第127話 インタビュー with クレイ

ミレイ 「もちろん、内容に応じて謝礼は出します、重要な情報であるほど買取金額は高くなりますが、まずは、エール一杯程度でお話して頂けるようなゴシップレベルの話からお伺いできれば、と…」


そう言いながらエールを注文しようとするミレイをクレイは止めた。


クレイ 「お断りだ。別に金に困ってはいないし、個人情報を切り売りする気はない。


…と言いたいところが、まぁ内容次第だな。ある程度出す情報をコントロールできるなら、情報を開示する価値も少しはあるだろう。だが、情報を垂れ流されるようなら…こちらも色々と秘密にしておきたい事もあるしな、解るだろう?」


ミレイ 「もちろんです! 許可が得られた情報しか公表はしません、約束します」


クレイ 「初対面の口約束など信用する事はできないが―――まぁ、もし、秘密の情報を勝手にバラされたら、あるいは、事実でない事を吹聴されたりしたら、その時はミレイ自身が物理的にバラされる覚悟があるんだろうな?」


ミレイ 「物理的にバラされる……」


ニヤリと微笑む。笑顔なのか違うのかよく分からない引き攣った顔になるミレイ。


ミレイ 「…そっ、れは…、も、もちろんです。秘密は守ります、当然です。情報は命です。こんな商売をしていますから……恨みを買ってしまえば大変な事になりますので、その辺は普段から気をつけています…」


クレイ 「まぁいいだろう。で、何が聞きたい?」


ミレイ 「そ、その…クレイさんのクランについては、既にかなりの噂が出回っていますが、ご存知ですか?」


クレイ 「ああ知ってる」


知ってるも何も、大部分はクレイが意図的に流した情報である。


ミレイ 「まずは、それらの情報の真偽の確認と、後はまぁ割とどうでもよいようなゴシップ程度の情報から聞かせて頂ければと…」


クレイ 「ゴシップ程度ねぇ…」


ミレイ 「ええっと、まず、クレイさんのクランの名前はクレユカというそうですが、その意味は【クレイと愉快な仲間達】の省略形だとか?」


クレイ 「ああそうだよ。暫定で付けたんだがな。他に適当な…良い名前があったら変えるかもしれん」


ミレイ 「――なるほど。次に、クレイさんは以前は迷宮都市リジオンで活動されていたとか?」


クレイ 「……ああ、まぁ、そこで活動していた事もある」


実際にはリジオンで冒険者として活動していた時期は短く、その地下深くにある古代都市リルディオンに居た時間のほうが圧倒的に長いのだが、短くとも活動していた事実はあるので嘘はついていない。


幸いミレイは、現在流れている噂についての確認が優先のようで、リジオンでの活動についてはそれ以上突っ込んでこなかった。


まぁもし仮に、わざわざリジオンまで行ってクレイについて調べようという者が居たとしても、入れ替わりの激しい冒険者の世界の事。当時を知る者はほとんど居ないだろう。


ミレイ 「クレイさんはこの街の出身だという噂ですが、それは本当ですか?」


クレイ 「…ああ、本当だ」


ミレイ 「ええっと、ここからは、センシティブな情報となるので、お答えできる範囲でいいのですが、お答え頂ければ、つまり情報として売る事を許可頂ければですが、内容次第では多少高値で買い取らせて頂きますが…」


クレイ 「うん?」


ミレイ 「クレイさんは、この街の領主であるヴァレット家の縁者であるという噂があるのですが、本当ですか?」


ずばり尋ねて来たミレイに、クレイは一瞬答えるのを逡巡した。


どこから漏れたのか? ギルド職員と衛兵達は口止めされているはずである。…とは言え、こういう噂はどこかしらからいずれ漏れる可能性があるのは覚悟はしていた。


ただ、噂の出処についてはすぐにミレイが自ら暴露してくれた。


ミレイ 「実は、クレイさんと、お顔が似ていると誰かが言い出したのです、その、領主様と、その嫡男であるワルドマ様に――」


なるほど! と納得するクレイであった。クレイは日本で生きていた記憶がある転生者ではあるが、父ブランドと兄ワルドマとは血の繋がった家族である。領主の顔を見たことがある者なら、気づいても不思議ではない。


ミレイ 「――それで、もしかして、領主様のご落胤なのでは? と噂する者がおりまして。それで、下世話な噂を囁く者も居るようでして」


クレイ 「下世話な噂?」


ミレイ 「領主様が奥様と不仲で、市井に作った愛人の子を可愛がって、クレイ様を秘密裏に支援しているとか、クレイ様がワルドマ様を追い落として次期領主の座を狙っているとか…」


クレイ 「へぇ…想像力が豊かだな。俺は…」


答え方に少し気を使うクレイ。黙秘では認めたも同じになってしまう。否定すれば嘘になってしまう。別に嘘でも構わなかったが、既に事実を知っている者も多いのでクレイは…


クレイ 「俺は、領主家とは無関係だ。(今は。)ただの平民のクレイだ。出自に関してはプライベートな情報だ、あまり、これ以上話す気はない」


ミレイ 「……分かりました。それでは……」


ミレイはメモを見ながら質問を続ける。それを見て、なるほど、魔皮紙にクリーンを併用すれば、何度も使えるメモ帳として使えるわけかと思うクレイ。


クレイはそもそも素の状態では生活魔法すら使えなかったし、領主家では紙にもそれほど不自由していなかったので、そういう使い方は思いつかなかったのであった。


ミレイ 「…それから、転移ゲートという古代遺物アーティファクトを持っていらっしゃるとか?」


クレイ 「…それについては機密事項だから言えない」


ミレイ 「持っているかどうかだけでも?」


クレイ 「それも答える気はない。答えなかったという情報も、出す事は禁止だ」


ミレイ 「そっ、ですが、ダンジョン攻略の進行具合を疑う者達も居るようなのですが? 帰還が早すぎると専らの噂です。ダンジョンの階層攻略報告自体が嘘で、ギルドは騙されているなんて言う者も居るようですが?」


クレイ 「もしそんな古代遺物アーティファクトが存在しているとして、その価値はどれ程のものになると思う? もしそんなモノが実在しているとなったら、それを欲する人間が出てくるだろう。その結果、恐ろしい事が起きると思わないか? それこそ、ミレイの命などいくつあっても足りないほどの話になるかも知れないんだぞ?」


ミレイ 「それは……確かに」


クレイ 「あくまでも、“噂” ということにしておいたほうがいい事もあるのさ…」


ミレイ 「…でも、ダンジョン踏破が疑われている事については…」


クレイ 「別に、疑う奴は疑わせておけばいいだろう、それで何か問題があるか? ギルドが認定してくれている、それで十分だろう?


いや、なんならギルドが認定しなくても構わない。俺はダンジョンを踏破したいだけだ。誰に認められたいわけでもない。だから、信じてもらう必要もない。


まぁ、ただの自己満足だと思ってくれればいいさ」


ミレイ 「そ、そうですか…。それで、確かに何も、問題はない……ですかね?」


クレイ 「もし、問題があると言うのなら、ギルドにも一切情報も素材も持ち込まず、秘密裏にダンジョンを踏破する事にしよう」


サイモン 「それは困るぞ」


いつのまにかクレイとミレイの後ろに立っていたサイモン。情報屋のミレイがクレイに接触していると聞いて心配して出てきたのだ。


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