「ぐ…うぅ!」


その場で血を吐き、倒れてしまったポンズ。


即座にクレイは治癒の魔法陣をポンズの体に投写して魔力を注ぎ治癒効果を発動させながらエリーに呼びかけた。


クレイ 「くそっ! エリー! 聞こえるか? さっき解析した毒の解毒剤は作れるか?!」


エリー 「既にできています」


(リルディオンではクレイに盛られた毒や薬が検出された場合は、万が一の場合に対応できるよう、その解毒剤まで用意しているのである。)


クレイが亜空間収納を確認すると解毒剤が既にあったので、即座に取り出しポンズの口に無理やり注ぎ込む。もちろん同時に治癒魔法も掛け続けながらである。すると、苦しみ悶えていたポンズの様子が徐々に穏やかになっていった。


クレイ 「なんとか間に合ったか…」


服毒すれば即死する即効性の猛毒であった。解毒剤もないはずであった。だが、即座にクレイが治癒魔法を使ったこと、その治癒魔法がリルディオンから魔力供給されている破格のものであったこと、そして、解毒剤があった事で、ポンズは死を免れたのであった…。


クレイ 「ったく、無茶しやがって…」


サリー 「嘘……そんな……ただの眠り薬だって聞いてたのに……」






一命をとりとめたポンズを椅子に座らせて休ませたクレイは、尻もちをついていたサリーにも手を貸し、ポズの隣の椅子に座らせた。


そして、クレイの尋問開始であるが、さすがにサリーも諦めたようで、抵抗する事なく素直に話し始めた。


ただ、クレイのお茶に薬を入れた事は認めたサリーであったが、殺意については全面否定であった。サリーは毒だとは知らなかったと言い募る。


だが、毒でないにせよ、客に出す商品に薬を盛るなど飲食店の店員としては絶対にやってはいけない事だとポンズは激怒したが、店員の教育は後でやってくれと言ってやめさせ、クレイは相手についての質問を続けた。


相手は、『今店にいる冒険者に恨みがある者だ』と言ったそうだ。『そいつは悪い奴だ、過去の悪行についてお灸を据えたいだけだ』などと言ったらしい。(悪行の内容については何も話さなかったそうだ。)


『渡した薬も毒性はなく、少し酔いが回りやすくなるだけの薬だ』

『サリーが罪に問われる事は一切ない』

『少々お灸を据えたい程度だから安心しろ、殺すほどの恨みはない』

『泥酔した冒険者が翌朝路端で目覚める程度だ、酷い事にはならない』


罪悪感が薄れるような言葉を並べられ、謝礼として大量の金貨を握らされ、怪しいと思いつつサリーはついつい金に目が眩んで引き受けてしまったと言う事であった。


クレイ 「言い訳はいい。そいつはどんな奴だった?」


サリー 「それが、フードを被っていて顔も布を巻いて隠していたので…」


サリー 「ただ、低い声を出すようにして喋っていたけど、あの声は女性だったと思います…」


クレイ 「女か、他に特徴はなかったか?」


だが、服装は街の人間がよく来ているようなものだったそうで、結局、おそらく女だったと情報以外、これといって犯人についての有力な手掛かりは得られなかったのであった。


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