第60話 責任とってね

試験官ダード 「お前は遠距離支援タイプだと言っていたな。模擬戦では遠距離で戦闘開始のハンデをやろう。っと、その前に、遠距離攻撃の精度と威力を見せてもらおうか」


そう言いながらダードが訓練場の隅に立っている的を指差した。


ダード 「あの的を攻撃してみろ。強固な防護魔法が掛けてある……だがまぁあれくらい破壊できなければ俺の防御を破る事などできんがな」


だがクレイは躊躇している。


クレイ 「壁の向こう側はなんだ?」


ダード 「…?」


クレイ 「俺の武器ではおそらくまとだけじゃなく壁も一緒に破壊する事になるが、構わんのか?」


ダード 「……自信満々な言動も行き過ぎればただのホラ吹きだと自己紹介してる事になるぞ? 訓練場の壁には的以上に強固な防護魔法が掛けられているんだ、破壊などできるわけないだろうが!」


クレイ 「やってみせろと言うならやるが…後で責任取れとか言うなよ? もし壁が破れても全ての責任はお前が取ってくれるって事なら…」


ダード 「ああ、もういい、やらんでいい! 口先だけで誤魔化すにも限度がある。 お前は失格だ!」


呆れた顔で追い払うような仕草をするダード。それを見たクレイは黙って魔導銃を取出した。ヴァレットの街で最後に完成させた新作の魔導銃である。


それは、いつもの魔導銃よりかなり長めの銃身になっていいた。口径も、銃というより砲と言ったほうがよいサイズまで拡張した。口径が太くなったと言う事はより大きい弾丸を発射できる。弾丸の重量が増すが、加速用の魔法陣も大量に刻んでいるため、それほどの性能劣化はない。さらに、亜空間内の加速砲身の長さも従来の何倍も延長したので、威力はまさに大砲である。


ただ、製造が大変なのと、砲身が長くなった事で引き金を弾いてから弾丸が飛び出るまでの時間が以前より長くなってしまった事が欠点か。(魔導銃は発射までに0.2秒ほどであったが、魔導砲は0.4秒ほど掛かるようになってしまったのだ。


0.4秒と言うのは意外と長い。その間、しっかりと銃身がブレないようにホールドしておく必要がある。そのために、銃身をあえて長くしたのだ。さらに、銃身の先端近くに脚を付けて地面に置く事でよりホールドし易い構造にした。脚の先端には開閉式の爪が装備されており、レバーを引くと爪が地面に食い込みホールドする。


弾丸は着弾までバラけないように強めの接着剤で固めた散弾タイプを使用した。魔法障壁を破壊する魔法陣などは組み込んでいない、純粋に物理的な破壊力のみである。


ダード 「おい、何をしている? パフォーマンスはもういいからさっさと出ていk~」


それを無視して射撃体勢に入るクレイ。照準を合わせるのは一瞬である、動かない的など慎重に狙う必要もない。そして……


凄まじい轟音がして、弾丸が発射された。


クレイはパフォーマンス・・・・・・・のためにあえてサイレンサーを付けずに撃ったのだ。音速を超えた弾丸が空気の壁を突き破る時に衝撃波が発生する。クレイだけは耳栓をしていたので無事であるが、その爆音に、その場に居た者は皆ひっくりかえってしまう。


ダード 「……嘘だろ……」


尻もちをついたダードもすぐに起き上がったが、壁に開いた直径1メートルの大穴を見て呆然とする事になる。


クレイ 「人の言うことを信じないからこういう事になる。で、壁の向こう側は……あちゃぁ」


クレイが壁の穴の向こう側を確認すると、なんと壁の向こう側には建物があったようだ。焦るクレイ。ヴァレットの冒険者ギルドでも壁をぶち抜いた事があったが、壁の向こう側は城壁だけだったので問題はなかった。というか、普通は、万が一を考えて、裏に何もない側に的は設置するものである。まさか壁の裏に建物があるとは思わないだろう。


聞けば、そこにあったのは宿屋だそうだ。もともとはそこには何もなく、数メートル先に外壁があるだけだったそうだが、街を訪れる者は増える一方なのに宿屋が不足気味で(城郭都市の内部のスペースは限られている)、少しでも隙間があると買い取られて宿が増設されていくのだそうだ。以前はそこには何もなかったはずなのだが、ギルドの隣にあった宿屋がギルドの裏にあった空きスペースに客室棟を増設してしまったのである。


幸いにも今はその部屋は無人であったため怪我人や死人は出ていなかったが……


ギルドの壁を突き破った弾丸は客室の壁を貫通し、さらに反対側の壁も貫通。そして、向こう側の城壁にも穴が開いてしまっていた……。


クレイ 「俺はちゃんと警告したからな?」


だがダードは口をパクパクと動かすだけで声が出て来ない。


クレイ 「…あんたが全部責任取ってくれって言ったよな? あんたが全部責任とってくれるんだよな?」


大事な事なので二度確認したクレイであったが、ダードから返事は聞こえないのであった・・・



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