第33話 隷属の魔道具
ヴァレット子爵の領地では、領主ブランドの祖父の時代から奴隷商人が領内で商業活動を行うことを禁じている。(奴隷の売買だけでなく、隷属の魔法を行使する事を禁止している。)
そのため、領内に奴隷の姿はあまり見られない。
ほぼ、というのは、他の領地で奴隷を購入し、その奴隷を連れて領内に入る事は可能だからである。ただし、旅人の一時滞在だけの話である。一ヶ月以上滞在する場合は、奴隷を所有している者は課税される制度となっているのだ。ただ奴隷を保有しているだけで、その人数分税金を徴収されるのではたまらないので、この街に根付いて生きていこうという者は、特殊な理由でもない限り、奴隷を使う事はなくなったのである。
※例外的に犯罪奴隷はヴァレット領にも存在しているのだが、ヴァレット領は民思いの領主のおかげで治安が非常に良いため、奴隷にされるほどの重犯罪者はほとんど居ないのである。
そのため、クレイはこの世界に生まれてから奴隷というものを一度も見たことがなかった。
そして、当然のようにクレイは隷属の首輪に興味を抱く事になる。
クレイは魔法を解析する事はできない。できるのは魔法陣の解析だけである。魔導具には必ず魔法陣が刻まれているので、それを解析し、応用して新たな魔法陣を作る事ができるが、その見本となる魔法陣が少ないとできる事が少なくなってしまうのだ。
そのため、クレイはできるだけ様々な魔導具を見たい(解析したい)のである。オリジナルの魔法陣を作るにしても、そのためのライブラリが不足している状態なのである。
冒険者になったのもそのためである。クレイの最終目標は、
街の中で手に入れられる魔法陣はあらかた解析してしまった。そもそも、魔導具があまり重用されていないこの国では、大した魔導具は手に入らないのである。
まれに冒険者などが伝説級の武器などを持っている事もあるが、そのような武器を解析させてもらえる機会はいまのところない。
だが、隷属の首輪こそは、まさに、伝説級の魔導具に近いものである。それが今、目の前にあるのである。解析しない手はない。
クレイ 「その、
ケイトが身を固くしてヴィオレの袖を掴んだ。
ヴィオレ 「どうなさるおつもりなのですか?」
クレイ 「ちょっと、解析させてもらえないかと思って」
ヴィオレ 「もしかして、首輪を外すことができるのですか?!」
クレイ 「いや、まだそれは分からないけどね。解析しみないことには……」
ケイト 「痛いこと、しない……?」
クレイ 「ああ、大丈夫、一切触らないから」
ケイトがおずおずとクレイの前に近づいてくると、髪をかきあげて項を見せるようにした。
首輪には継ぎ目はなく、どうやって嵌めたのか分からない。どこかに魔法陣が刻まれているはずなのだが、外側からは見えないようになっている。
クレイは、唯一使えるスキルを発動する。この歳まで研鑽を続けた結果、スキルもかなりレベルアップしている。以前は分解して魔法陣を取り出して直接見ないと解析できなかったのだが、今では分解せずとも内部の魔法陣を浮き上がらせる事ができるのである。(これは、基本である光の魔法陣の改良・応用が極めて進んだ結果でもある。)
首輪の内部に隠された魔法陣が光となって、空中に浮き上がる。
ヴィオレ 「これは……」
クレイ 「へぇ! こんな形にもできるんだね」
魔法陣は通常円形であるが、首輪の魔法陣は、首輪の内側に刻まれているのだろう、筒状になっているようだ。
光を発生させる魔法は長時間は維持できないが、ひと目見ることができればクレイには十分である。
クレイのスキルであるハッキングツール「クロネコ」に一瞬にして魔法陣が記録されてしまう。
クレイは椅子に座ると、空中をぼーっと眺め始めた。
クレイ 「あ、しばらくぼーっとしてるように見えるけど、解析作業してるだけだから気にしないでね」
コマンドターミナルを起動するクレイ。その黒い窓はクレイにしか見えない。入力は、思うだけできた。完全な思念だけのインターフェースである。最初はかなり手こずったが、慣れると手でキーボードを叩くよりずっと早くできるようになった。ただ、集中してやる必要があるので、画面を見入って動かなくなってしまう。(※周囲の様子は見えるし聞こえているが。)実は、部屋で一人ぼーっとしているだけの時間が多いと周囲から思われていたクレイだが、解析作業中だったのである。
早速クレイは記録した魔法陣のデコンパイルを実行する。
とたんに、魔法陣から膨大のソースコードに変換され、ターミナルの中を高速に流れていく。
それらはすべてターミナル内であれば記録され、いつでも見られるので、今度は時間をかけてそのソースコードをクレイが手作業で自力で解析していく。
だが、複雑なソースコードになると数千万行にもなるのだ。それをクレイ一人で手作業で解析していく。これは、恐ろしく時間が掛かる作業なのである。
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次回予告
隷属の首輪は
乞うご期待!
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