第62話 お説教
クレイは、もし弁償を求められたら、マジックバッグをいくつか作って売ればなんとかなるかな? などと考え始めたところだったのだが…
コウガイ 「…なんてな」
クレイ 「?」
コウガイ 「実はな、こちらの面の外壁は、ちょうど拡張工事の予定が入っていてな」
ダード 「街を広げるのか?」
コウガイ 「そうだ、外側に新たな壁を作る予定だから、それまでの応急処置だけで済むだろう。完成したら内側の壁は取り壊される予定だから、むしろ壊してくれてありがたいって言われるかもな。なんなら取り壊しに協力してくれと言われるかも知れんぞ? お前のその武器を使えば捗るだろう?」
ダード 「おお、そりゃいい、それでチャラにしてくれるよう領主に掛け合ってくれ」
コウガイ 「ただ、ギルドの壁はこちらの自腹って事になるだろうな。それと、裏の宿屋についてだが…」
コウガイ 「…まぁ、そっちも大丈夫だろ」
ダード 「なんでだ? 弁償しろって宿屋の親父が怒鳴り込んで来そうだが?」
コウガイ 「実はな…宿の親父にはあそこに棟を増設する時に警告してあったんだ。もとから建てていい場所じゃないからな。そんな場所に建てて、なにか事故があっても、ギルドには請求しませんという念書にサインさせてあるんだよ」
それを聞いて少しほっとするダードとクレイ。
コウガイ 「ダードについては、試験官として判断を誤ったことは、後でそれなりにペナルティがあると思えよ? それから、クレイとか言ったな? ダードはともかく、お前は自分の武器の威力を理解していたんだろう? だからこそ警告したわけだしな」
クレイ 「……」
コウガイ 「だが、理解しているならばこそ、使うべきじゃなかった。それは分かるな?」
クレイ 「撃たなければ失格にされそうだったんだが?」
コウガイ 「だが、今回はたまたま、お前がぶち抜いた部屋に誰も居なかったから良いが、もし誰か居たらどうなったと思うんだ?」
クレイ 「それは…死んでたかも知れんな…」
コウガイ 「あの威力だ、かも知れんじゃないだろうが! そうしたらお前は何の罪もない人間を殺した殺人者として処罰される事になったかも知れん」
クレイ 「……」
コウガイ 「もし死人が出ていたら、その家族は悲しむだろう。事故で納得してくれないかも知れん。
仮に、事故として無罪放免となったとしてもだ。お前が街の人間を殺した事には違いない。その事について、お前は良心が痛まないか?」
クレイ 「…確かに、軽率だったか…」
コウガイ 「お前の武器が強力なのは分かったが、今後は自重しろ、街中では使うな、たとえギルドの訓練場であったとしても、だ」
クレイ 「…分かった」
コウガイ 「それから、ランクアップ試験をやっていたのだったな。それについては――」
クレイ (失格か…まぁ仕方ないか)
コウガイ 「――模擬戦を見せてもらおうか」
クレイ 「…へ? 失格じゃないのか? それに、武器は使うなって今…」
コウガイ 「もちろん、その武器は使用禁止でだ」
クレイ 「だが、俺は後方支援タイプだ、近接戦闘は得意じゃないんだが? 使う武器も特殊だし」
コウガイ 「ダンジョンに入りたいんだろう? いくら後衛だと言っても、ダンジョンの中では魔物を接近戦を強いられる状況はいくらでもありうる。そんな時にどうする気だ? 魔物は近接戦闘職じゃないからって遠慮してはくれないぞ?」
クレイ 「いや、まぁ、俺なりに近接戦闘用の武器も用意はしてあるさ。それを使っていいなら模擬戦をやってもいい。だが、ギルドにある木剣でやれって言われても困るぞ?」
コウガイ 「もちろん、その武器は使ってもいい。このギルドは実戦派だからな。木剣などではなく、普段使っている武器を使うのが流儀だ…
……その武器は、壁を壊すような威力はないんだよな?」
クレイ 「……」
コウガイ 「…おい?」
クレイ 「なるべく弱い武器を使うようにする…」
コウガイ 「模擬戦の前にもう一度的を撃たせてみたほうが良さそうだな…」
カイア 「でも、訓練場は直るまで当分使えないのでは?」
コウガイ 「そうだな、代わりにダンジョンの一階層を使って試験をやることにしよう。確か他にも受験者が居たよな?
まぁ今日は色々後始末もあるから、数日待て。あ、あと、ギルドの壁の修理代はダードとクレイにもいくらか負担してもらうからな?」
結局、ギルドの壁の修理代は弁償する事になってしまったクレイであった。ただ、ギルド側の不手際でもあるので、全額ではなく四分の一にしてくれた。ダードもペナルティとして同額を支払う事となった。
ダードは分割払いで月々ギルドに返してく事になったのだが、マジックバッグを売って金持ちだったクレイは一括で支払ってマスターを驚かせたのであった。
資金が一気になくなってしまったが、しばらく試験も行われないので、クレイはまたマジックバッグを作って街で売り、資金はすぐに回復したのであった。
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