第76話 帰ってきたクレイ
ひさしぶりに戻ってきた故郷の街の門番は、クレイの知らない顔であった。
クレイ 「まぁ9年も経てば人も入れ替わるのは当然か…」
街に入ったクレイは早速、住んでいた家を
なぜ帰るではなく見に行く、なのか? それは、もしかしたら自分の家は既にないかも知れないと覚悟していたからである。
借家ではないので家主が不在だからと言ってなくなったりはしないはずなのだが…?
実は、狭い城郭都市の中ではスペースは貴重なため、持ち主が死亡した建物は接収されてしまう事が多いのだ。
そして、クレイが死んだという報告は、リジオンの冒険者ギルドからヴァレットの冒険者ギルドに当然伝えられているだろうとクレイは思っていた。
ヴァレットの冒険者ギルドのマスターはクレイの父である領主、ブランド・ヴァレット子爵の部下でもある。当然、父に連絡が行くだろう。
死んだとなれば家は売り払われてしまっているかも知れない。まぁもし仮に、他人のものになっていたとしても、家が残っているならクレイは大金を積んででも取り戻すつもりであったのだが。
道々、以前あった店がなくなっていたりする事も多かったが、はたしてクレイの家は……
…大分汚れてはいたが、クレイが家を出た時そのままの状態で残っていた。ほっとするクレイ。
クレイの死亡報告は届いていないのか? あるいは、父がクレイの死を信じなかったか、形見替わりに残していたのかも知れないが。
― ― ― ― ― ― ―
余談だが、実は、クレイの死亡報告はされていなかった。
冒険者は自由である。フラリと出かけて何年も戻らず、またフラリと現れるなどよくある話なのだ。確実に死亡確認が取れている場合は別であるが、冒険者が戻らないからといって、いちいち遺族に連絡していると、後で実は生きていましたというトラブルが頻発しかねないのである。そのため、安否不明の場合は遺族に連絡もされないという事はよくある話なのであった。
※ダードに関しては眼の前で細切れにされたのを見ていたので、生還したトニーによって死亡が報告されたが、クレイに関しては、死んだ瞬間までは見ていなかったので、曖昧になっていたのである。
― ― ― ― ― ― ―
まぁ、とりあえず家は無事だったので、クレイは次の目的―――自身の生存報告をしに領主家に顔を出しに行く事にした。
クレイが急に街に戻ってきたのは、自分の家の確認と生存報告のためである。無我夢中で過ごしてきたクレイは、気がつけば九年も経っていたのだが、ふと我に返り、もしかして自分は死んだ事にされているのではないかと気づいたからである。
生存報告くらいはしておかないと、家もなくなってしまうと思って慌てて帰ってきたのである。家は、大きくはないが、実家から出た時に父がクレイのために買ってくれたものだ。クレイにとっては大切な家でなのであった。
* * * *
その後、実家に顔を出したクレイ。
だが、クレイが現れても、それほど驚かれる事はなかった。
いや、皆、それなりに驚いてはいたが、“死んだはずの人間が生きて帰った” というほどの反応ではなかったのだ。
それはそうである、クレイが死んだ事は伝わっていなかったのであるから。冒険者になったクレイは、あちこち旅をしながら好き勝手に生きているのだと思われていたのだ。
逆に、むしろクレイのほうが驚く事になってしまった。領主は(未だ代行の立場ではあるが)兄のワルドマが引き継いでおり、父ブランドは怪我をして隠居生活になっているというではないか。
ワルドマ 「クレイ…。冒険者として楽しくやっていたのかも知れんが、故郷の街を大氾濫が襲ったニュースくらい、風の噂にも伝わって来なかったか?」
クレイ 「ああ、実は俺、今日まで九年ほど、地下に潜ってたもんで…」
ワルドマ 「地下ってお前……まったく、一体何をやっているのか……だから冒険者になどならず、俺の手伝いでもしていればよかったものを」
クレイ 「それで父上は?」
ワルドマ 「裏の別棟に籠もっているよ。あまり自由に出歩ける体でもないのでな」
早速父に逢いに行ったクレイ。
父は元気そうであったが、片手片足がなく、さらに片目も失った状態であった。
思わず自身の手を見るクレイ。片手片足、そして片目を失ったのはクレイも同じだったからである。(※あの時は全身ボロボロで気づいていなかったが、クレイは片目も失明していた。)
ブランド 「今日は泊まっていくだろう? どんな冒険をしてきたのか、冒険譚を是非聞かせてくれ!」
クレイ 「う…ん……、そうだね、父さんには話しておいてもいいか……」
その時、背後から急に抱きしめられるクレイ。
クレイの母マイアであった。
常に冷静な母親だった印象があるので、クレイはこんな風に抱きしめられるとは意外であった。
その日はヴァレットの屋敷に泊まる事になったクレイ。晩餐の後、クレイは自身に起こった事を両親と兄に話したのであった。
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