第45話 手のひらからポン!

クレイの虚を突き魔物が襲いかかる。だが、魔物がクレイに到達する直前、クレイと魔物の間にノウズが立ち塞がった。魔物はノウズの強固な大盾によって跳ね返され、クレイは無事である。


ドヤ顔をするノウズ。いつも生意気な口をきくノウズであるが、クレイがパーティに参加する時にはいつも傍に居てクレイを守ってくれている。


慌ててクレイは身体強化の魔道具を全て起動する。視力強化と思考加速の魔道具を起動して見えたのは、高速で襲い掛かって来る魔狼デビルウルフの群れであった。


実は、魔狼達はゴブリンの群れに目をつけていたのだが、魔狼にとってもゴブリンは不味く、どうしても獲物が手に入らない時でもなければ積極的に狩ろうとは思えずキープ状態であったのだ。だがそこに美味しそうな人間達が現れたので、これ幸いと取り囲んで狩りを開始したのであった。


彼らの動きは非常に疾い。身体強化がなければ目で追えないほどである。だが、さすがBランクパーティの黄金の風である。アレン達は落ち着いて着実に一体ずつ狼を仕留めていく。


クレイも負けじと射撃を開始する。


だが、近距離で高速移動する的を射撃するのは意外と難しい。何匹かは倒したが、そのうち一匹の狼を仕留めそこない、食いつかれてしまった。


ノウズ 「しまった! クレイ?!」


この時ノウズは別の魔狼三匹の攻撃を一人、大盾で抑えている状態で手が離せず、クレイをフォローしきれなかったのだ。


狼に齧りつかれてしまったかに見えたクレイ。だが、クレイは魔導銃を横にして魔狼の口に差し入れかじられるのを阻止していた。


実はクレイには防御用の魔法障壁を発生する魔道具があるのだが、体表近くでしか発動しない。銃を盾にするのが最適なタイミングと位置だったため、防御壁の作動する前にクレイは思わずやってしまったのだった。


だが、銃に横から食いつかれていては撃つことができない。


ノウズ 「待ってろ! すぐ行く!」


だがクレイは涼しい顔である。そして、発砲音が響いた。見れば、クレイの手には短銃が握られており、パンパンと音がしていた。


魔狼は胴体に穴を開けられ、地面に転がって動かなくなる。


クレイは近接戦闘は苦手であるが、当然クレイなりに近接戦闘の対策も色々考えてきていた。その一つが、短銃の早撃ちである。


クレイはマジックバッグを作る事ができるが、その魔法陣を掌に入墨のように刻んでいた。小さな魔法陣のため収納量はそれほど大きくはないが、中には何丁か拳銃を収納しておける。


手に何も持っていない状態でも、敵に向かって手を差し向けながら少し魔力を込めるだけで掌の中に拳銃が飛び出してくる、それを掴むと同時に撃つ。これをクレイは練習していたのだ。


襲ってきた魔狼を倒したクレイは長銃ショットガンをマジックバッグ(こちらはベルト型)に収納すると、左手にも拳銃を出現させた。左手の掌にも魔法陣は刻んであるのだ。


そして二丁拳銃でノウズが抑えている魔狼にクレイは向かった。ちょうどショットガンが弾切れのタイミングで、ライフルを取り出しても良かったのだが、せっかくなので拳銃を使ってみることにしたのだ。


ノウズは盾士であり、その大盾の防御力は絶大ではあったが、攻撃の手段があまりない。一番の武器は盾ごと相手に体当たりする “シールドバッシュ” という技だが、魔狼は動きが速く反応もよく、シールドバッシュを放っても空振りに終わってしまう事が多いのであった。


ノウズ 「クレイは下がっていろ! おいアレン、速く来てくれ!」


だがその時、近づいてくるクレイに気づいた魔狼の一匹がクレイに矛先を変えた。


クレイに飛びかかる魔狼。しかし、防御魔法陣が作動し、かろうじてその攻撃は防がれる。魔狼の攻撃は強力で、クレイの防御用魔導具の障壁はすぐにでも破壊されてしまいそうであったが、僅かに間を作り出してくれれば十分である。その間にクレイの二丁拳銃が火を吹き、魔狼の体に穴を穿ってしまう。


見れば、残った魔狼も駆けつけてきたアレンによって殲滅されていた。


どうやら襲撃をしのぎ切ることができたようだ。


ノウズ 「…そんなのもあるんだな」


クレイ 「ああ、接近戦用の拳銃だ」


そう言いながら瞬時に拳銃を出したり消したししてみせるクレイ。


パティ 「どっから? ってマジックバッグに決まってるか。…手のひら?」


ノウズ 「なるほど、一瞬で取り出せるのか。自分でマジックバッグを作れる人間にしかできない発想だな」


パティ 「色々考えているのね」


クレイ 「ああ。まだまだだけどな。一人でやって行くには課題は多い。索敵に防御、攻撃も、もう少し様々なシチュエーションに対応できる準備を考えないと…」


トニー 「一人で? 俺たちと一緒にやっていけばいいじゃないか」


クレイ 「俺にはいずれ行きたいところがあるんだ。そこに付き合わせるわけには行かないしな」


アレン 「どこへ行きたいんだ?」


クレイ 「ダンジョンさ」


パティ 「ダンジョンなら一緒に行けばいいじゃない。この街に来たのも、近くにダンジョンが目当てだし」


クレイ 「ああ、まずは近場のダンジョンから慣らしていくつもりだけど、いずれは古代都市ダンジョンに挑むつもりなんだ」


アレン 「Sランクダンジョンのリジオンか…?! これはまた、すごい目標を掲げたな」


クレイ 「え、そんな難しいところなのか?」


ノウズ 「あそこは難度が高くてほとんど攻略が進んでいないらしいぞ」


クレイ 「そうなのか…」


パティ 「でもなんでリジオンに?」


クレイ 「古代の魔道具を解析してみたいんだよ。あそこの深層にはたくさんの古代遺物アーティファクトが出るらしいじゃないか」


パティ 「ああなるほどね…


…どうする?」


顔を見合わせる黄金の風の面々。


アレン 「この街には来たばかりだ。なかなか良い街のようだし、しばらくはここを拠点にしようと考えていた」


クレイ 「ああ別に、一緒に行ってくれとは言わないよ。現地で慣れている高ランクパーティを護衛に雇う事も考えていたし」


トニー 「まぁ正直、Sランクダンジョンなんて、俺たちのレベルじゃまだ少し敷居が高い」


ノウズ 「だが、いつかは挑戦してみたいのも確かだ」


クレイ 「まぁすぐにってわけでもない、まずは近場のダンジョンに潜ってみるところからだしな」


パティ 「それならまだ当分は一緒に活動できそうね」


ノウズ 「クレイを鍛えてやる必要があるって事だな」


トニー 「お前が鍛えられる必要があるんじゃないのか?」


ノウズ 「お前モナー!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


クレイ、ダンジョン初挑戦…?


乞うご期待!



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