第136話 認めざるを得んかな
ダイナドー 「宰相殿、背後関係を洗ったほうがよろしいのではないですかな? まさかその冒険者が自力で大量の奴隷を用意したというわけでもありますまい?
それとも、そこにいるヴァレット子爵が支援したとでも?」
王 「ヴァレット家は奴隷制度に反対の立場だ。そのような使い方はしないであろう?」
ブランド 「御意にございます。ダイナドー侯爵の疑問に対する答えも含めて、報告を続けさせて頂いても…?
え~まず、奴隷の犠牲者はゼロ人、全員無事だそうです。使い捨てにするような使い方は最初から想定しておらず、最初からその人数であったようです。
そもそも、奴隷ではありますが、その冒険者は奴隷扱いはしておらず、仲間だと言っておりました。事実、その奴隷達は奴隷扱いを受けておらず、街で一般人と同様に過ごしている様子であったと報告を受けております。
それから、当然の事ながら、我がヴァレット家がその者に奴隷を提供した事実は御座いません。調べて頂いても結構ですが、そもそもヴァレットの領地には奴隷はほとんどおりませんので」
ダイナドー 「ふん、ヴァレット子爵ではないとしても、背後を探ったほうがよろしかろう。その冒険者の背後で糸を引いているのは誰か? 目的はなんでしょうな? ダンジョンを手に入れ、資源を蓄え国に弓引く輩かも知れませぬぞ?」
ブランド 「背後も目的もないでしょう。冒険者はダンジョンを攻略するのが仕事。ただそこにダンジョンがあるから挑んだ、そして踏破を成し遂げた、それだけではないかと思いますが?」
ダイナドー 「百歩譲ってそうであったとしても、そのような兵力は国を揺るがしかねん。まずはその冒険者を捕らえて尋問すべきでしょう」
ブランド 「犯罪者でもない者を捕らえて尋問せよと?」
ダイナドー 「ダンジョンの管理権限も召し上げるべきです。ダンジョンをどこのオークの骨とも分からない冒険者に任せるわけにはいかんでしょう。
ダイナドー 「なんならそのダンジョン、私が管理致しましょう。元々、ヴァレット子爵にダンジョンの管理は手に余っていたようですからな?」
ブランド 「ふ…、侯爵様の手を煩わせる事もありませんよ、ダンジョンの防衛はヴァレットだけで十分間に合っております」
ダイナドー 「スタンピードで大分大きな被害を受けたようだが? ヴァレット子爵も怪我をしたとか?」
ブランド 「…今ではこの通り、元気にやっております」
ダイナドー 「いやいやそもそも~」
宰相 「うぉほん!!」
一堂 「……」
宰相 「ダンジョンの所有権に関しては、ダンジョンのある土地を持つ者にある事になっておる。そしてダンジョンのある一体の土地は、ヴァレット家の所有だ。王家が貸し与えているわけではない」
ダイナドー 「それがそもそもおかしいのです、なぜ子爵ごときが王都の近く、それもダンジョンを持つ土地の所有を認められておるのですか?」
宰相 「王家とヴァレット家の古の盟約により決められた事。それとも侯爵は、王家の伝統と威信に異を唱えられるおつもりですかな?」
ダイナドー 「そういうわけでは」
宰相 「それに、冒険者ギルドは国とは関わりのない独立した組織である。冒険者に対し、国から協力を要請する事はできても、何かを強制する事はできん」
ダイナドー 「建前はそうなっておりますがな。各地域に根ざして活動している以上、冒険者ギルドもその地の王族貴族の意向を無視する事もできんはずです。王が命じればよほどの事がない限りは逆らう事など…」
王 「私はダンジョンを攻略してくれた功労者を捕らえろなどと言う気はないぞ? むしろ、褒美を与えたいと考えておる。その者は平民か? そうか、ならば、爵位を与えて取り立てても良いかもしれんな。本人が望むならだが」
ダイナドー 「得体の知れない者に爵位を与えるなど…」
王 「侯爵もいい加減黙れ。話が進まん」
王が再び威圧を放つ。王の威厳はスキルとして発揮される。ダイナドー侯爵はその圧に言葉が発せられなくなる。普段鷹揚な王が珍しく怒っているのを、さすがのダイナドー侯爵も理解せざるを得ない。
ダイナドー 「はっ………もう、しわけ、ありませn……」
宰相 「無論、その者の出自や人柄も調査するのは当然の事である」
王 「ブランド、その者を連れて来てくれるか? 褒賞を授与すると言ってな」
ブランド 「はぁ、それが……」
王 「なんだ?」
ブランド 「その、その冒険者は現在行方が分からなくなっておりまして」
王 「んん?」
ブランド 「大仕事の後ということで、休暇に入ってしまったようでして。
冒険者ギルドも行方は把握していないとか。
…行方が分かり次第連絡をくれるようにギルドには指示してありますので、今しばらくお待ち頂ければと思います」
王 「うむ。会えるのを楽しみにしておるぞ」
* * * *
謁見の間を出たブランドに近づいてくる人物が居た。
ジャクリン 「兄上」
ブランド 「ジャクリンか」
ジャクリン 「…クレイ、やったんだな?」
ブランド 「なんだ、知っているのか」
ジャクリン 「奴隷を一人都合してやった。元は優秀な戦力ではあるが、手足のない欠損奴隷だったはずなんだがな。そう言えば、兄貴と会うのも随分久しぶりだな、手足を失う大怪我をして寝たきりになったと聞いていたのだが?」
そう言いながらブランドの体を下から上へと眺めるジャクリン。
ジャクリン 「なるほど、ねぇ。クレイは欠損の治療ができる伝手でも手に入れたのか」
ブランド 「そういうお前は見舞いにも来なかったな」
ジャクリン 「来るなって言ったのは兄貴のほうだろうが……。それより、一体何があったんだクレイの奴は、行方不明の十年の間に?」
ブランド 「…あの子なりに、必死にこの世界で生きようと努力した結果なのだろう。
――魔力の才能だけで安易に子を捨てる貴族の風潮は間違ってると分かったろう?」
ジャクリン 「まぁ、な…。認めざるを得んかな」
本当は、昔クレイを殺しに行った時、魔導具を駆使して生き延びてみせた、その時から、ジャクリンはクレイのことを認めていたのであるが…。
しかも、行方不明になって再び戻ってきたクレイは、さらに強く逞しくなっていたクレイの事を、ジャクリンは眩しく思っていたのだが、素直に言えないのであった。
* * * *
謁見の間を出たダイナドー侯爵。すぐに侯爵の側近が近寄ってきて並んであるき始める。
ダイナドー 「トニノフ、
トニノフ 「御意」
トニノフはダイナドーから離れ姿を消した。
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