第15話 仕方ないよね、殺らなければ殺られてたんだから
クレイ 「あ、これ、さっきの十倍以上の威力があるけどね?」
ジャクリン 「…は? 十倍?」
このライフルは、銃身に、内部を通るモノを回転させる魔法陣と加速する魔法陣を交互に大量に刻んである。(そのために銃身が長くなってしまったのだ。)銃が壊れてしまうため爆発力を高める事は難しいが、ならばレールガン方式ならどうかと考えたのである。これなら弾速を上げる事ができるし、弾の回転も高速化する事ができる。
さらに、せっかく上がった回転力を活かすため、弾丸の形状も、ドリルのように捻った形状にしてある。
クレイ 「さっきの弾丸が体表に刺さったなら、コレなら確実に貫通できる。まさか、これを人に向かって撃つ事になるとは思わなかったけど…」
それを聞いて一瞬青くなるジャクリン。
ジャクリン 「……ハッタリ、だな? 虚勢を張る時、人はやたら己が強さを雄弁に語り出るんだよ」
クレイ 「そうかもね? でも本当かもしれない。
もう一度言うよ、できたら撃ちたくない。諦めて帰ってくれないかな?」
ジャクリン 「仮にも王都騎士団東支部の支部長である私が、魔なしに脅されて逃げ帰るわけにはいかないんだよ…」
クレイ 「……」
ジャクリン 「……」
ジャクリンが一歩前に出ようとしたが、踏み出した足が地に着くより早く、クレイが引き金を引いた。
ドンと銃声が響く。反動でクレイは後ろに倒れてしまった。
クレイ 「いてて……反動が酷いね。改造の余地ありだなぁ…」
ただ、なんとか銃身の向きは変えずに保持できたため、放たれた弾丸はジャクリンの胸に命中した。
後ろへ大きく吹き飛ばされたジャクリンは……
…仰向けに倒れ、動かなくなった。
それを見てクレイは少しだけ、悲しそうな表情をした。
クレイ 「殺らなければ殺られていた。仕方ないよね…」
ジャクリンに近づくクレイ。だがその時、倒れていたジャクリンの目が開く。
クレイ 「げ! 生きてる?! どんだけ化け物なんだよ…」
ジャクリン 「いや……私の負けだ……。防御に持てる全ての魔力を注ぎ込んでしまった。なんとか攻撃は防げたが、もう魔力切れで動けん。私も魔なし状態と言うわけだな。今なら私に止めを刺せるぞ?」
クレイ 「……いや、やめとくよ。このまま帰ってくれるなら、だけど」
ジャクリン 「甘いと言っただろう? そんな事ではいずれ命を落とす事になる」
クレイ 「そっか! じゃぁやっぱり止め刺しとくか!」
そう言いながらクレイは銃口をジャクリンに向けた。
ジャクリン 「ちょ、殺したくないんじゃなかったのかよ!?」
クレイ 「叔母上様のありがたい忠告からしっかり学ばせてもらおうかと」
ジャクリン 「……ちょマジで?」
だがその時、声がした。
『これは何事だ?! ……ジャクリン?』
クレイ 「父上、帰られたのですか」
ブランド 「ジャクリン、血だらけじゃないか! おい、誰か! 治癒士を呼べ!」
ジャクリン 「治癒士は要らない、怪我は大した事ない。魔力切れになっただけだ。できたら魔力ポーションをくれると助かる…」
ブランド 「おい、魔力ポーションを持って来い!」
ジャクリンの魔力を回復させるのには一瞬抵抗があり、待ったを掛けようかと思ったクレイだが、父が居るならジャクリンの暴走を止めてくれるだろうと思い直した。
ブランドの指示でメイドが持ってきたポーションを飲み魔力が復活すると、ジャクリンは体表に刺さっていた弾丸を払い落とし、自分の体に治癒魔法を掛けた。
クレイ 「やれやれ、ほんと、魔法って便利だよねぇ…」
ブランド 「何があった? …クレイ?」
クレイ 「叔母上が突然やってきて、私を殺そうとしたので、必死で抵抗しました」
ブランド 「何だと? ジャクリンが? まさか
ジャクリン 「ああ本当だ、兄貴が居ない間に厄介者のクレイを始末しておいてやろうと思って来たんだ。だが、見事に返り討ちにされて、今まさに、止めを刺されるところだったってわけ」
ブランド 「クレイがジャクリンを返り討ち? ちょっと信じられないが……これは一体何だ? これを使ったのか?」
ブランドが地面に落ちた弾丸を拾う。
ジャクリン 「本当だ。まさか、魔なしに王都ナンバーワンの騎士である私が負けるとは思わなかったわ。なんでも、魔導具を色々改造して武器を作っていたんだそうだ」
ブランド 「魔導具?」
ジャクリン 「ほら、子供の頃よく持ち出して遊んで怒られたじゃない、祖父の遺品」
ブランド 「…ああ。だがあれは、子供のおもちゃのようなモノだったはずだが」
ジャクリン 「おもちゃじゃなかったらしい。それをクレイは強力に改造したようだ。クレイは祖父の研究を完成させたって事だな」
ブランド 「なんと!」
ジャクリン 「ふん…。魔なしでも、その才能があれば、生きていけるかも知れないな……」
負けを認めた叔母は潔かった。もうクレイを襲わないと約束して、これまでの事を素直に謝罪し、王都へ帰っていった。
正直言えば、殺されかけたクレイとしては軽く謝られて終わったのでは納得できず、モヤモヤする部分もあったのだが。ジャクリンは本気だったようにクレイには見えた。なんとか対抗できたから生きているが、そうでなかったから自分は死んでいたかもしれないのだ。
やはり止めを刺しておくべきだったかと思うが、実は、クレイの銃はあの時点で弾切れで、止めを刺すと言ったのはただの脅しであった。
部屋に戻ってジャクリンを殺せる武器を探すか、剣などを使ってジャクリンに止めを刺すか…ジャクリンの魔法防御が本当にゼロなら可能だったかもしれないが、王都の騎士団長を務めるくらいのジャクリンである、一筋縄では行かなかったのではないかとも思う。
なんとか引き分けに持ち込めて生き延びられた、という状況であったとクレイは冷静に分析する。今後は、この世界で生き抜くためにも、もっとしっかりと準備しておこうと思うクレイであった。
* * * *
帰路の馬上でジャクリンは勝負を決定づけた最後の弾丸を取り出し眺めていた。弾丸は、胸に着けていた騎士団のエンブレムに突き刺さっていたのだ。
エンブレムは、そこそこ厚みのあるミスリルの板の上に騎士団の紋が象られた立派なものである。
ミスリルは、素の状態でもかなり強度があるが、魔力を通すとその量に応じて強度は数倍から数百倍にも高まる。ジャクリンが防御のために全力で魔力を集中させていた上にあったのだから、その強度はマックスまで高まっていたはずで、簡単に破壊できるものではないはずのだが……クレイの弾丸は、貫通しきれなかったとは言え、それを突き破った状態で止まっていたのだ。
ジャクリン 「
ジャクリンは自分が助かったのはラッキーでしかなかった事実を噛み締めた。
ジャクリン 「クレイ、恐ろしい子…
…いつか、あの子の作った魔導具が歴史を変える日がくるかもしれないな」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
クレイは旅立つようです
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます