第119話 拠点が必要
クレイはラルクを王都に置いて転移でヴァレットに戻った。そして機械の左眼の機能で街の中を検索してみるが、しかし街の中にはルル・リリも他の奴隷達も居ないようであった。
検索範囲を広げると、全員、ダンジョンの中に居るようである。考えてみれば、冒険者として活動するよう指示したのだから当然であった。全員、早速ダンジョンに潜って狩りをしているのだ。
クレイがルルとリリの居場所を探索、二人のところに転移した。ダンジョン三階層目、オークが出現する階層である。
まず、最初の数日は浅い階層で稼ぎながら、最低限必要な日用品や不足している道具を揃える資金を稼ぎ、準備ができ次第、もう少し深い階層で稼ぐ予定だそうだ。
そう言えば、クレイは冒険に必要な最低限の装備と武器は与えたが、日常生活に必要な品は与えていなかったのを思い出した。改めて資金を渡そうかと言ったが、もう大分オークを狩れたので大丈夫だと言われる。最初に渡した装備の中にはマジックバッグも含まれているので、持ち運びにも難はないようだ。
三つの元兵士グループと猫娘二人に分かれて狩りの成果を競っているらしい。十七人全員が魔導銃を装備しているので、オーク程度はまったく問題なく狩れる。ただ、階層内の魔物を狩り尽くさないように言ってあるので、あまり多く狩れないのが残念だと言っていた。
適当なところで狩りを切り上げ、街へ戻る。狩り自体は半日程度、街を日帰りで往復しながら数日は稼ぐと言う事なので、自由にやってもらうことにした。みな、冒険者は初めての経験だそうだが、嬉々として計画を立案しているので、任せても大丈夫そうだ。
翌日、クレイは狩りには付き合わず、街の不動産屋へと向かった。狭い城郭都市である。基本的に土地はすべて領主の持ち物となる。不動産屋は一軒しかなく、領主に雇われて街を管理している半役所的な位置づけになる。
何故不動産屋に向かったかというと、クレイは少し大きめの屋敷が購入できないかと思ったのだ。奴隷の部下が増えたためである。
住む場所はそれぞれ別に確保してもらい、普通に街の住民として生活させるつもりなのであるが、一時的にせよ、全員集合できる場所を作る必要があると思ったのだ。
全員招集し作戦会議を行うにしても、集まれる場所が必要だろうと考えたのである。
不動産屋の店頭で屋敷を買いたいと店員に話しかけたが、見知らぬ冒険者に警戒した風で、慇懃無礼な感じの態度であった。屋敷を買いたいと言うと、冒険者が? と訝しがられた。だが、奥から店長が現れると、クレイに気がついた。長く店長を任されている男は名をポンドと言った。当然領主の部下なわけで、領主屋敷の執事の親戚でもあった。子供の頃クレイとも何度か会った事があり、ポンドもクレイの事を憶えていたのだ。
慌ててポンドが若い店員を押しのけて接客に対応した。一応クレイが領主家の者であった事は秘密にしてくれるようだが、店員は事情が分からない。ただ、店長の態度でVIPであるとは理解したようで、慌てて個室とお茶の準備を始めたのであった。
ポンドが良さげな場所を紹介してくれた。廃業したとある商会の倉庫だった場所だそうだ。ちょっとした生活スペースもあるので、クレイがそこに住んでも良いかも知れない。
価格は金貨二千枚。だが、出血大サービス(領主割引)で金貨一千枚にしてくれるという。
ただ、最近色々と出費が多く、クレイも金貨千枚はすぐに払えない状況であった。とは言えクレイは金を作るのは簡単である。マジックバッグを売ればいいのだ。売るためのマジックバッグの
ポンドには金を用意してくるから少し待ってくれと頼み、今度は商業ギルドへクレイは向かった。
商業ギルドにマジックバックを売って金に変えるつもりである。だが、王都に持って行ってオークションに掛ければかなりの値段になるはずのマジックバッグだが、その場ですぐに現金化するとなると、どうしても安く買い叩かれてしまう。オークションの結果が出るまで待てば、高額の支払いができると商業ギルドのマスターにも進められたが、それを待っているうちに物件が売れてしまっても困るので、安くてもいいから現金化してくれと頼んだ。
事情を聞いた商業ギルドのマスターがポンドに連絡を取ってくれ、手付を払えば物件は押さえておいてくれる事になったと言う。
クレイはありがたく、手付分だけマジックバッグを売り、残りはオークションに掛けてもらう事にしたのであった。
実は、マジックバッグはリルディオンに作らせれば大量生産が可能なのだが、根拠はないが、あまり大量に出回らせるのも価値が下がるし問題が起きる気がしたので、あまり大盤振る舞いはしない事にしていた。
そうして手に入った倉庫改めクラン
そこで、クレイはちょっと倉庫の中に家具を運び込んでみた。家具も、生活用品も、リルディオンでおよそなんでも揃う。誰も使ってくれずに倉庫に眠らせてあるので是非使って欲しいとエリーが言うので、ありがたく利用させてもらうことにした。(リルディオンはそれ自体が閉鎖された一つの街のようになっていて、完全自給自足できるように作られているのだ。巨大な核シェルターのようなモノだったのかも知れない。)
ただ、家具を入れてみると、だだっ広い空間の隅にベッドや棚、テーブルがあるのは落ち着かず。やっぱりちゃんと壁が欲しくなるのであった。
ちょっと倉庫に引っ越そうかと思ったクレイであったが、結局それは止めた。そもそも家は父親がクレイのために買ってくれた家なので手放す気にもなれない。
倉庫のほうももったいないので後でちゃんと壁を付けてもらい、猫娘二人を住まわせてもいいかも知れない。(一応、クランの集合場所とする予定なので、女二人を隅に住まわせるにしても、壁なしというわけにもいかないだろう。)
さらに、開いた空間にリルディオンに大量に余っていたテーブルと丸椅子を並べてみたクレイ。してみると、倉庫を改良した食堂のようにも見える。ここで料理と酒を売るのも面白いかも知れないとクレイは思った。猫娘二人をウェイトレスにして営業する食堂のイメージが脳裏を過る。
ただ、食堂をするよりも冒険者をしているほうが遥かに儲かると思われるので、飲食店を営業するにしても完全に趣味でしかなくなるだろう。まぁ、冒険者を引退した後の余生にはそれも面白いかも知れないと思うクレイであった。
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