第87話 あんな武器があれば俺たちも楽ができるのにな

一階層目は洞窟型であったが、二階層目からは草原系フィールドが続く。


ダンジョンというと洞窟というイメージが強い、確かに導入部が洞窟系フィールドになっているダンジョンが圧倒的に多いのだが、通常どこのダンジョンも階層を進めば洞窟以外のフィールドが現れる。草原や土と岩ばかりの荒野、砂漠、森林や湿地帯など、ほとんどは外界の自然を模したようなフィールドである。(変わったところでは、溶岩の流れる火山地帯やフィールドの大部分が海上、または水中となっているようなフィールドもある。)


また、例えば『草原系』と一口に言っても、木が割と多い森林系に近いタイプや植物があまり多くない荒野に近いタイプ、湿地帯に近いタイプなどもある。


(そもそも草原もその他のタイプのフィールドも、それだけに特化しているわけではない、ほとんどは複合型である。あまりに特化が過ぎると、ダンジョン内の環境が維持できず、魔物すらも生きていられないフィールドになってしまうからである。)


このダンジョンの二階層目は草原が中心に岩山と木がちらほらとあるというタイプの草原フィールドである。


そして、この階層に出てくる魔物はコボルトのみである。


ルル 「あ、外したニャ…上手く当たらないニャ」


リリ 「……そこ! ニャ! ニャ! やっと当たったニャ」


コボルトはゴブリンより素早く頭も良いので、命中しにくい相手である。最初はなかなか当てられなかった姉妹だが、しばらく撃っているうちに徐々に勘を掴んで行った。


相変わらず楽しそうに銃を撃ちまくる猫姉妹。


ルル 「ニャーーー!!!」


特にルルはハイテンションなように見える。


リリ 「ニャ! そこニャ! ニャ! ニャ!」


リリは意外と冷静で、一匹一匹照準をあわせ命中させている。照門と照星を合わせるというのも教わらずに理解したようだ。リリはルルよりは撃つのが遅いが、ちゃんと狙って撃っているので命中率はほぼ百%であった。


対してルルはアバウトに乱射している感じである。よく外していたが、数を撃つ事でそれを補っている。


クレイ 「ルル、タマも無限にあるわけじゃないんだ、無駄弾を撃つな。よく狙って慎重に撃つようにしろ。弾の無駄遣いもそうだが、あまり適当に撃って流れ弾で周囲に被害を出してしまわないようにな」


ルル 「うにゃぁ、ごめんにゃ」


クレイ 「リリは逆に慎重過ぎて撃つタイミングが遅れがちだ。精密な射撃よりも早く撃つ事が必要な時もある。ある程度妥協して早く撃つことも覚えろ」


リリ 「はいにゃ」


そのうち、クレイの索敵にコボルトの集団が捉えられた。


クレイ 「集団が来るぞ。今度はフルオートモードでやってみろ。今だけは弾の無駄遣いは考えなくていいぞ」


指示通り、銃のレバーを切り替える二人。それまで単発だった弾丸が引き金を引いている間連射されるようになる。


高速連射にさらに気を良くし、銃を乱射し始めるルル。


ルル 「ニヤッハーーー魔物は消滅ニャー!」


クレイ 「なんだか世紀末感があるなおい…」


リリはオートモードでも断続的に撃っては止め、撃っては止めを繰り返し、省エネ・効果的な使い方を模索している。姉妹でも性格の違いが出るようだ。


リリの撃ち方を見ながら、クレイはバーストモード(引き金を引くと所定の弾数だけ撃って止まる)も導入しようかなどと思った。


マシンガンの前にはコボルトの集団も数が多いとは言えず、程なく殲滅を完了した。


ゴブリンと違ってコボルトの素材は高くはないが売り物になる。本当なら魔石や毛皮を回収するべきなのだが…


今日は武器の使い方を覚えさせるのが目的なので放置して、次の階層へと向かう事にした。






そんなクレイ達を影から見ている冒険者達が居た。ボーサ・ズウ・キムの三人である。三人はコボルトを狩って売る事でなんとか生活している底辺冒険者であった。


結構な数のコボルトをあっさりと壊滅させたクレイ達は、さっさと次の階層へと続く階段を降りてしまった。それを呆然と見送ったボーサ達だったが、ふと我に返る。


三人は、気がつけば、階層内にほとんど獲物が居なくなってしまっている事に気づいたのだ。


ボーサ 「獲物が居なくなっちまったな」


ズウ 「…どうする?」


キム 「次の階層に進むしかないだろ」


ズウ 「だが次はオーク階だろ? …このあいだ、ベゴジ達がうっかりオークの巣に入り込んじまって死にかけたって聞いたぞ…」


ボーサ 「だが、このままじゃ稼ぎが少なすぎて野宿か飯抜きになっちまう。野宿と飯抜き、どっちがいい?」


ズウ 「飯抜きよりは野宿かなぁ…」


キム 「バカヤロ、オーク狩って帰りゃ今日はうまいもんが食えるだろうが。一対一なら俺たちだってオークくらい倒せる」


ボーサ 「そうだな、あまり深入りせずに何匹か狩ったら引き上げれば大丈夫だろう」


次の階層に挑戦する事を決め、階層を降りる三人であった。






三階層目、荒野フィールド。岩山が多く植物は多くない。オークが中心の階層である。


オークはかなり危険な相手である。ゴブリン・コボルトを余裕で捌けるようになった初級冒険者が、この階層で躓く事もある。


例えばゴブリンならば、一対一なら子供でも必死で戦えば倒せる程度の相手である。だが、オークはゴブリンとは比べ物にならないくらい攻撃力も防御力も高い。知能はややコボルトのほうが上かもしれないが、身体的な力が比較にならないのだ。


だが、魔導銃の前ではそんなオークもただの的であった。初心者の剣では斬れない事もあるオークの手足が、魔導銃の弾丸一発で防具ごと千切れて飛ぶ。


リリ 「ちょっともったいないニャ。頭を狙うニャ」


実はオークは素材としてかなり人気がある。オークが安定して狩れるようになれば、冒険者としてそこそこ食べていけるようになるのだ。そんな素材を銃で吹き飛ばしてしまうのはもったいないと思ったリリは、頭を狙うようにし始めた。(オークの頭部は素材としてあまり需要がない。)だが、その分、射撃が遅れ気味になっていった。ルルも真似しようとしたが、命中精度の低いルルはさらに外す事が多くなってしまう。


クレイ 「リリ。余裕がある時はいいが、未知の敵や強敵の時は欲をかくな。死んだらおしまいなんだからな。ルルはリリをフォローしてやれ。リリが撃ち漏らして接近してきた奴を撃て」


ルル・リリ 「了解ラニャ!


二人が倒したオークをクレイが狩り用のマジッグバッグに収納していく。クレイのマジックバッグは内部の時間進行が停止しているので腐る事もない。容量もほぼ無限である。





それを影から見ていた冒険者達が呟く。


ボーサ 「おい、見たか?」


ズー 「ああ、すげぇな…」


キム 「見た事ねぇ連中だな」


ボーサ 「変わった武器だ。あの武器の力か?」


ズー 「羨ましい。あんな武器があれば俺たちも楽に狩りができるのにな」


キム 「……」


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