第6話

 町を掛けて長屋まで突っ走って行くと助左とトリが玉蹴りをしていたので膝から崩れた。なんだよ。

「竜~遅かったねぇ」

 俺を見つけて飛びついて来てよじ登る。

 

「ああ、ちょっと仕事先でな」

 トリの体温を感じで心なしかホッとしている自分がいる。なんの欲も打算もない純粋な子供の温もりが今は愛しい。


「し・ご・と・で・ねぇ?」

 テメェは何も知らんだろう?いや常盤屋に行ったのは知ってるか。

 助左は少し右の口角を上げて笑っている。本当ムカづく野郎だ。

 女達といる時はいつも適度に笑ってるが目が一切笑っていねぇ。


 多分俺と同じで女に辟易しているタイプだっていうのにな。精神的に自傷行為でもしてるのか?


「テメェの仕事よりは有意義な仕事だったぜ?」

「ふ~ん。俺の仕事は女達の旦那や情人のしょうもないネタが入って来てたまに面白いけどな?」

「そのネタで金でも引っ張るのか?」

 なんだ、ただのクソ野郎じゃねぇか。

 

「脅しなんて面倒なことはしない。銀時たちに役立ちそうなネタは流すがあとはただの娯楽だ。まぁ大抵は旦那の竿が役立たずだとかだよ」

「テメェは!トリにそんな話聞かせんじゃねぇ!!」

 助左を蹴り飛ばすとトリも真似をする。

「じゃねぇよ!」

 あはは、と笑って軽く蹴りをゲシゲシしている。

「どっちの教育が悪いんだかな?」


 銀時達に役立つネタってのは裏関係だな。お前一体何やってんだよ。


「今日は蕎麦が食いたい。竜、奢ってくれ」

「何で俺がテメェに奢んなきゃいけねぇんだよ!とっとと女んとこ行って来な」

 図々しい野郎め!って怒鳴ったらニヤッとトリを抱き上げる。


「ひどいな。今日は竜が予定より遅くなって居なかったから俺はせっかく訪ねてきた金持ちのおかみさんをお断りしたって言うのにな?」

「あのおばさんって金持ちだったの?残念な事したねぇ!」

 俺のトリがスレてる。

 そりゃ普段が任侠の家住まいで茶屋の蘇芳のとこに入り浸ってるんだ。分かっちゃいるけど世知辛ぇ。おっさんと姐さん達に囲まれてるんだ。仕方ねぇ。


「トリ、竜は今日とっても美人なお姉さんと会ってたんだ。俺たち置いて狡いよな?」

「え~。竜が女と逢引き?無いよ!助左が毎日盛ってるのは知ってるけど竜は不能なんだって!」

 あ“?ちょっと待て。なんだ、その不名誉な話は!


 助左が引っ越して来てから今までで一番爆笑している。

「トリ!!誰がそんなこと!!」

 キョトンとして見てきたけど捨ておけないぞ?

「ええ~廓の姐さん達が竜が全然誘いに乗ってくれないからもしかして病気か何かかしら?とか言ってて。したら蘇芳が竜は不能だから誘ってやんなしとか言ってたの」


 クソッタレの女どもめ!化粧濃すぎの誰でも彼でも誘うやつなんか相手にせんわ!!

 誘われるのが減ってホッとしてたが裏で不能説が流れてるなんて!!

 蘇芳め!もっとマシな言い訳があっただろうが!

 しかもトリになんて事教えてんだよ。しかもトリに不能だと言われたこのやるせなさ。


 別に誘われなくて済むなら不能でも良いかも知れんが、何かやっぱり嫌だ。まだまだ使えるわ!!!


「トリ、その言葉は男に向かって言ったらいけない。わかったか?」


「はーい」


 素直でよろしい。

 後ろで笑っている助左はそのうち仕返ししてやる。


「蕎麦屋行くぞ」

 トリのお守り代なら蘇芳か銀時に言えやって思うがもうメシ作る気力もないわ。


 不能って言い出した蘇芳もいつか絶対意趣返ししてやっからな。

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