第8話 ビッグトレード

 ヴァルが新たにダンジョンに加わったことでダンジョンにはSランクの魔物が2体で200DP、魔水晶が3つで300DPをヴァルの王スキルで1.5倍で450DPの合計650DPを毎日稼げるようになった。これに加えて魔結晶やダンジョン内で魔物を倒すなどして1日800DP以上を余裕で稼ぎ出す序盤にしてはかなりの高効率のダンジョン運営が可能になった。


「とはいえ、ヴァルがダンジョンリーグ不参加宣言をしてるから戦力はルイスとBランクのキャノンダイルとコピースライムに無数のDランクか。ルイスは開幕1ヶ月は万全じゃないしダンジョンリーグに参加できる魔物の数は30体までって決まってるから他のダンジョンもDランクがいっぱいいるとなると戦力的には全力でやっても厳しそうだな。」


 ダンジョンの戦力を計算しながらつぶやく。ルイスは強みである再生能力をダンジョン発展のために使ってしまっているため現時点ですでにシーズン序盤は全力で挑めないことが確定している。


「あんた、そんなことよりこの増えすぎた魔物の対策考えなさいよ。あたし1人じゃこの数は管理できないわよ。」


 まあ、正直戦力はどうにでもなるのだ。なぜなら、Sランクの魔物が2体に増え魔水晶が3つになったことで1層辺りに生まれる魔物は6~7体。これが3層分なので毎日最低18体のスケルトンが新たに生まれるのだ。これに毎日倒されたスケルトンが復活するとなると大部屋だろうと拡張しないといけなくなる。しかも、これにヴァルが来たことで新たにゴブリンがダンジョンに生まれるようになった。こちらも階層辺りに同じだけ毎日増える。


「初日に生まれた子供ゴブリンがついに子供産めるようになったって?そろそろゴブリンも本格的に間引かないとやばいか。」


 ヴァルが来てから1週間、子供だったゴブリンが親になるまでに成長した。ゴブリンはメスが3匹に1匹の比率でしか生まれないためオスは男女比分間引いてきたのだが子供たちは今までその対象から外してきた。そして、ゴブリンは毎日子供を産む。結果、メスが毎日新たに6体増え子供はメス分増えると数の伸びがすごいことになる予兆がある。


「ちなみに採掘場に湧いたオスゴブリンとスケルトンは間引きの対象にならずにヴァルが採掘の労働力にしてるわ。」


 どうやらメスはルイスが回収しているらしいがオスはどうせ殺すなら使わせろとヴァルに受け渡しを拒まれたらしい。ヴァルとしてもメスがいると採掘より子作りを優先するらしいので邪魔なようだ。


「それで採掘場にどれくらいの魔物がいるかわからない。だから、こっちで確認してくれと。」


 現状、最下層にはルイスのボス部屋にヴァルの工房、採掘用の中部屋にゴブリン隔離用の大部屋とスライム、グロウウィードの繁殖用の大部屋とヴァルの工房を除いた4部屋に新たに魔物が湧くようになっている。部屋のサイズも他より小さい採掘場は魔物の湧く確率が高くは無いのだが1日に12体以上の魔物が新たに生まれるためいくつかはそちらに行ってしまう。


「採掘部屋にいるのはゴブリン5にスケルトン7だな。すでにだいぶキャパが埋まってきてるな。」


 部屋の様子を確認して俺がつぶやく。


「ありがとう。それなら近いうちに全部引き渡すようになりそうね。それと気付いてると思うけどちょうど今最初のスケルトンがスケルトンウォリアーに進化したわ。もう1体も時間の問題ね。」


 ルイスに初日から育成を依頼していたうちの1体がついにCランクのスケルトンウォリアーに進化したらしい。となると同じように育てられてきたもう1体も今日中に進化するだろう。


「ヴァルが武器を作ってから他のスケルトンを倒す効率も上がったしな。弓の方も開幕までには余裕で進化してそうだな。これからもよろしく頼む。」


 ヴァルが来てから武器を作れるようになったので育てるスケルトンにも近距離型、遠距離型とバリエーションを持たせられるようになった。スケルトンだけで戦術に幅を持たせられることは非常に大きい。


「任せなさい。」


 ルイスは胸を張ってダンジョンに戻っていく。




 ルイスが戻ってしばらくして通話が入る。エントランスで手に入れた水晶玉には通信機能も付いており、他のダンジョンマスターと直接会わなくても会話ができるようになっていた。今まで使ったことは無かったが。


「初めまして、炎のマスター。俺に何の用件かな?」


 突然の通話相手に驚きはしたがシーズン開幕まであと半月。何かしらの交渉なことは想像に難くなかった。


「初めましてね、創のマスター。突然だけどあなたのAランクのカード、わたしにくれないかしら?」


 炎のマスターはいきなりそんなことを言い放った。


「それはAランクのカード同士の交換ってことでいいのか?悪いけど俺は別にAランクのカードは集めてないんでね。他を当たってくれ。」


 Aランクのカードのトレードの話にしてはだいぶ遅いと思いながら断りを入れる。ダンジョンの主力であるAランクの魔物を今まで手に入れられて無いとしたら焦って他のマスター全員に交渉を持ちかけても不思議では無い。


「違うわ。あなたのカードをわたしによこしなさいって話よ。報酬はそうね、来シーズンまでにBランクのカード3枚渡すわ。」


 これで交換できて当然のように自信満々に炎のマスターの少女は言う。


「それじゃ等価交換でも無ければ俺にメリットが1ミリも無いんでけど。それでなぜトレードできると思ったんだ?」


 100歩譲って逆なら理解できる。Bランク3枚を要求して将来のAランクを約束する。ポイント的には損をしているがその分シーズンに勝ち越せばその分は取り返せる。


「え?わたしの子分になれるのよ。光栄じゃない。ここであなたがAランクのカードをくれればわたしはAランクが2体揃って優勝間違いなし。うまくトレードが進んでいないあなたはその甘い汁を吸える。トレード負け犬なあなたに手を差し伸べてあげるわたしに感謝しなさい。」


 どうやら俺のトレードがうまくいっていないという情報を見つけてこの条件でもいけると判断したようだ。最近、何人かにゴブリンを使ってCランクのカードを要求するトレード依頼を何人かにメールで送っていたのでその辺が情報源だろう。よっぽど切羽詰まってるように見えたのだろう。


「悪いけど損をしてまでトレードをするつもりはないんだ。Aランクをトレードするにしてもそれなりの条件は必要だな。」


 別に損が無ければトレードそのものは構わないと言う意思表示をする。


「じゃあ、わたしが優勝したらAランクカード1枚あげるわ。まあ、わたしが優勝しない未来なんてあり得ないけど。」


 少女はよっぽど優勝に自信があるようだ。言葉と裏腹に条件をつけるのはトレードが履行できない可能性を恐れてのことだ。期限までにトレードの要求をクリアできなかった場合のペナルティは自身のダンジョンの魔物1体だ。その中にはSランクの魔物も含まれる。


「リスクがでかすぎるな。そのトレードは呑めない。」


 こうなるのは当然ではあるが。


「じゃあ、何ならいいのよ?行っとくけど、あなたに支払えるカードなんて1枚も持ってないわよ。」


 じゃあ、なんでそんな自信満々にトレードを仕掛けてきたのかって話だがそれで成立すると本気で思っているのだろう。そして、おそらくだが他で同じようなことをして失敗してるに違いない。


「対価を今払わなくていいトレードか。では、次のドラフトの指名権と君がプレーオフに進出した場合にBランクのカード1枚。君がこのトレードがきっかけで優勝するならこれくらいは余裕で稼げるはずだろう?。」


 このトレードは準優勝以上なら炎のマスターにデメリットは無い。ドラフトの指名権も優勝するつもりならめぼしいカードは既に取られた後の可能性が高い。同じAランクでも下手をすれば単純な炎のカード1枚の方が強い場合もあるくらいだ。逆に炎のマスターからしたらカードの前借りである。暗にAランクのカードを渡すのだからそれくらいの活躍はできて当然だよねというメッセージも含まれている。


「言うじゃない。だいぶ傲慢な条件だけど、その条件乗ってあげる。」

「トレード成立だ。」


こうしてリーグを揺るがすビッグトレードは成立したのだった。

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