第14話 敵は手強かった…

クレイ 「動くな! この銃はさっきのおもちゃとは違う! 今度は本当に死ぬことになるぞ!」


それを聞いてジャクリンの動きが止まった。さすがに少しは銃を警戒するようになったようだ。


ジャクリン 「……ひとつ教えてもらえるか? 先程私は全力で走ったのだが、お前を捕らえられなかった。魔力で身体強化している私が、魔なしのお前をだ。お前が魔導具で小細工を弄したとしてもそんなのは関係ない。お前が何をしようと、本来なら余裕で弄ぶ事ができるくらいの圧倒的な差があったはずなのだ。それなのに逃げられた…なぜだ?」


クレイ 「僕も、叔母さんほどじゃないけど、少しは身体強化しているからだよ。言ったろ、僕はただ家に引きこもっていたわけじゃない、ずっと魔法陣の研究をしていたんだ」


ジャクリン 「魔なしのお前が身体強化? いや、魔導具の力を使って身体強化したというところか」


クレイは靴にも魔法陣を描き魔石を取り付けて魔導具化していた。だが、靴だけでは走力を高めるのにも限界があり、ジャクリンの身体強化魔法には及ばなかったので、ギリギリの追走劇となってしまったのだ。とはいえ、ジャクリンの言う通り、もし何の強化も指定ない状態で走って逃げようとしたら、あっと言う間に捕まってしまったであろう。


ジャクリン 「それにしても、もう一つ疑問がある。先程から妙に効果の高い魔導具ばかりだ、全て改良したと言うのか? お前が?」


クレイ 「そうだよ。さっきの魔導銃は書庫の奥にあったのを流用させてもらってるけど、これ・・は自分で作った」


ジャクリン 「…そういえば、祖父がそんな研究をしていた記憶がある。だが…まさか、お前は祖父の研究を完成させたというのか?!


クレイ 「だからそうだってずっと言ってるのに…やっと話を聞いてくれたか…。


ジャクリン 「なるほど、ただ引きこもっていたわけではないというわけか…」


クレイ 「分かってくれたなら、帰ってくれませんか?」


銃口をやや下げながらクレイが言うが…


ジャクリン 「甘いなぁ、自分を殺しにきている相手を前にして。殺せるチャンスがあるなら迷わず殺らなければ、命がいくつあっても足りんぞ?


まぁどっちにせよここで終わるから同じか。私は一度殺すと決めたら最後までやる。魔導具の研究などどうでもいい。魔なしの存在は、ヴァレット家には害悪でしかないのだから…」


再びのジャクリンの殺気。その目には狂気が混ざっているように見えた。慌ててクレイは銃を構え直す。


クレイ 「動くな!」


ジャクリン 「そんなモノで本当に私が殺せるかな? いいだろう、お前の魔導具が勝つか、私の身体強化が勝つか、勝負だ!」


ジャクリンが窓枠に足を掛けて乗り越えようとしてきたので、やむを得ずクレイは引き金を引いた。


パンと乾いた銃声がする。弾丸はジャクリンの胴体へ命中。ジャクリンがヨロヨロと二歩ほど後ろへ後退る。だが、ジャクリンは倒れる事はなく、ニヤリと笑った。


よく見れば、銃弾はジャクリンの体表で止まっていた。突き刺さって血が流れ出してはいるものの、まだ弾丸が見えている。傷は浅く、致命傷には程遠い事はひと目で分かった。


目を見開き、言葉がないクレイ。


本気で殺傷力を高めるべく開発していた銃である。魔莢の爆発の魔法陣を強化しただけでなく、それを六重にも重ね掛けし、銃が壊れる限界まで爆発力を高めてある。銃弾も質量をできるだけ増やし貫通力のある尖った形状にしてあった。計算では、いかに魔力で強化された肉体であろうと打ち抜けるはずだった。


クレイ 「…それほどとは…化け物かよ」


ジャクリン 「残念だったな」


実は、ジャクリンは魔力による筋力の強化を一時中止し、魔力を障壁を作ることに回して防いだのだ。魔力を体表に纏い、鎧と化す技であるが、クレイは魔法の使い方にはあまり詳しくなかったので、この時点では違いがよく分かっていなかったのだが。


ジャクリン 「だが…少しは効いたぞ。ちょっと、いや、かなり痛かった…


…だが! 私に傷を追わせたのは褒めてやるが、そこまでだ。仕留められなかった時点でお前の負けだ!」


クレイ 「あ、効いてるんだ? じゃぁもう何発か撃ち込んだら勝てるかな?」


ジャクリン 「え?」


クレイ 「言ってなかったけ? これ、六連発なんだけど」


地球のリボルバーをイメージして作ったその銃は、回転する弾倉に六発、弾丸が入っているのである。


ジャクリン 「ちょ、待て! うっ!」


パンパンパンと連続して撃つクレイ。


ジャクリンは必死で体の前面に魔力の鎧を作り出し耐えたが、痛みに表情かおが歪む。弾丸は、貫通こそさせていないものの、体に突き刺さってかなりの衝撃と痛みがあるのだ。


そして、クレイが六発全て撃ち尽くす。


全弾胴体に命中している。


頭を狙ったら倒せていたかも知れないが、少し距離があったので命中させる自信がなく、面積の大きい場所を狙うしかなかったのだ。


銃弾を受けたジャクリンの胴体の表面から血が流れている。だが、結局、弾丸は全て体表で止まっており、致命傷を与えるには至っていなかった。


ジャクリン 「…ふうっ……、どうやら終わりか?」


そう言うジャクリンも余裕があるわけではない表情であったが。


クレイ 「同じ場所に撃ち込めばどうにかなるかなと思ったんだけど、結局当たらなかったか…」


ジャクリン 「ふ、ん……澄ました顔をしているが、内心では焦っているのではないか? その武器は、もう使えないんだろ?」


クレイ 「ああ、弾切れだね」


ジャクリン 「魔なしが魔導具の力を借りたとは言え、よくやったよ、褒めてやる。だが、これでもう終わりに…え?」


クレイ 「まだあったりして」


クレイは先程の六連発銃を置くと、今度は別の武器を手に取った。それは、先程の拳銃とは違い筒の部分が非常に長くなっている。地球でいうところのライフルである。


クレイ 「あともう一発だけあるんだ。もう本当にこれが最後だけど。これ、まだテストしてないから、できたら使いたくなかったんだけどねぇ。もし不発だったら、もうほんとにお手上げだし…」


それを聞いてニヤリと笑うジャクリン。魔力はまだかなり残っている。あと一発だけと分かっているなら、十分耐えられるだろう。


鎧化に魔力を全て注いでいるため、ジャクリンは身体強化されておらず、先程のように高速では動けない。そのため、クレイの攻撃を防ぎきってから反撃に移るつもりであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


クレイは恐ろしい子のようです


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る