第63話 再び、ランクアップ試験

数日後、リジオンダンジョンの一階層。


ダンジョンの入口から入ってすぐの広場にクレイは居た。


もちろん試験のための特別入場で、ギルドマスター達と一緒である。


マスター・コウガイと試験官のダード、受付嬢のカイア。そして護衛兼雑用係として雇われた冒険者達が数名。


受験者はクレイのほかに5名。その中には先日試験を受けられなかったギージもいる。


手伝いの冒険者達が手際よく準備を進めていく。気を利かせた受験生が手伝おうとしたのだが、魔道具の設置の仕方も知らない奴が手を出すと却って邪魔だから大人しく待ってろと言われていた。


試験内容は結局、試験官相手の模擬戦と言う事であった。試験官はダード一人しか居ないが、万が一ダードができなくなった場合はマスター・コウガイが試験官をするらしい。


クレイ 「せっかくダンジョンに入ったなら、対人の模擬戦じゃなく魔物モンスター相手に戦うほうがいいんじゃないか? それのほうが気兼ねなく全力で戦えるし…」


コウガイ 「それでもいいんだがな。ただ、強すぎず弱すぎず、試験用の適切な魔物ってのは、そう都合よく用意できんからな。この階層の魔物は今日の試験の基準としては弱すぎるし、かといってCランク級のモンスターが出る階層まで行くのも大変だしな」


クレイ 「なるほど…」


コウガイ 「魔除けの魔道具を設置したから、モンスターが寄ってくる心配はない。効かないような強い魔物もこの階層には出ないしな。それから、ほれ」


コウガイは少し大きめの魔道具を設置している冒険者達を指さす。


コウガイ 「訓練場に設置してあった古代遺物アーティファクト、ダメージをなかった事にしてくれる魔道具もわざわざ取り外して持ってきたから、怪我の心配もしなくていいぞ。…もちろん、壁の心配もいらない、壊れる壁はないからな。」


ニヤリと笑うコウガイ。


コウガイ 「この間の強力な武器も使っていいぞ」


クレイ 「マヂカ?! ってたしか、即死級のダメージじゃ回復の魔道具も効かないんじゃなかったか?」


コウガイ 「そうだが、制限解除を言い出したのはダードコイツのほうからだからな」


ダード 「ふん、確かにこの間は想定外の威力でちょっと驚いたけどな。だが…どんな強力な武器だろうと、当たらなければ怖くはない」


コウガイ 「さすが、弓士殺しのダード」


ダード 「その呼び方はよせや…」


クレイ 「弓士殺し?」


コウガイ 「コイツは攻撃を交わして懐に飛び込むのに適したスキルを持っていてな」


ダード 「おい…手の内を明かすなよ…」


コウガイ 「ハンデだよ。いつもみたいに試験官が受験者を瞬殺して全員失格で終了じゃ困るんだよ」


ダード 「実力のない奴は落としてやった方がいいんだよ。温い試験で合格しても、ダンジョンで命を落とす事になるだけだ」


コウガイ 「ところでクレイおまえは帯剣していないようだが、短剣は持っているか? なければ貸すぞ?」


クレイ 「短剣は持っているが?」


コウガイ 「ならいつでも抜けるように装備しておけ。ダードは接近戦が得意だ。遠距離用の武器だけでは勝負にならんぞ」


ダード 「持っていても実力がなければ勝負にはならんけどな」


クレイ 「……遠間のまま、試験官が距離を詰める前に決着がついてしまったら?」


ダード 「ふん、相変わらず生意気だな。ちょっと強い武器を持って自信過剰になってるんだろうが……俺はそういう傲慢な後衛職を潰すのが趣味なんだよ」


コウガイ 「まぁ、ダードが接近できないほどの実力があるなら、大抵の魔物は接近できんだろうからな。じゃぁ早速、クレイからやるか?」


ダード 「いや! クレイコイツは最期だ、メインディッシュは最期にとっておくものさ」


ということで、他の受験者から順番にダードと対戦する事になったのだが……


クレイ 「意外と普通だな…」


最初の一人はロングソードを使うギージ、二人目は槍使いで、二人共前衛職であったが、まぁまぁ互角に打ち合っていた。ダードも先刻言っていたスキル・・・も特に使っているようには見えないが、マスターに釘を刺されたので手加減しているのかもしれない。それでも結局、最後はダードが(しかも余裕で)勝った。さすがAランクの冒険者である。(負けはしたが、二人とも合格判定を貰っていた。勝たなくても実力が認められれば合格となる。)


三人目は盾を持ったタンク職であったが、一定の時間ダードの剣撃を受けて持ちこたえ、合格判定を貰っていた。


だが、四人目と五人目で様子が変わった。


四人目は魔法士の少女で、名前をルウナと言った。まだ若いが、強力な魔法を使えるという事だ。


だが、そもそも、後衛職の魔法士が戦士と一対一で戦うのは不利である。呪文の詠唱に時間が掛かるからである。普通、呪文詠唱の時間を盾士タンクや前衛の戦士が稼いでくれるものだがそれが居ないわけで、詠唱の時間をどう捻出するかが問題となる。


ちょっとズル賢ければ開始の合図の前に呪文詠唱を終了しておくという手もなくはないのだが、少女ルウナはバカ正直に開始の合図の後に詠唱を始めたのだ。結局ダードがスキルを発動する必要すらなく、間合いを詰められて斬りつけられて終了であった。


ダードがルウナの腕を斬りつけて、負傷のため少女は戦闘不能と判断され終了となったのだが……腕をほぼ切断する勢いで斬られたため、大流血の事態となり、ギャラリーは全員引いた。寸止めで良かった気がする、ダードほどの実力があればそれで負けを認めさせる事もできたはずだが……周囲の責めるような視線に対し、痛みを知る事も勉強なのだとダードは言い放った。


まぁ確かに、魔道具によって作り出されたフィールドから出れば怪我はなかったことになって治ってしまうのだから、一つの経験としては有意義なのかも知れないが…。


五人目はジョン、弓士であった。歳の頃は二十代後半か、もしかしたら三十代かもしれない。印象の通り、冒険者としてはかなりベテランだそうだ。ジョンは前の少女と同じ轍を踏まないよう、既に矢を番えて構えている。


そして、コウガイが開始を叫び、同時に矢が放たれた。


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