第22話うねり①⑦


「ふぅーーひと段落か。全員怪我を負った者はいないか?」


「俺は少し」


「私は無いです」


「無傷」


口々に大丈夫だと答えるが栞を除いた全員に擦り傷程度の怪我はあった。

普通にハンターとして過ごすのならどれだけ一度に多くのモンスターを相手取ると言っても数十が精々。3桁に届く事はまずない。

 それが万の軍勢を相手取りつつ逃げるという器用な事をしていたのだ。怪我をするのが寧ろ当たり前とも言える。

 だが私の自慢の娘は無傷だな!!!


「さて拠点を作るぞ!栞は亜空間バックの中から資材を出してテントを建てろ。広めの場所が空いていたとはいえ体育館ほどの大きさはない崖から距離を取って建てろよ?」


「分かりましたよ!」


「私はそうだな……崖を目の前にして蹈鞴を踏んでいるモンスターの処理に向かうとする」


そう言い残し私は崖を飛び降りた。

既に魔力を集め魔法を構築していた為着地したと同時に両手を地面に触れて発動させる。


「泥の遊泳


土と水の合体技

地味だが効果範囲は最大でキロをゆうに超える。

足を取られたモンスターは転ぶ。

頭を地面に擦り付ける結果になる。

だがそのまま終わらず頭も地面の中へ沈んでいく。


「コンクリートだと発動しないからな。楽で助かる拘束手段だ」


耳飾りを千罰に変えて地面に突き刺す。

これだけで魔法を行使する手順となる。


「圧政敷く愚王の遺言!!」


上空から降るその圧力は目の前にいる動こうと足掻くモンスターをただの肉塊へと変えてしまう。

まさに圧政の魔法。


極論ただの魔力による圧殺

だが私にはとても使い易い魔法でとても気に入っている。


「よしこれなら大丈夫だな」


生きているモンスターがいない事を確認すると発動の早い結界魔法を発動させる。

そしてそこから特殊な能力を付与して強度を上げ、常に回復する効果を与えた。


「戻るか」


身体能力を強化すると私はその場で大きく跳んだ。

次の瞬間には崖上に到着している。


「魔法……に魔力を変化させる事なく魔力による純粋な圧殺???」


「やっぱお母さんの技凄いね」


「技と言っていいか分からん内容だがな!これは言うならばただの魔力を物理として押し付けて潰す行為だ。

 実質ただの魔力放出と変わらん。まぁ、多少の体裁は整えているから技として成立しているがな」


自分のコンプレックスを晒すのは少し気恥ずかしいな。

私はどれだけ【魔法】を使えるのかと問われればどれだけ得意な属性でも人間の基準に当てはまるとCランク程度にしかならない。

他は大体D程度。

だから魔力の多さによる出力の暴力だけで何としている。俗に言う「メ◯ではないメ◯ゾ◯マだ」とというやつだ。


「それよりテントは……早いなもう出来ている」


「元々簡易的なテントだったからね。足りない強度の所は私達で直接補強するパーツを組み込んだの」


「はーーーこのテントを考えた奴は天才か?今度田舎の方に行ってキャンプでもするかぁ」


「それよりも目の前のダンジョン攻略しないとだけどね」


「言うなっ」


軽めの軽口を交わす。


「一応軽く会議をするぞ集まれ」


私がそう告げれば即座に集まった。

実力で勝ち取る信頼、信用は早くていい。


「私と栞、そして桐谷でボスの偵察に行く。お前達には……これを渡しておく」


亜空間指輪からデカい入れ物を取り出すとその中のから更に眼鏡を人数分取り出した。


「ボスがいる位置はここから約2キロ、それを使えば2キロという距離でも良く観察する事が出来る。

 一応距離の調整と出来るから適当に弄って確かめろ」


「これ製作者が不明の世界型ダンジョンで重宝されている魔導具?!?!しかも人数分?!

 失礼は承知でお伺いします!これはどこで手に入れましたか!私が所属しているギルドは事情によりこれが不足していまして!」


「私も!聞きたい!!」


AランクとBランクの2人はこれの重要性が身に染みているのかやや取り乱して聞いてきた。


「それは私が作った。暇過ぎてお小遣い稼ぎごっこをしていた時期があってなその時にかなり量産したが?」


「「貴女だったかぁぁ!!!!」」


嬉しみの混じった絶叫

あまりにもダンジョン内には相応しくない。

高ランクかつ世界型のダンジョンを経験しているからこそ分かる遠くを見れる道具のありがたみ。

しかも嵩張らない。

最高だと2人は判断する。


「こここ、こんな時に失礼は重々承知します!ですがどうが私達のギルドに卸して頂けないでしょうかぁあ!!」


「戦神戦姫ギルドの野々上からもお願いします!」


「まー待て落ち着け馬鹿共!このダンジョンを攻略したら望みの数だけ卸してやるから今はその嬌声にも似た声を出すのはやめろ!!

 何か嫌だ!!」


私の全力の否定が届いたのか2人は渋々テンションを落とした。

だが目を見ればまだ爛々と輝いている。


これは……亜空間バックを作った事も内緒にしなければ付き纏われるっ!!


「あっお母さん亜空間バックも1つずつくらい作ってあげたら?」


栞ぃいいいいいいい!!!!!

何を言ってるんだそんな事を伝えたら……あ、やばい


「ちょっこっち来るな!!栞助け────」


助けを求めようと栞に顔を向けた。

しかしその目は笑っていた

まさか……まさか!


まだ1ヶ月前プリン勝手に食べ事まだ怒ってたぁあああ!!


「やり返さないとは……言ってないよね」


「今ダンジョンんんんん!!!」

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