第94話 模擬戦

というわけで、早速ギルド裏の訓練場へと移動したクレイ達。


ラルク 「さて…実力を見てやろう。あ、素の実力を見たいから、まずは身体強化なしでやるぞ」


クレイ 「…それは無理だ。俺は肉体派じゃないんだよ」


ラルク 「それは見れば分かる。だが、身体強化は素となる体力が高いほど効果も高くなるんだ。1の体力が10倍になっても、2の体力を10倍にした者には勝てんからな。素の実力が大事なんだよ」


クレイ 「10倍なんて身体強化、できる人間はほとんど居ないだろうに」


ラルク 「はは、まぁな、10倍なんて、剣聖と言われるような達人レベルの話だがな。だが、まったく居ないわけでもないし、素の体力が重要な事には変わらんだろ。


まずはそっちの姉ちゃん達から行こう。獣人は体力が見た目以上にあるからな。冒険者としての再登録の試験だ」


クレイ 「え? 再登録でも試験があるのか? え? …ある? そうなのか。まあちょうどいい、俺も二人の身体能力を確認したいと思っていた。じゃぁルルから行ってみろ」


ラルク 「武器はそこに置いてある中から好きなのを選べ」


ルル 「剣はあまり得意じゃないにゃ」


クレイ 「何が得意なんだ?」


ルル 「素手にゃ」


クレイ 「素手? 格闘戦タイプなのか? 武器はまったく使ったことはないのか?」


ルル 「あるにゃ、いつもはクロウ使ってたにゃ」


クレイ 「黒? ああ、クローか。なるほど……猫だけに?」


ラルク 「手甲に刃がついてるタイプの武器だな。拳闘士とかがよく使うやつ…」


ルル 「奴隷になったときに売られてしまったからもうにゃいけどにゃ…」


クレイ 「手甲鉤ってタイプか、だが、訓練場の模擬武器にソレはさすがにないだろうなぁ…」


ラルク 「あるぞ」


クレイ 「え、あるんだ……」


ラルク 「冒険者には意外と剣闘士タイプも多いからな」


ラルクが訓練場の隅に行き、箱をひっくり返して転がり出てきた手甲を拾った。それを受け取ったルルは装着し構えてみる。いわゆるガントレットだが、手の甲の先に木製の4本の木剣(爪)がついている。


ルル 「少し手首の動きが窮屈にゃけど、にゃんとか使えそうにゃ」


ラルク 「じゃぁさっさと始めようか、受付嬢ロッテが睨んでる」


クレイ 「受付嬢はロッテというのか」


ロッテ 「忙しいから早くしてくれます?」


ラルク 「忙しいならあとは任せて受付業務に戻ってていいぞ?」


ロッテ 「いいえ、私も見てます。そこの男が妙な真似をするかも知れないしね」


ラルクが肩を竦める。クレイもラルクと目を合わせ肩を竦めた。







ルルの身体能力は、予想通り―――いや、予想をはるかに上回り、目を見張るものであった。


縦横無尽に訓練場内を疾走し、死角から爪を繰り出してくる。猫獣人だからなのか、繰り出される猫パンチ? は非常に鋭く、ラルクも驚いた表情をしていた。


だが、ラルクもさすがはAランク冒険者である。驚いた顔をしていてもルルの攻撃を受ける事はなかった。ラルクは木剣でルルの攻撃をすべて往なすと、足払いでルルを倒し、木剣で押さえ込んでしまう。喉元に木剣の先がめり込んでルルは苦しそうな表情かおをした。


(※攻撃を自動的に防御する魔力盾の魔導具をルルも装備していたが、打撃ではない投げ技や絞め技には盾は反応しない。木剣はあてがって押し付けただけなので防御は作動しなかった。)


ルル 「ゔぇ…」


ラルク 「ああいや、すまない、攻撃が鋭すぎてなかなか止められなかったんで、倒して押さえさせてもらった」


ルルに手を貸して立たせてやるラルク。


ラルク 「いやしかし驚いたぞ、大した実力だ」


ルル 「うにゃぁ、負けたにゃ。残念にゃ」


クレイ 「いや、十分だろ。素晴らしい」


ルル 「そうにゃ? もっと褒めてにゃ」


リリ 「次は私にゃ! 私も褒めるにゃ!」


ラルク 「お前も“爪” を使うのか?」


リリ 「いにゃ! 私は短刀が得意にゃ」


リリはもう自分用の短い木剣を選んでいた。片刃の小太刀という長さである。


ラルクは両刃の長剣(木剣)を持っているので、長剣と小太刀の対決であるが、別に剣は長いほうが有利とも言い切れない。短剣は長剣よりも小回りが効くし動きが速い。身体能力が高く動きの素早い者とは相性が良い。







ラルクとリリの模擬戦もなかなが見応えがあった。ラルクが正統派の剣術という感じなのに対し、リリは身体能力生かした高速フットワークと自由度の高い太刀筋、さらに手や足を使って殴ったり掴んだりと変幻自在の攻撃である。剣同士という事もあってルルの時ほどではないがかなり変則的な攻撃に、ラルクはやりにくそうであった。


と言っても、それでもリリの攻撃がラルクにまともに攻撃が届く事はなかった。


基本、ラルクは受けに回っているだけなのだが、時折、タイミングよく反撃が繰り出されるため、それを受けるか躱すかする必要があるため、ルルの連撃も止められてしまう。


思うように行かない事に苛ついたのか、リリの攻撃がさらに苛烈になるが…


ラルク 「止め! やめやめ!」


リリ 「なんにゃ? まだ勝負はついてないにゃ!」


ラルク 「言ったろ、実力を見るだけだ、勝敗をつける必要はない。ふたりとも、十二分に実力があるのが分かった。合格だよ! そう言えば聞いてなかったが、二人の以前のランクはどれくらいだったんだ?」


リリ 「Eランクにゃ」

ルル 「私もにゃ」


ラルク 「Eランク? もっと高いランクでもおかしくない実力があると思うが」


リリ 「経験が浅いから昇級できなかったにゃ」


ラルク 「ああ、なるほど、登録してあまり日が経っていなかったという感じか…」


ルル 「そうにゃ」


ラルク 「なるほど、先が楽しみだな」


クレイ 「さて……。じゃぁ次は俺だな」


ラルク 「猫娘達より楽しませてくれるんだよな…?」


クレイ 「さて、ね…」


ロッテ 「その二人に実力があるのは分かってたわ、獣人だしね、身体能力は高いでしょう。でも、そっちの男はとても強そうには見えないわ。Cランクなんてちょっと信じられない」


クレイ 「言ったろ、俺は肉体派じゃないからな」


ラルク 「というと、魔法使いか?」


クレイ 「いや、後方支援タイプ、まぁ弓士みたいなもんだ。ただ……そうだな。今回は俺も小太刀でやってみようか」


そう言うとクレイはリリに向かって手を伸ばす。リリは持っていた小太刀の木剣をクレイに渡した。


ラルク 「ほう、近接も得意なのか?」


クレイ 「いや、特に経験があるわけではないんだが、今日は肉体派で行ってみようと思ってな。そのほうが納得するだろう?」


クレイは横目にロッテを見ながら言った。


ロッテ 「さては…不得意な武器を使って言い訳にする気ね…?」


言われた通り、まずは身体強化なしで打ち合ってみた。どうせ素の体力では当たりはしないだろうと思い切り打ち込んで行くクレイ。だが、クレイの打ち込みは全て軽々と捌かれ、隙を突かれて剣を弾き飛ばされてしまった。


ラルク 「これは酷いな、大人と子供、いや幼児か? まぁ獣人でもないし、仕方ないか」


クレイ 「くそ、もう少しはやれると思ったのに…」


前世で少し剣道を齧ったことがあるクレイは、もう少しやれると思ったのだが、思いのほか通用せずショックであった。


クレイ 「まぁ当然ちゃぁ当然か。やっぱり身体強化を使ってもいいか?」


ラルク 「ああ、そうだな。だが、さっきも言った通り、素の体力が低いと強化してもあまり強くはならん。そのレベルだと、たかが知れている。…よし、じゃぁ俺は強化なしで相手しやろう」


クレイ 「それは止めたほうがいいんじゃないか? 大丈夫? まぁいいけど…。


じゃぁかわりにというわけじゃないが、今度はそちらから先に攻撃してくれ。俺は受けてから返すほうが得意なんだ」


飛ばされた剣を拾い、改めて対峙するラルクとクレイ。黙って一呼吸の後、ラルクが剣を振りかぶり打ち込んできた。


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