第34話 解析完了

クレイ 「……」


ヴィオレ 「……」


ケイト 「……zzz」


クレイが解析作業に没頭し、部屋の中には沈黙の時間が流れる。邪魔してはいけないとヴィオレも黙っていたが、ケイトが船を漕ぎ始めたので、膝枕をしてやると、スヤスヤと寝息をたて始めた。


その時ノックの音がした。メイドが部屋に迎えに来たのだ。招いた覚えのない客は帰ったので、もう一度応接間に来てほしいとブランドが言っているとの事であった。


クレイ 「あ、僕はしばらく籠もるから、後は頼むよ」


メイドに向かって言うクレイ。赤ん坊の頃からクレイの面倒を見てくれていたメイドである。クレイが部屋に籠もって研究に没頭していた事もよく知っていたので、邪魔しないように黙って姉妹二人を連れて出ていった。


一人部屋に残って解析作業を続けるクレイ。


デコンパイルした魔法陣の膨大なソースコードの解析は、最初の頃はなかなか進まなかった。


だが、クレイは生まれてから二十年近く、寝るときと食べる時以外の人生のほとんどの時間をこの作業に費やしてきたのだ。


解析は進むほどに仕様も分かってくる。コードの書き方と、この魔法言語の癖も掴めてくる。そして、徐々に慣れて勘もよくなってくる。しかもクレイには元の世界でのプログラマーとしての知識と経験・勘もある。(クレイが地球時代に初めてプログラムを書いたのは小学生の頃であった。天才とまでは言えなかったが優秀なプログラマーだったのだ。)


やがて、年数を重ねるごとに加速度的に解析の速度は早まっていく。二十歳を過ぎた今では、もはやソースコード解析のスペシャリストと言えるレベルであるのだ。(職能クラス名はいつのまにかプログラマーから魔法陣ハッカーに変わっていた。)


ケイトの隷属の首輪の魔法陣は古代遺物アーティファクトであり、じっくりと解析したいところなのだが、首輪がいつまでも嵌ったままではヴィオレとケイトも不安であろうから、とりあえずクレイは首輪を外す事だけに専念する事とした。


魔法陣は、直接魔法の術式が書き込まれているわけではなく、各種のコンパイル済みの魔法コンテナの組み合わせてできている。


非常に多くのコンテナが複雑に絡み合って構築されているが、それらを機能ごとに分類し、必要な部分だけを解析するのだ。残りの部分はブラックボックスのままとしておいて、時間ができた時にじっくり解析すればよい。


隷属の魔道具のソースコードは、クレイが見た中でもトップクラスの膨大な量があった。これに匹敵するのは、マジックバッグの魔法陣だけであろう。そもそも隷属の首輪はどうやって作られているのか? 奴隷ギルドに囲い込まれた限られた職人だけが作れると言われている。これらの職人はもちろんそのための特殊なスキルを持っているわけだが……実は、彼らは、古代の遺物アーティファクトに刻まれた魔法陣を “転写” するスキルを持っているだけなのである。ソースコードの内容など理解している人間は居ないのである。


幸い、隷属の首輪のセキュリティはそれほど高くはなかった。(というか最低限のレベルのものであった。)もっとプロテクトの堅いモノもあったのだが、その魔法陣を転写する事ができる人間がおらず、最低限のモノだけがかろうじて複製できているという状態だったのである。


とは言え、クレイも似たようなものなのであまり偉そうな事は言えない。


実は、これまでクレイが解析したソースコードは全体の1~2割程度でしかない。それを他の魔道具に添付したり、改良したりできるだけの最低限の解析しかしていないのだ。すべてを解析していたらおそらく一生掛かっても終わらないであろう。


膨大なコードの中からおよその当たりをつけて調べていくクレイ。予想は当たったようで、ターミナルウィンドウの中をスクロールしてく文字の羅列を眺めていたクレイは、ついに首輪の施錠/解錠を行っている部分を発見した。


クレイ 「なんだ、施錠部分は、扉に使われている魔法錠のコードと対して変わらないんだな…」


人を隷属させる部分は依然ブラックボックスのままだが、施錠・解錠に関しては後から付け足されたのか、非常に簡易なものであった。言ってみれば針金一本で開いてしまうもっとも初歩的な錠のようなものである。(それでも、その鍵穴にアクセスできる者が居ないという状態なので誰も解錠できないのであったが。)


本物の高度なプロテクトが掛かった隷属の首輪であったらこうはいかなかっただろうが、そのような首輪はレアで、あまり出回っては居ないのである。


クレイ 「よし、試してみるか…。ケイトは応接室にまだ居るかな?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


解錠


乞うご期待!



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