第111話 武器を捨てよう! 武力がなければ戦争にはならない
ずっこけるクレイ達。
クレイ 「教皇に治療を頼んでいるわけじゃないって言ってるだろが…!」
マツヤ 「うん、まぁ教皇には見えないよな。だが…
アンタか他の誰かは知らないが、教皇クラスの治癒魔法が使える奴がいるということなら、たしかに話は現実的になってくるな」
クレイ 「ああ、まぁそんなところだ。俺じゃないが、欠損が治療できる
奴隷から開放されるわけではないが、このまま欠損奴隷でいるよりはいいんじゃないか?」
マツヤ 「…その話がもし本当だったとして、だ。
…身体を治しても、その後、奴隷として酷使されるなら大差ないんじゃないか? 無茶なダンジョン攻略をさせられて、結局は使い潰される事になるんじゃないのか?」
ルル 「その点も大丈夫にゃ。ご主人様が強力な武器を貸してくれて、訓練もしてくれるにゃ」
リリ 「奴隷になる前より楽に大量に稼げていますにゃ」
カラザ 「安心してくれ! この人は奴隷に酷い扱いはしない。それどころか、奴隷扱いせずに普通の冒険者として扱ってくれ、自由に過ごさせてくれるんだ」
マツヤ 「奴隷扱いしない? 奴隷を自由に…? つくづく妙な話で信じられんが…
…ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、マツヤは部屋を出ていき、しばらくして一人の欠損奴隷を台車に載せて戻ってきた。
カラザ 「…! ビューク!!」
ビューク 「…お前は…カラザか…?!」
カラザ 「良かった、無事だったか!」
ビューク 「何が無事なものか…。この有様で……」
ビュークと呼ばれた男には両足と片手がなかった。
マツヤ 「その奴隷がビューク達と知り合いだと言うことは本当のようだな。だが…」
クレイ 「?」
マツヤ 「どうにも話が美味すぎる。お前の奴隷達だって、もとから欠損などしておらず、嘘をつくように命じられている可能性だってある」
ルル 「嘘なんかついてないにゃ!」
リリ 「本当にゃ。私だって信じられなかったにゃ。大怪我して、奴隷に売られて、もう後はボロボロに甚振られて死ぬだけだと諦めてたにゃ」
カラザ 「本当だ、俺も捕虜になった後、手足を切り落とされた。それはビュークも知っている事だ」
そう言われてマツヤはビュークを見た。ビュークは渋い顔をしながら黙って頷くと言った。
ビューク 「カラザ…おまえ、まさか、治療してもらえたのか? よりによって、なぜ
カラザ 「お前達も治療してもらえる! この人の奴隷になるなら…」
ビューク 「……
…信じられるか。特にお前の言葉はな…」
カラザ 「…スマン。…謝って許されることではないのは分かっている…だが、本当なんだ。俺はみんなを助けたい、信じてくれ!」
ビューク 「……」
カラザ 「ビューク…」
ビューク 「……」
マツヤ 「ふむ、いいだろう、こちらに来てくれ」
クレイ達は店の奥に通された。
通路を抜けた奥の部屋に、十数人の欠損奴隷達が居た。何人か多少は動ける状態の者は椅子に座っていたが、ベッドに寝たまま目線だけを向けてくる者も居た。
だが、その者達はカラザの事を認識すると、全員怒りの表情に変わった。
ライザ 「カラザ……よくもオメオメと顔を見せられたな……」
カラザは黙って俯いている。
マツヤ 「彼らが言っていた裏切り者というのはお前の事だったんだな…」
クレイ 「?」
カラザ 「…すまん! 俺の事を恨むのは当然だ。殺したければ殺してくれ、覚悟はしている!
――クレイ様、すみません、後は頼みます、どうか、彼らを助けてやって下さい!」
カラザはそう言うと、奴隷たちの中に進み両膝を突き、持っていた短剣を差し出し頭を垂れた。
ビューク 「ふん、くそが。嬲り殺しにしてやりたいところだが…、この身体ではそれもできん…」
クレイ 「ああ~勝手に死なれても困るんだが?。
マツヤ 「ああ。お前達、勝手に人の
マツヤは捕虜奴隷達をなるべく丁重に扱っていたが、全員隷属の首輪をつけており現在の主人としてマツヤが登録されているので、マツヤに命じられれば逆らう事はできない。(それ以前に、カラザを殺しに行けるほど体が満足に動くものは誰も居なかったのだが…。)
クレイ 「それで、どういう事なんだ? カラザ? 仲間じゃなかったのか?」
カラザ 「スミマセン…、騙されたんです、国を思っての事だったんです、それが…あんな奴だったなんて…」
聞けば、カラザはとある貴族に部隊の作戦情報を流していたらしい。
その貴族が、実はラヘルブーレ王国(クレイ達の居る国)の貴族と通じている裏切り者だったのだそうだ。
カラザ達の国ダブエラの貴族、ヴェンジ。ヴェンジはダブエラ国内でずっと『戦争反対』『軍備縮小』『軍備放棄』を主張し続けていたのだそうだ。
『戦争など、ムダに国民の血が流れるだけ』『為政者が私腹を肥やすため、国民に益はない』『武力を捨てれば戦争など起きない』と熱く語るヴェンジ。その言葉は、国民の中に共感を抱く者を徐々に増やしていったらしい。
(※ダブエラはこの世界にしては珍しく、絶対王政から民主主義へと移行しつつあった。王族とそれに近い貴族達からなる旧来の支配層が未だに存在するが、それとは別に【議会】が存在している。【王権】と【議会】がその権力の配分で綱引きをしているのである。そのため王権はかなり弱体化させられており、王といえども好き勝手はできなかった。一方、議会の議員は――建前上は――民主的な選挙で選ばれるため、国民の意見に流されやすい傾向があったのだ。)
カラザは、軍の特殊部隊に所属する身でありながら、ヴェンジの主張に共感していた。国民を守るために軍人をやっているが、上からの愚かな命令で、必要のない戦争を行い、結果的に国民が死ぬのはおかしいのではないかと疑念を抱き始めてしまったのだ。
ヴェンジは言う。『武力がなければ戦争にはならない。占領されるかも知れないが、その後は相手の国の国民となって生きていけばいい話だ』と。
特に、カラザの背中を押したのは、『自分の子供を将来戦争に行かせて、人殺しをさせるのか?』という言葉であった。『敵対する国がなくなってひとつになってしまえば、戦争自体がなくなるのだから、子供達が戦争で人を傷つける未来もなくなる』
その言葉はカラザを少し動揺させた。実はちょうどその頃、カラザには子供が生まれたばかりだったのだ。
徐々に軍のあり方、国のあり方に疑念を持つようになったカラザは、その思いを仲間達に吐露した。
てっきり共感してくれると思っていたカラザだったが、仲間たちは皆、馬鹿な事を言うなと取り合ってくれず。むしろ、子供達を守るために、今、大人たちが戦わなければならないんだと逆に説教されてしまったのであった。
だが、自分の考えを否定されるほどに、自身の考えを正当化できる考え方や思想にばかり傾倒・固執するようになり、自身の主張の矛盾点からは目を背けるようになていく。
仲間達はなんとか説得しようとしたが、その言葉はカラザには届かず。カラザは余計に意固地になっていくだけであった。
そんなある日、街頭でヴェンジが演説しているのを熱心に聞いていたカラザに目をつけ、ヴェンジの部下が接触してきたのだ。
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