第137話 (真)王へ報告
謁見の間を出たブランドとジャクリンは、城外へは出ず、そのままとある部屋に向かった。王と宰相の執務室である。
ブランドは王にクレイについて詳しく説明するつもりでアポを取ってあったのだ。クレイの素性については隠しておきたかったが、王家が本気になって調べればすぐに正体など分かってしまうだろうから、隠し立てはしないほうがよいと判断した。
実は先程の謁見はダイナドー侯爵をはじめとした貴族たちに見せるための茶番で、実際にはこちらが本当の報告なのである。
執務室に入ると、中には王と宰相だけしか居なかった。
王 「先程ぶりだな。それでは話を聞こうかブランド。ダンジョン攻略の功労者の正体について…?」
ブランドは一瞬だけ躊躇したが、それを見て宰相が言った。
宰相 「この部屋には何重にも魔法によるセキュリティが掛けてある、何を話しても漏れる心配はないから安心するがよい」
ブランド 「…本当はもうご存知なのではないですか? その冒険者の名はクレイ。私の息子です」
宰相 「確か、十年前に家を追放して平民に堕とされた三男だったか」
ジャクリン 「ご存知だったんですか?!」
宰相 「王家の諜報部に隠し事などできんさ。どこの貴族が何人子供を捨てたか、殺した、すべて把握しておる。ヴァレット家の三男を殺そうとした叔母が居たことなどもな?」
そう言われて、ジャクリンは驚いたようなおちゃらけたような複雑な表情をした。
ブランド 「追放したつもりはないのですが…。貴族をやめ平民になる事は、クレイ本人が望んだ事だったので」
宰相 「それは…家に迷惑を掛けたくないと遠慮しただけではないのか?」
ブランド 「そういう気持ちもあったかも知れませんが、貴族になりたくないというのは本心だったように思います」
王 「その気持は少し、分からんでもないがな」
宰相 「貴族は面倒ですからなぁ」
ジャクリン 「それを王や宰相が言ってしまいますか?」
王 「ああ、私だって、いち冒険者となって自由にあちこち行ってみたいと思う事はあるからな」
ブランド 「貴族でも平民でも、私は息子がやりたいと思う道を応援してやるつもりでした。
クレイには優れた魔導具作りの才能がありましたから、それを生かしてそのまま貴族として生きる道もあったと思うのです。
結局、貴族籍を捨て、いち職人として市井で生きていく事を本人も選びました。冒険者になったのも、魔導具の素材を自分で取りに行くためだったようです。
ただ…行方不明になったと聞いた時は、冒険者になるのはやめさせるべきだったと後悔いたしましたが」
宰相 「それも聞いていたよ。迷宮都市のダンジョンに挑んで帰ってこなかったと」
王 「ブランドが息子の事で心を傷めていたのは気づいていた。見ている事しか私にはできなかったが…
その息子が生還したとは、実に喜ばしい。我が事のように嬉しいよ」
ブランド 「ありがとうございます」
宰相 「なるほど、古代遺跡ダンジョンで、
ブランド 「…まぁ一言で言ってしまえばそんなところになりますか」
王 「再起不能の怪我をした父を癒やし、高難度ダンジョンを攻略してしまうほどの実力を、な」
宰相 「その力、是非とも王家のため、いや国のために役立てて欲しいところだ」
王 「今回の功績の褒美として叙爵する事も考えていたのだが…
…本人にその気はなさそうだな?」
宰相 「分かりませぬぞ? 王命とあらば、従うかも知れません」
ブランド 「恐れながら、そのような事はお止めいただきたく…」
宰相 「まぁ、無理に叙爵しようとして国外に逃げられても困るしな」
宰相 「せっかく優秀な冒険者が現れたのだ、できれば国内に確保しておきたいですな」
ブランド 「ええ、おそらくですが、無理強いされれば、クレイはまた出奔してしまうと思います」
王 「分かっている、無理強いはせんよ。だが、本人の希望を尋ねてみるくらいはよいであろう?」
ブランド 「その程度であれば、まぁ…」
宰相 「ならば、一度連れて参れ。姿を消したというのは嘘なのであろう、ヴァレット子爵?」
ブランド 「いえ、それは本当です、私にも連絡の手段がないのです。休養が明ければまた戻ってくるとは思いますが」
宰相 「連絡がつき次第、早急に王宮へ来させるが良い。これは子息のためでもあるぞ。おそらくダイナドー侯爵やその他の貴族も動くであろうからな」
ブランド 「…御意」
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