第66話 2ndラウンド
実はクレイの銃の
そう、弾丸が用意できればの話である。今回は模擬戦用に通常弾頭のマガジンを使ったのだが、クレイはダンジョン攻略に当たり、散弾タイプを中心に用意していたので、通常弾丸はあまり大量には用意していなかったのだ。
ダード 「認めてやるよ、俺に攻撃を当てるほどの高速連射ができるとはな……だが!」
ダードは身体に3発ほど弾丸を受けていたが、魔法による障壁(鎧)によって防げており無傷であった。
ダード 「次はそうはいかんぞ!」
再び戦闘開始である。クレイも既に銃を入れ替えており、接近してくるダードの迎撃を開始する。(掌底の収納魔法陣で銃を入れ替えるのは一瞬である。)
だが、先程の【回避】よりも、ダードの移動速度がさらに上がっている。ダードの奥の手である。
だが、奥の手を出したのはクレイも同じであった。クレイも銃を入れ替えると同時に身体強化の魔道具を “ブーストモード” に変更していたのだ。
モード
身体強化の魔道具の効率を150%まで上げる。かわりに効果の継続時間が1分ほどになってしまう両刃の剣である。
(さらにその上にもう一段、Ωモードを残しているが、こちらは出力を二百%まで上げる代わりに15秒ほどしか持たない。)
∑モードの活動限界である1分以内に仕留められなければ負け確定だが。負けても殺されるわけではないと割り切って勝負に出たのだ。
とは言えクレイも斬られて痛い思いはしたくない。
クレイ (なに、勝てばいいんだ。勝機は見えている)
双方速度アップしてのラウンド2開始である。
だが、今度は先ほどとは違った展開になった。
先ほどと同じように回り込みながら近づいてきたダードに対して、同じように回転しながら迎撃するクレイ。もうその動きには慣れた、と思った瞬間、なんとダードが反対方向に【回避】したのだ。
これまでダードの【回避】方向は常に一定だったので、回避するほうも追う方も同じ方向に回転していた。てっきりダードのスキルは同じ方向にしか避けられないのかとクレイも誤認したが、それはダードの狙い通りで、実は反対方向にも回避できたのだ。
急に逆回転されて置いていかれるクレイ。その間に距離をかなり詰められてしまった。(もし【縮地】などのスキルを持った相手だったらそれでクレイは負けていたかもしれない。)
慌てて修正してダード迎撃を再開するクレイ。だが、今度は右へ左へダードはランダムに【回避】し始める。さながら高速反復横跳びである。
反転させながらのスキル発動は、ダードの身体にも負担がかかるので実はあまり長時間は使えないのだが…。
クレイは、ダードを追って右へ左へと銃口を振り向け引き金を引くが、ダードも当然、単純な交互切り替えではなくランダムに方向を変えてくるので、予測しづらい。
振り回されるクレイ。どんどん距離を詰めてくるダード。気がつけば、あと一歩で剣が届く距離までダードの接近を許してしまっていた。
だが…
接近するほどに、異変をダードも感じていた。
実は、クレイの持ち替えた銃の
至近距離用の短銃は
広範囲に広がる
ペレット一つ一つは小さいが、距離が近付いた事と動きが鈍くなった事で、さらに当たるペレットの数が増え、結果さらに動きが鈍っていく。
やがてついに、散弾の命中が限界量を超え、ダードの【回避】スキルが停止してしまった。
スキルがなくなればまともに攻撃を浴びる事になる。だが、スキル停止の兆候を悟ったダードは、それでも引くことなく踏み込んできた。攻撃を受けても数発なら魔法障壁による鎧で防げる。相打ち覚悟でクレイを斬りに踏み込んだのだ。だが…
…連射される大量の散弾を浴び、障壁の鎧が持たなかった。
ダード 「何?! 障壁が破られた?! やべぇっっっいてててててっちょっ、待って、いてえってってってってってっ!」
ついに障壁は割れ、大量の散弾を生身に撃ち込まれてダードは吹き飛ばされて行った。
たとえダードが倒れても連射を続けてやろうかと思っていたクレイ。相手は油断がならない実力者だし、ダードも終了の合図があるまで間に攻撃を続けるつもりだと言っていたのだ。同じ事をされても自業自得だろうと思ったからだ。
魔法障壁の鎧が破られても、まだ身体強化は残っているはず、攻撃を続けても死ぬことはあるまいと思ったのだが…。
…だが、マスター・コウガイに『慎重に行動しろ』と怒られたのを思いだした。
「多分大丈夫だろうで行動して、もし取り返しがつかない結果になったらどうするのだ?」
万が一、当たりどころが悪く相手が死んでしまったら…? 即死ダメージでは魔道具による回復も不可能だと言っていた。
クレイはそう思い直して追撃をやめたのであった。
だがもちろん油断はしない。
ダードは倒れているが、なぜかコウガイから終了の合図はまだないのだ。
と言う事は、この程度ではまだダードは動けるということなのだろう。
日本の武道では確か『残心』と言うのがあったと思い出しながら、クレイは左手に別の魔導銃を出し、二丁拳銃ならぬ二丁マシンガンスタイルで待ち構えた。ダードにさらに奥の手があったとしても、二倍の弾幕はさすがに回避できないだろう。
すると、ダードに動きがあった。倒れたまま、ゆっくりと白旗を上げたのだ。
コウガイ 「勝者、クレイ!」
コウガイが勝ち名乗りを上げ、模擬戦は終了した。
結局、戦闘開始から3分ほどしか経っていなかった。
ダードを運び出そうと冒険者達が動き出したが、ダードはそれを制し、這うようにではあったが自力でバトルフィールドを出た。すると全身血濡れであったダードが何事もなかったように復活する。何度見ても不思議な光景である。
ふと、クレイは身体が重いのに気づいた。クレイの身体強化の魔道具が
危なかった。途中で電池切れになっていたら血濡れで倒れていたのはクレイだっただろう。決して余裕のある勝利ではなかった。
クレイ 「計算より少し早いか…? まだ改良の余地があるか……正直、ネタ切れなんだけどなぁ」
さらなる改良が求められるが、これ以上工夫しようにもノーアイデアなクレイであった。
クレイ 「まぁ、時間を掛けて考えれば、何かしら新しいアイデアも浮かぶだろう」
この日、ダードに勝ったのはクレイ一人だけであった。
もちろんランクアップ試験は合格である。
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